近年、「人手不足」「後継者不足」といったキーワードを目にしない日はありません。それは制御盤業界にとっても同じで、自動化ニーズは日々高まるものの、対応できる充分な人材を確保できている企業はほんのわずかです。
経営の後継者についても同様で、帝国データバンクの全国企業「後継者不在率」動向調査(2022年)によると、中小企業における後継者不在率は全国で57.2%となっています。多くの技術から構成される設備業界も例外ではありません。
その様な状況の中、工場の省力化自動化設備、ハード設計、板金加工から盤工事ソフト設計調整までを得意とする徳松システムは、1995年に設立後順調に業績を伸ばし、2015年には板金製缶事業を立ち上げ、制御盤において納期のネックとなっていた板金加工を内製化し、顧客希望納期に柔軟に対応できる体制を構築しています。また、創業から徳松システムをけん引してきた代表取締役の安宅宏憲氏は、業界経営者の中ではまだまだ若手とも言える58歳(2023年11月現在)。現状の体制に満足することなく、次世代にバトンを渡すために日々改革に取り組んでいます。長男でもある安宅大史朗氏も2017年に同社に入社し、営業・設計・人事など幅広い領域で研鑽を積んでいます。安宅大史朗氏に業界の魅力と今後の展望について伺いました。
父親の背中を追って設備業界へ飛び込む
――徳松システムに入社するまでの経緯を教えてください。
実は父の仕事を継ぐという発想は元々もっておらず、設備業界の魅力も就職を考えるまで理解できていませんでした。小さい頃は周囲に勧められるがまま、関西学院大学付属小学校に入学し、そこで野球と出会いました。中学ではキャッチャーとして関西学院中等部野球部初の地区優勝を経験し、高等部では1年時にスタンドからの応援でしたが、甲子園出場という貴重な経験もしました。怪我に悩まされ、悔しい経験もしましたが、野球を通じて学んだ「努力すること」「協調すること」などは今の仕事にも活きています。
高校時代の同級生は、ほぼ全員内部進学で関西学院大学に進みましたが、敷かれたレールの上を進むのは性分にあわず、地元大阪からも離れた、山梨県都留市にある公立大学「都留文科大学」に進学しました。同期の友人は教員や公務員の道を進む人が多く、文系大学なので当たり前ではありますが、エンジニアを目指す人は皆無といってよいほどです。私自身、大学3年になり将来の進路を考える時期になっても、エンジニアになる選択肢や、父の会社を継ぐという選択肢はありませんでした。しかし、就活を進めていく中で、自分に向いている仕事は何なのかと考えるうちに、「自分の半分は父親の遺伝子なので、同じ仕事をすれば50%以上の確率ではまるんじゃないか」という安易な考えのもと、父と同じ仕事に興味を持ち始めました。そして、調べれば調べるほど、設備業界の可能性の大きさに魅力を感じ、4年生の12月というぎりぎりの時期に他社の内定を辞退し、父の会社に入社することに決めました。
――入社後はどのような業務に就かれているのでしょうか?
あらゆる業務を経験しています。ソフト設計、ハード設計、実際の盤組付け業務といった技術的な業務はもちろん、顧客との折衝といった営業的な業務も担当しています。最近では業績拡大にあわせた採用業務も担当しており、ホームページの更新から採用支援会社の窓口、面接など、幅広い業務に対応しています。また、「三津屋LABO」という、制御盤製作・配線工事を担う業務の責任者も兼任しています。
設計力がある板金屋
――徳松システムの強みを教えてください。
一言でいうと「設計力がある板金屋さん」でしょうか?ソフトからハードまで一貫した設計力を基盤に持ちながら、板金加工や製缶、機内配線までを自社で完結できる能力を持っています。納期対応やコスト対応といった表面的なメリットを提供できるのはもちろん、顧客仕様をそのまま形にするだけではなく、目的に応じた技術面含めた対応が可能です。そのため、国内外の研究機関やプラントメーカー・装置メーカー、製造業のお客様と継続的なお取引をいただいております。制御盤にとどまらず、ロボットシステムの導入を含めた自動化設備も得意としています。
多くのFA機器メーカーとも緊密な連携を取り、納期対応含めて柔軟に対応ができる点も高い評価をいただいています。先日は短納期希望のインバータ制御盤のお話をいただき、受注から2週間程度で納品をすることができたことで、お客様にも非常に喜んでいただきました。
社長の息子としての苦労
――社長の長男という立場で思うところ
珍しい苗字なので、社内はもちろん顧客にも「安宅社長の息子さん?」とすぐにばれてしまいます。「次期社長」と勝手に思われてしまうことも多々ありますが、現在一切の肩書はありませんし、弊社自体社長以下はフラットな組織ですので、特別扱いされることもありません。一方で、後継者が課題となり事業売却や廃業などを選ぶ同業他社も多数見てきました。社長が立ち上げた会社でもあり、現在は社長の営業力や、ベテランメンバーの技術力に支えられている部分が多いため、少しでも早く事業全体を担える能力を身に着け、技術者としても経営者としても周囲に認められる存在にいち早くなりたいと考えています。
組織力の強化と新事業創出を目指す
――今後の抱負を教えてください
今後、私が目指すものは二つあります。一つは組織力の強化です。今は社長を始めとした創業メンバーの「個」の力が会社を支え、お客様に安定したサービスを提供できています。さらにこれからは、新しい「個」の力を育成しながらも、組織としてレベルアップし、「集団」の力で今まで以上に安定したサービスをお客様に提供できるような会社に磨いていきたいと考えています。
二つ目は、今の事業を大事にしながらも、新しい事業を構築していくことです。日々業務に従事する中で、この設備業界のありとあらゆる課題をひしひしと感じてきました。そのため、一つでも多く課題解決できる事業を行い、この業界の発展に貢献していきたいです。溢れる思いを、一つ一つ着実に実現させていきたいと考えています。
これまでも、業界でいち早く3DCADを導入したり、板金加工の内製化を進めたりするなど、攻めの経営を続けています。今後もAIの進展を含めて業界を取り巻く環境は大きく変わっていく中で、世の中の流れに敏感になりつつ、柔軟な経営を目指していきたいと考えています。