サーボモータの市場が一時期の納期遅延などの問題が解消されたことで、安定した需要で推移している。旺盛な需要先であった半導体製造装置や工作機械向けは一服したものの、ロボット向けなどは依然旺盛な需要が継続している。サーボモータ各社の部品調達も正常に戻りつつあり、生産体制も計画通りに進捗している。サーボモータの製品傾向は、高分解能化と高速・高精度制御、高トルク化、調整作業の簡素化、省配線化、安全対策などを中心に取り組まれている。
日本電機工業会(JEMA)がまとめている生産統計によると、2022年度(22年4月~23年3月)のサーボモータの生産額は、前年度比107・7%の1179億円3400万円、サーボアンプは同108・0%の1121億7700万円で、合わせて2301億1100万円になっている。22年度はコロナ禍などで部品生産が滞り、計画通りの生産ができなかったが、月ベースで170億円~200億円で推移し2000億円を突破した。
23年度は、サーボモータが同102・9%の1213億円9400万円、サーボアンプが同102・9%の1154億6800万円で合わせて2368億6200万円の見通しを立てている。22年度は受注残分の生産も加わり2桁に近い伸びを示したが、23年度は受注残が減少していることから、実需中心の生産が見込まれ慎重な伸びを計画している。
JEMAの23年度上期(4-9月)のサーボモータ(アンプを含む)出荷実績は1051億7500万円で前年同期比100%となっている。ただ、上期の月別では6月までは前年同期を上回っていたが、7月以降は下回っている。前年同期の出荷が異常に高かったことに加え、半導体製造装置や工作機械の需要停滞が影響を与えているものと思われる。
サーボモータの主力需要先であるロボットは、サーボモータとセンサで構成されているとも言えるほどサーボモータの大きな市場で、ロボットの伸長率とサーボモータの伸長率はほぼ比例する。ロボットがサーボモータの市場拡大の牽引役として果たす役割は大きい。ロボットは慢性的な人手不足から代替え手段として期待されており、人と協働で動くロボットの開発も盛んだ。加えて、自動機やロボットででしかない作れないものも増えており、自動化投資が進んでいる。用途も工場での作業用や物流分野、非製造業でもホテルでの案内サービスや外食産業の人手補完用、警備や清掃などといった幅広い用途で採用が進みつつある。コロナ禍での感染リスクを避けるための需要も出始めている。
サーボモータ各社は、使いやすさに重点を置いた製品開発を進めている。複雑な制御調整が簡単にできるオートチューニング機能、機械の振動を抑えながら短時間で位置決めを行う制振制御技術、作業の安全を確保するセーフティ制御技術、さらに効率的な生産を進めるネットワーク化対応などが開発のポイントとなっている。
オートチューニングでは、機械の負荷変動や剛性に応じて安定した制御の実現を簡単にできる方法を各社が独自に開発している。制振制御技術ではアーム先端の振動に加え、装置本体の残留振動も抑制できる低周波抑制アルゴリズムを搭載し、さらなる高精度調整を可能にしている。
高速化では、速度周波数応答3・5kHz、26ビットロータリーエンコーダの標準搭載で、6700万パルス/回転を超える高分解能製品もラインアップされてきており、位置決め整定時間を大幅に短縮し、高精度な位置決めや微細加工を可能にしている。整定時間を短縮することは、業務の効率化につながり、機械・システムの生産性が向上する。
また、サーボモータの制御に関しては、指令応答特性を高めるフィードフォワード機能(FF機能)と、外乱抑制特性を高めるフィードバック制御(FB制御)があるが、FF制御とFB制御を完全に分離して制御を行うことができる、2自由度制御方式を搭載したサーボモータも使われている。両制御を完全に分離することで、より高速・高精度なモータ制御が実現する。例えば電子部品実装機では、部品搭載ヘッドの振動を抑えた高速実装タクトの実現や、金属加工機では、摩擦や粘性の影響を少なくし、切断面を滑らかにするといった高精度な加工が実現できる。さらに、1台のアンプで最大3台(3軸)のサーボモータができる機種も評価が高まっている。
