日本商工会議所と東京商工会議所は、「中小企業の人手不足、賃金・最低賃金に関する調査」を実施し、結果を公表した。調査は、全国47都道府県の中小企業6013社に対し、各地の商工会議所職員による訪問調査等で実施し、2988社(製造業955社)から回答を得たもの。製造業を含むあらゆる業種で人手不足にあるが、デジタルや機械、ロボット活用に取り組む企業は3割にも満たず。賃上げ実施にも対応しているが、離職を防ぐ防衛的な賃上げになっていることが分かった。
人手不足が深刻化 従来のやり方に固執する中小企業
人手不足について、人手が「不足している」と回答した企業は65.6%。前年同時期(64.3%)から1.3ポイント増加し、3社に2社が人手不足という厳しい状況が続いている。業種別では、建設業(78.9%)、運輸業(77.3%)、介護・看護業(76.9%)など人手に頼る業種では高め。製造業は全業界のなかでも最も低い57.8%だった。
人手不足への対応策について、「採用活動の強化(非正規社員含む)」と回答した企業が81.1%に達して8割を超えて最多となった。一方で、「事業のスリム化、ムダの排除、外注の活用」(39.1%)や、「女性・高齢者・外国人材など多様な人材の活躍推進」(37.3%) は4割弱にとどまり、さらに「デジタル・機械・ロボットの活用」は26.6%しかなく、「多様で柔軟な働き方の導入(テレワーク、副業・兼業)」(14.3%)、「過剰品質・過剰サービスの見直し」(10.7%)など、従来のやり方を変えていく意識は低く、現状維持に固執する姿が明らかになった。
賃上げ予定企業は増加するも、防衛的な賃上げ傾向
2024年度の賃上げについて、2024年度に「賃上げを実施予定」と回答した企業の割合は61.3%と6割を超えた。前々回調査の45.8%、前回調査の58.2%から年々増加し、賃上げに取り組む企業は着実に増えている。賃上げ実施予定の企業も、従業員数5人以下の企業では32.7%、6〜10人の企業で50.3%にとどまり、規模が小さい企業ほど賃上げ実施に慎重になっている。業種別では、賃上げ実施予定の企業は介護・看護業(66.7%)が最も多く、製造業が64.2%、建設業が63.4%で続いている。小売業(48.7%)や宿泊・飲食業(54.1%)など、BtoC企業は他の業種に比べて低くなっている。
また賃上げ実施企業でも、「業績が好調・改善しているための賃上げ」が39.7%、「業績の改善がみられないが賃上げ(防衛的な賃上げ)」が60.3%。防衛的な賃上げを実施する理由は、8割近い企業が「人材の確保・採用」(76.7%)とし、61.0%が「物価上昇への対応」。業績好調で賃上げというより、今ある人手を離さない、従業員の生活を守るための賃上げであり、賃上げといっても企業・労働者にとって好サイクルに入っているわけではなく、痛みをともなうものになっている、
賃上げをしない企業の理由については、「売上の低迷」(55.9%)が最も多く、「原材料費等のコスト負担増」(43.2%)、 「人件費の価格転嫁が難しいため」(33.3%)が続、原資の確保に向けたコスト面での課題を訴える回答が多くなっている。
最低賃金引き上げに対応も企業負担は大きく
2023年10月に最低賃金引上げ(全国加重平均43円、961円→1004円)があったことを受け、その対応をどうしたかについて、「最低賃金を下回ったため、賃金を引上げた」企業は38.4%と4割近くに上った。その一方で、人手不足や物価上昇が進むなか、「最低賃金を上回っていたが、賃金を引上げた」企業は29.8%となった。
最低賃金引上げは中小企業の経営にも影響を与え、介護・看護業(61.5%)、宿泊・飲食(58.7%)、小売業(54.1%)では特に大きな影響を受け、製造業は46.7%が影響を受けたとしている。その負担感について、現在の最低賃金は「(大いに・多少は)負担になっている」と回答した企業は65.7%と6割を超え、特に宿泊・飲食業(88.3%)、介護・看護業(79.4%)、小売業(78.2%)で特に負担感を強く感じ、製造業も73.9%と高めとなっている。
最低賃金引上げにともなう人件費の増加への対応について、「具体的な対応が取れず、収益を圧迫している」と回答した企業が26.2%あるが、一方で 「原材料費等増加分の製品・サービス価格への転嫁」(26.4%)、「人件費増加分の製品・サービス価格への転嫁」(25.1%)と価格転嫁による対応も同程度見られた。