日本の製造業再起動(106)【提言】未来を失う日本の中小製造業『2024年になすべきこと』

筆者は12月14日、タイ・バンコクから帰国した。数日の短いビジネス出張であったが、出張期間中の気づきから2023年の総括として、日本の中小製造業の現状と課題を整理し、来年24年からの対応について考察していきたい。  

最初に結論を述べると、来年度の日本は『本格的なインフレ幕開けの年』となるであろう。30年以上にわたり、インフレを経験していない日本社会においては、インフレを恐れる声も多く存在するが、製造業にとってインフレは極めて好ましい状況である。 突然現れた円安を『悪い円安』と称し、日本を自虐的に捉える論調が語られているが、『インフレ』と『円安』は、日本製造業発展のエンジンであり『24年は、極めて明るい時代の幕開け』と予想できる。

その前に、23年の現状と課題について整理しておきたい。23年は、中国経済が失速し、日本経済に重大な影響が出始めた年であった。FANUC社をはじめ中国依存の高い企業では、中国経済衰退の逆風にさらされ、協力会社への発注が大幅に減少する事態がおきた。さらに、工作機械や建設機械などの業種では、不景気への突入の兆しが出ており、警戒感が増している。半導体関連では、一時の極端な品不足には安心感が出る一方で、異常な増産が一段落している。コロナ社会に発生したサプライチェーン毀損による異常増産体制も解消に向かった影響で、一部の中小製造業では急速な受注減少に見舞われており、経営難に陥る企業も発生している。23年を俯瞰的に総括すると『天気晴朗なれど波高し』の予想通りの結果であったが、中国の急速減速は予想を超える事態であり、日本への悪影響も危惧されるものの、ロボットメーカーなどでは、成長への強気の声が聞かれる。23年の大きなトピックスは「協働ロボット」の予想を超える普及である。FANUCや YASKAWAを始めとする日本のロボットメーカーが、協働ロボットに力を入れ始めており、業界界隈では協働ロボットの話題が沸騰している。数年先、協働ロボットを全く使用しない中小製造業があったとしたら、その会社は (人材不足のない)極めて恵まれた会社であるといえる。人手不足・人材不足の現実は、日本中の製造業を襲っており、この課題を解決しない限り中小製造業の存続は難しい。協働ロボットは、その打ち手の最有力手段と言える。また、協働ロボットの活用はDX化の切り札でもある。デジタル社会に向けた中小製造業の改革の中核に協働ロボットの活用が必須であることは疑う余地がない。

バンコクで視察した企業に話題を変えたい。 筆者が訪れた視察企業は、従業員1300人の精密板金企業である。台湾人のジョン社長が立ち上げた創業27年の若い企業である。10年前に台湾でIPOを果たしており、再三にわたり台湾のテレビや新聞で紹介されている急成長の注目企業である。 発注元もエアバスやアマゾンなど国際的大企業であり、膨大な受注をこなしている。 企業名は『ジンパオ』。アジア最大の精密板金企業であり、日本にはジンパオの規模を超える企業はない。規模のみならず、QCD(品質・コスト・納期)に優れ、多品種少量生産から量産に至る完璧な製造体制は圧巻である。今回の視察には、国内最大の精密板金企業である(株)ツガワの経営幹部3人が同行したが、日本とアジアの違いに直面し、大いなる刺激を受けていた。日本の中小製造業は、『現場が強い』『現場が優れている』が合言葉のように語られている。事実、優れた職人が努力し、優れた製品を作り出すのは日本の誇りである。これを自慢し、依存する日本の経営者は多いのは当然である。ところが、アジアでは全く事情が違う。ジンパオ社ジョン社長は、この日本の強みを『本当に羨ましい。タイでは望めないことだ』と話しつつ、「別の方法」を駆使し、日本を超える QCDを実現している現実は(良し悪しは別として)驚愕と学びに値する。「別の方法」とは、徹底的な自動化とソフト化の実現であり、デジタル化の徹底推進である。人材不足を補うために、素人でもできるモノづくりの仕組みを(デジタルを活用し)構築している。現場力を補うための『エンジニアリング力の強化』には青天井の経営投資を行っている。 加えて、最新設備導入の意思決定プロセスを最短にするため、日本大手では常識化している稟議制度はない。全てがTOPの決断で決まるので、幹部社員は常にTOPと情報を共有し、 TOPのスピーディーな決断ができる環境が、日常活動の中で出来上がっている。

筆者の視察中にジンパオ社TOPのジョン社長は、40台のTM社協働ロボットの導入を決定した。その目的は、品質検査の自動化である。協働ロボットによるレーザ溶接の導入も決定し、 徹底した自動化の推進が実現する。『アジアは遅れている』、『品質は劣っている』といった固定概念は捨てなくてはならない。アジアは止まっていない。24年にDX化と自動化推進を怠う中小製造業には、未来を失う悲劇が待ち受けている。

◆高木俊郎(たかぎ・としお)

株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。

電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。

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