最近注目されているのは、アンプの診断機能を使ったサーボモータの予知診断機能である。サーボモータの稼働時間などを計測して、故障などを予知することで稼働停止などに伴うトラブルを未然に防止することにつながる。
そのほか、小型化の一環として動力と信号をひとつのコネクタで接続できるようにすることで、コネクタのスペース削減し、コンパクト化を実現している。
小型・軽量化では、サーボドライブが必要とするトルクを直接供給するダイレクトドライブ(DD)モータも注目されている。DDモータは、減速機、ベルトなどの中間機構を介さずにモータと機械を直接接合し、動力・動作を伝えることができることから、薄型・コンパクト化でシンプル構造が可能になる。減速機などを使用しないことで特に低速での駆動が安定していることや、減速機の歯車から発生する微振動や音も無くなり、静かで周囲環境にも優しい。当然ながら、減速機などのメカ機構がないことで摩耗や歯車の噛み合わせずれによる位置精度誤差や故障の発生といったトラブルの要因も減らせることになり、メンテナンス作業の軽減、低コストや省資源というメリットにもつながる。最近注目の2軸一体型DDモータでは、モータ中央部に2つの独立した回転軸を持たせることで別々の動作を同時に行うことが可能になり、ロボットハンドリングなどに有効だ。2軸のアンプを使用すれば制御盤のコンパクト化も図れる。
リニアサーボモータの動向も注目されている。回転型サーボモータとボールねじとの組み合わせに比べ、推力が大きく、短ストローク移動で加減速の繰り返しなどに強みを発揮できる。特に、小型で速い動きが求められている機械などに最適である。リニアサーボモータでは、高ショット往復運転のリニアアクチュエータが半導体テストハンドラ装置などによく使用されているが、新たにZ軸制御できるようにした開発も進んでいる。
今後のサーボモータの利用領域を拡大するうえでモータがセンサの役割を果たしながら、機械装置内の様々なデータを検出しながら同期していくことが重要になってきている。工場の生産ラインに携わる人が減少するなかで、装置の状態、サーボモータの動作や稼働状態を常時把握して、異常検知や突発的な故障や停止を防ぐことは「止まらない工場」を実現するうえでも大きな鍵になる。
また、サーボモータをつなぐモーションネットワークの重要性も増している。とくにサーボモータとつながるエンコーダとの通信線に各種センサやI/O機器など接続することで、省配線化とエンコーダと同期したセンサデータの収集も可能にする動きも出ている。エンコーダとの通信方式もサーボモータ各社で異なった規格を使用しているが、通信方式はリニアエンコーダでは公開しているが、ロータリーエンコーダでは原則非公開となっている。
セーフティへの対応も進んでいる。メンテナンスや段取り替えなどの通常運転以外の作業でも効率も上げるために、機械装置を止めないで、安全に動かしながら作業することも必要になっている。そこで重要になるのはセーフティシステムへの対応だ、サーボモータに関連する規格として、ISO13849-1、IE C61508シリーズ、IEC62061、IEC60204-1、IEC61800-5-2などがあるが、このうちIEC60204-1は、機械の電気装置に関する要求事項を定めた規格で、停止の制御機能について定義されている。
可変速ドライブシステムの機能安全規格であるIEC61800-5-2への対応も行われている。安全規格への対応は特に、自動車製造関連の用途で求められることが多く、サーボモータ各社のほとんどが対応を行っており、最高安全認証レベル「PLe/SIL3」をクリアしている製品も多い。
このほか、厳しい環境下でも使用できるよう保護構造IP65などを標準採用したタイプや、IP67対応品も増えている。
低剛性への対応もポイントで、特に高速応答が必要なマシンボンダーや、低剛性メカニックを低振動で高速駆動したい取り出しロボット、多関節ロボットなどで重要視されている。
このところの円安基調や昨年までの部品調達難などの課題に対して、国内への生産回帰を含めたSCM(サプライチェ―ンマネジメント)の再構築の動きも目立ってきた。とくに海外の人件費も増加しており、国内での自動化生産の取り組みが強まりそうだ。