出張先で仕事をし終えて次の場所に移動する際、私はしばしばというかいつもというか、何か軽い食べ物を口に入れたいと思うのです。その時どうするか…ですが、たいていの場合、駅ビルとか近くのスーパーに行ってその中にあるインストアベーカリー(店内工房)に行き、気に入ったおいしそうなパンを一つ(時々二つ)買って、電車の中で食べることが多いのです。同じスーパーのパン売り場に行けば、袋に入ったもっと値段の安いパンを売っているのですがそこには行きません。
そういうことを考えていた時にこのパンの事例は、これから中小の製造業が進むべき方向を考える例になると思ったのです。
スーパーのパン売り場に並んでいるたくさんのパンの多くは大手メーカーの商品です。生産性の高い大きな工場で造ったものを、トラックで運んできている大量生産品です。たくさんの種類のパンが袋に入った状態で並んでいて、値段も安いのですが、この移動の際に食べたいパンはその日一生懸命働いた私へのささやかなご褒美ですので、選びません。やはりインストアベーカリーのパンの方が魅力的だからです。
この大手メーカーに対して、中小メーカーが、少しでも生産性の高い設備を導入して作業訓練を行って大手メーカーと同じ商品を作っても勝ち目は薄いでしょう。しかしインストアベーカリーを始めたらば話は別だと思います。多品種少量でおいしいパンを店内で焼いて、出来立てをちょっとずつ出すのです。少々高くても売れるし、お客様の評価も生で聞いて、改良や新作に活かすこともできます。
これからの中小製造業は小型化を考えてみることもいいと思います。工場をショップとして出店できるまで人も設備も多能工化で小さくすれば、新たな商売が見えてくるかもしれません。
■著者プロフィール
【略歴】柿内幸夫 1951年東京生まれ。(株)柿内幸夫技術士事務所 所長としてモノづくりの改善を通じて、世界中で実践している。日本経団連の研修講師も務める。経済産業省先進技術マイスター(平成29年度)、柿内幸夫技術士事務所所長 改善コンサルタント、工学博士 技術士(経営工学)、多摩大学ビジネススクール客員教授、慶應義塾大学大学院ビジネススクール(KBS)特別招聘教授(2011~2016)、静岡大学客員教授。著書「カイゼン4.0-スタンフォード発 企業にイノベーションを起こす」、「儲かるメーカー 改善の急所〈101項〉」、「ちょこっと改善が企業を変える:大きな変革を実現する42のヒント」など。
一般社団法人日本カイゼンプロジェクト
改善の実行を通じて日本をさらに良くすることを目指し、2019年6月に設立。企業間ビジネスのマッチングから問題・課題へのソリューションの提供、新たな技術や素材への情報提供、それらの基礎となる企業間のワイワイガヤガヤなど勉強会、セミナー・ワークショップ、工場見学会、公開カイゼン指導会などを行っている。
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https://www.kaizenproject.jp