日本の製造業は弱くなったとか、まだ強い現場力があるとかをよく耳にする。その評価はどこから来るものなのか。ひとくくりにして言えるものではない。こと製造工場の強さに関して言えばその強さとは徹底したコスト管理と生産の効率化による生産性の向上である。戦後の高度成長期には需要は旺盛であったから工場には機械設備と人手がふえ続け、人件費は年々高騰した。’65年頃の大卒初任給は2万だったが年々上昇して25年経った’90年頃には20万になった。30年経ち初任給は上昇傾向にあるが大手企業や勢いのいいIT産業を除けば’90年頃に比べてはやや上昇にとどまっているようだ。初任給の伸びは社会の事情に依るところもあるが、給与の伸びは需要と生産性にリンクする。それにしても高度成長期の給与の伸びは年々著しい上昇であった。給与の伸びは生産力の拡大と生産効率向上の賜物であり、需要の伸びは生産力の強化によって賄われ、製造技術者や現場作業の活気は生産効率の向上に寄与した。
この様な’70年代の製造工場は自動機を積極的に取り入れて生産力を高め旺盛な需要を吸収する一方で高騰する人件費の削減を計った。旺盛な需要は続き、国内の経済に勢いがあったから工場の現場では製造技術者だけでなく現場作業者が生産性や品質向上を目指して小集団活動に積極的に取組んだ。小集団活動には活気あり、ちょっとした工夫や改善が一人一人から持ち上がり、それに必要となる製造治具や簡易省力機を製造技術課が作った。それに生産力の拡大はラインの増設をもたらしたから製造技術の人数はふえ続けた。中堅企業では省力設備や治具を作るための精機工場を一棟作って対応する工場があった。
この様な生産力、生産性、品質向上の輪の中にFAの販売員が入っていたため、工場内の現場の様子を知ることができた。したがってFA販売員の中には商品改造や開発依頼書を書くことができる者が少なくなかった。こうした製造工場とFA販売員の関係は平成の円高デフレ基調によって壊れた。量産でコスト対応型の向上を海外へ移したことにまで国内工場の増設は止まり、製造技術者の人数はかなり減少。そのためFA需要は高位横這い状態に入った。FA販売者は案件確保や競合取り換えに力を注ぎ、その営業力を商品知識習得によるコンサルティング強化に求めた。 その様な関係が販売員と製造現場の間で長いこと続いたため、いま販売員は自らが工場の様子や内情に暗くなっているのに気がつかなければならない。 現在の国内工場の多くは量産、コストを追及する大型設備を持った海外工場とは一線を画し、多種少量生産に切り換えている工場は多い。この様な日本の工場には昭和初期のような活気を醸し出す追い風が吹き出している。それは国際的な環境問題である。年々これがうるさくなり低コストを追及し、大量消費を良しとしてきた大量生産大量消費時代は終わりに向って行く。
その代わりに個性を表現する物が作られるからますます多様化が進み超多種で少量生産がふえていく。それを成し遂げるためAIやIT技術で一ヶ作りの自動化を理想としても製品コストとの兼ね合いで付加価値が取れる工場は希れだ。現実的に多くの中小企業はAIやIT技術を使ったライン構成よりもコンパクトラインや新しい発想で生産性向上や省力化を実施することになる。そこでは小集団活動や教育で多能工を作ってきた歴史のある日本の工場が有利になる。FA販売員はそこに着目し、もう少し現場の作業者の動きを知って顧客にプラスになる営業が必要になる。それが令和の顧客満足営業なのだ。