機器部品販売店では主力に扱う商品によって販売マーケットが違っている。しかしそれらのマーケットは単独で存在するわけではない。各々のマーケットは他のマーケットと重なる部分がある。例えば事務機器、計測機、情報機器等々を作っている非動力系の機器メーカーに出入りするのは電子部品販売員である。
その機器メーカーの資材購買からは大概ね電子機構部品が発注されるが、時折電子機構部品に混じってPLCや近接、光電センサー等が電子部品販売店に発注されることがある。
本来、それらのFA機器は通常では現場の生産技術からFA機器の営業に発注される。これとは逆に生産技術からFA機器に混じって基板用リレーや短縮回路によく使われるディップスイッチ、コネクタ等の機構部品が発注されることがある。以上の例のように各々が電子機構部品のマーケットとFA機器のマーケットが重なっている部分がある。このように重なる部分は現状ではそれ程広い範囲ではない。それに継続して発注されないためにFA販売員も電子機構部品販売員もそれぞれの顧客が発注する商品を淡々と見積もり納入している。したがって顧客からの注文や案件に応じて動く販売員は顧客内部には様々なマーケットが存在することを知ろうとしない。本来扱い慣れない商品を受注したのなら、それは何故に注文になったのかを知ろうとするのは商人の性である。前途の例で言えばPLCやセンサ等のFA機器がなぜ電子部品販売員に発注されたのかを調べると設計者が新製品を設計する時に新製品製造工程の最終段階で使う検査装置まで製品設計者が手掛けることがある。だから部品購入する資材部から電子部品と一緒に発注になったのである。
電子部品販売員はそこでわかった情報をうまく活用して、他の設計者にも新製品設計の際にその検査装置の設計まで手掛けるかどうかを聞くことができる。そこまではやらないという回答があっても、設計者は新製品の検査に関して、どの個所をどの様に検査するのかを検査装置の製作部門と打合せしている事がわかる。電子機構部品販売員は資材購買を顧客にしているため設計者に会うのは設計者からの要望があった場合くらいである。まして製品製造現場の検査がどうなっているのかなどに関心はない。せっかくわかった事実を足掛かりとして設計者に会おうとか、自分の知らないマーケットを覗いて見ようとは思わなければ攻めの営業はできない。FA販売員に関しても同様のことが言える。FA販売員は生産技術を顧客にしている。生産技術から本来は出てこないコネクターや基板用リレーやプローブ等の発注があっても何の疑問もなく納入する。仮に打合せの必要な検査装置の案件であったなら画像処理のセンサーやPLCと一緒に電子系の商品が使われることはわかる。しかし打合せはなく、PLCと一緒に電子系商品が発注になっても具体的に何にどう使用してるかわからずに納入するのが普通である。FA販売員はFAの現場をマーケットしているが生産ラインや製造機械の自動制御周辺にしか関心がない。製造現場の検査工程でさえFA販売員が訪問するようになったのは高精度の画像処理センサーが登場してからである。それまでは検査には目をくれなかったから検査から出るFA部品はFA営業以外で受注していた。高度な画像処理をまだ必要としない検査マーケットは大きい。それらの検査マーケットを切り開こうとするには扱い慣れた商品を軸に顧客を見ることを止めて、マーケットという概念を強く持つことが攻めの営業なのである。