ソリューションの自社開発・販売を強化
日本の商流は複雑と言われ、商社・販売代理店が批判の槍玉に上がることに立たされることもある。その一方で流通を支えるクッション役として長年にわたって金融や物流、調達等を支え、優れた技術を発掘して広め、製造業を発展させてきたのは間違いなく商社・販売代理店の功績だ。
しかしデジタルの時代に入り、流通は大きく変化している。これまで商社が担っていた各種機能を補完する技術・サービスが登場し、もの売りからこと売りでメーカーはソリューション提案を通じてエンドユーザーと直接つながる志向を強め、Eコマース隆盛によりWEBでの製品購入も容易になっている。商社にとってこの市場環境は決して楽観視できるものでなく、自らの思考・ビジネスモデルを柔軟に変化させて生存戦略を強化する必要性に迫られている。
RYODENは、2023年に長年親しまれてきた「菱電商事」から「RYODEN」に社名を変更し、商社の枠を超えた「事業創出会社」への進化を目指し、新たなスタートを切った。さらに、事業ブランド「RYODEN Tii!」を立ち上げ、技術開発拠点「RYODEN-Lab.」を整備し、自社製品・ソリューションの開発を強化。新たな事業の柱の構築を進めている。
菱電商事からRYODENへ
RYODENは、1947年に三菱電機製品の販売代理店の利興商会として設立し、1958年に菱電商事となり、以来一貫して三菱電気製品を中心とした有力商社として成長を続けてきた。1985年に売上高1000億円、1995年に売上高2000億円、2022年に東証プライム市場に上場。現在は国内30拠点、海外21拠点を展開し、1242人の従業員を抱える大企業に成長し、2022年度の売上高は2603億円、純利益は53億円となっている。
2022年の創業75周年を機に、100年企業を目指すため、パーパス「人とテクノロジーをつなぐ力で “ワクワク” をカタチにする」を制定。さらに、これまでの事業で培った知識と経験、技術力を継承しつつ、新たな時代に向けて商社の枠を超えた事業創出会社に変革する意志を込め、社名を株式会社RYODENに変更し、今に至る。
これまで同社は菱電商事の名の通り「三菱電機の製品を取り扱う商社」のイメージが強く、それが事業にプラスにもマイナスにも働いてきた。三菱電機の製品・技術の高い総合力と信頼の恩恵を受けられる反面、顧客や社会を含む外部からは、三菱電機から仕入れたものを売る商社として見られ、柔軟なビジネス展開を鈍らせる重しになっていた。結果としてそのイメージは大きなプラスをもたらしてきたが、潮目が変わった今、2022年の社名変更とパーパス制定を機に、未来に向けて従来の強みを継承しつつ、自身でも独自の新しい道を歩める方向に舵を切っている。
成長戦略のカギを握る新規事業中心のX-Tech事業
現在、同社の売上は4つの事業で支えられている。半導体や電子部品等のエレクトロニクス事業(売上高1811億円、全売上高に対する比率69.5%)、シーケンサやサーボ、産業用ロボットなどのFAシステム事業(462億円、17.8%)、エレベータやエアコンなど冷熱ビルシステム(272億円、10.5%)、そしてスマートアグリなど新規事業のX-Tech事業(クロステック、57億円、2.2%)だ。
前3つが既存の主力事業として会社を支え、X-Tech事業は事業セグメントに横串を刺し、これまでの枠に捉われず、新規事業として自社オリジナル製品やサービス、ソリューションを開発し、データリカーリングビジネスを志向していくとしており、今後の成長戦略のカギを握る事業となっている。
製品ブランド 「RYODEN Tii!」策定と開発拠点「RYODEN-labo.」整備
自社オリジナル製品を開発し、販売していくためには、そのための組織と体制が必要となる。
同社ではその推進部署として戦略技術センターと新規事業推進室を設け、それに合わせて技術開発拠点として東京・池袋の本社近隣に「RYODEN-lab.」を開設。ラボにはオフィスを併設し、戦略技術センターと新規事業推進室のメンバーを中心に40人ほどが働いている。
さらに、オリジナル製品のブランドとして「RYODEN Tii!」を新たに策定。tiiは「this is it」の略で、日本語で言う「その手があったか」を意味し、同社による顧客の潜在課題を解決する力を表現し、「!」はパーパスのなかにある「ワクワク」を示している。
自らがアイデアと技術でもってオリジナル製品を開発して顧客の課題を解決し、市場・ビジネスを開拓していく機能を整備し、今後はブランドの認知向上と製品の拡販を進めるとしている。
目のつけどころがユニークなオリジナル製品群
