何事もシェア100%になることはありえない。モビリティは20世紀初頭に馬車から内燃機関の自動車へと置き換わった。いま内燃機関はEVなど電動車に代わるかどうかの岐路にあるが、すっかりなくなったと思われた馬車も観光や儀式用に細々ながら残っている。電動車だって20世紀初頭に内燃機関との競争にいったん敗れ、カートやフォークリフトなど業務用車両に主戦場を移して生き残り、ここに来てまた復活している。いま内燃機関は不利な状況だが、電動車だって万能な訳ではない。内燃機関が無くなることはない。
似たような例にフィルムカメラがある。2000年代にデジカメが急速に普及し、さらに携帯電話にカメラが付き、スマホになってカメラ性能が急激に向上したことで、フィルムカメラは市場から淘汰された。。。と思ったら、世界中で若者を中心にインスタントカメラが人気を博しており、先日富士フイルムがインスタントカメラ用フィルムの生産能力を上げるために神奈川県の工場で生産設備の増強を実施した。フィルムカメラのシェアは全カメラのなかで数パーセント、下手すると1.0%以下かもしれないが生き残っていることに違いはない。
どんな優れた技術や製品も、いつでもどこでも誰にでも最適な訳ではなく、そこは必ず状況に応じた使い分けがなされる。特に多様性が尊重される世の中になり、要望が細分化していくにしたがい、寡占・独占は難しくなっていく。ひとつに依存しないリスク分散は昔から当たり前のように行われてきた。しかし世に溢れる情報の多くはそうした状況を無視し、ゼロかイチ、勝ちか負けのように構図を単純化し、その上、説明不足なことが多い。二元論は論理が分かりやすく、メッセージ性が強い。そのため情報を受け取る側がその背景をきちんと見極めないと多くの誤解と衝突が生まれ、それによって疲弊して無駄なエネルギーを消費する。最近は「あれはダメだ」「これはなくなる」「時代遅れで取って代わられる」という論調が溢れているが、そうした強い言葉に惑わされてはいけない。自社の製品が求められる市場を探し当て、そこをがっちり握ることこそ重要だ。