現在、ラボでは「自動化・省人化・可視化」、「AI・DX・セキュリティ・通信」、「環境・脱炭素・省エネ」の3つのカテゴリで技術開発を進め、オリジナル製品として、すでに製品化して販売しているもの、開発中のものを含めて7製品をラインナップ。一番得意とし、たくさんの顧客を持つFAや製造業の現場向けソリューションが中心ながら、「そこを狙うか」といったニッチだがニーズが見込めるようなユニークな着眼点の製品を揃えている。
例えば、近年技術進化が進み、広がってきている3Dビジョンとロボットを使ったバラ積みピッキング。ロボットメーカーやビジョンメーカー、ロボットSIerなど様々なプレイヤーが独自システムを提案しているが、同社が開発・構築したバラ積みピッキングシステムは、従来は難しかった透明ワークや鏡面のような表面が反射するワークもピッキングできる独自性の強いものとなっている。
よくある3Dピッキングシステムは、その場のバラ積み状態をカメラで撮像し、掴めるワークを認識するという形で、カメラで形状を認識しにくい透明や反射率の高いワークは苦手とし、外乱光の影響も受けやすいという弱点がある。それに対し同社のシステムは、イギリスのCambrianビジョンシステムをベースとして使い、ワークの3D CADデータを事前に認識させておき、それをもとにカメラが箱内のワーク形状を認識して掴んで運ぶ。このためワークの色や材質は問わず、外乱光の影響も受けないため暗所や照明調整も省くことができる。
展示会等ではAMRと協働ロボットを組み合わせたアーム付AMR・モバイルマニピュレータ(MoMa)を見かけることが増えるなか、同社でも開発テーマの一つとして取り組んでいる。
これも各社が取り組んでいて明確な差別化は難しい領域だが、同社ではAMRはForwardX(フォワードエックス)、協働ロボットはELITE ROBOTS(エリートロボット)で、いずれも中国のロボットメーカーの製品を活用して構築したシステムとなっており、導入のしやすさを念頭に置き、低コストにこだわったものとなっている。
また製造現場向けの課題解決策であり、ニッチだが需要があるものとしてユニークなのが、害獣・害虫遠隔監視ソリューション「Pescle(ペスクル)」。
工場やプラント内は一年中温暖なためネズミやゴキブリ、ハエ、ムカデなど害獣・害虫が侵入しやすく、万が一、製品に混入したりすると、炎上による信用失墜、再発防止のための現場の見直し・再構築など被害は大きく、現場ではそれを防ぐため、害獣害虫対策を専門とするペストコントロール業者等と協力してさまざまな工夫と努力をしている。しかし実際に実行できているのは、月1回等の定期的な駆除や予防対策で、害獣害虫は繁殖力が強く、間が空くと増えてしまうため、発見即対策が求められている。
「Pescle(ペスクル)」では、天井裏や床下など害獣害虫が出そうなところをカメラで監視し、動くものを発見したらAIで検知して現場責任者やペストコントロール業者に発報。速いタイミングで駆除や対策することで被害を抑えることができる。またハエや蛾などの飛翔体をカウントしてデータを蓄積して分析もでき、HACCP対策としても有効な工場の衛生管理を支援するソリューションとなっている。
このほか、PHSがサービスを終了して空いた周波数帯を使った次世代無線通信技術sXGPによる「プライベートLTE」、工場や製造現場でも対策が必要となってきているセキュリティについて、工場内にどんな機器や設備があり、どう繋がっているかを可視化するアセットマネジメントから始まる「遠隔保守サービス」、製造現場にある各種のカメラ画像をAIで分析し、作業安全や工程異常の検知や警告などを提供するディープラーニング画像処理技術「FlaRevo」、耐環境性に優れた金属RFIDやクラウドを活用した入出庫管理ソリューション「ATLAS-Things」、ワイヤ型振動センサを使って機器の劣化予兆を検出する「予兆保全」などをラボでは開発・展示していた。
また、これ以外にもビルや工場、施設や店舗内の各種データを統合監視生後需要予測する「Remces」、多品種・変量生産ができ、高付加価値の野菜を栽培できる閉鎖型植物工場「R-AX」、病院向けに、院内のITシステムを1パッケージとして10年間提供する「トータルパックIT(ヘルスケア)」などもオリジナル製品・ソリューションとして展開している。
市場・顧客に変化を伝えられるか
デジタル化、第4次産業革命の時代に入り、製品を作るメーカー、システムを構築するSIer、仕入れて売る商社というこれまでの枠組みが緩み、各社が自社の顧客の求めに応じたビジネスを展開し利益を得ていくという形になってきている。
その点での商社の強み・弱みについて、強みは「すでに口座が開かれている顧客の数・種類」と「幅広く製品を取り扱える点」で、顧客から直接、ニーズや課題をヒアリングでき、それに応じた技術や部材を取り揃え製品化につなげることができる。また、普段からの関係性を活かし、中小企業の課題解決の相談先としても機能できる。
その一方で弱点は「製品化するための技術力の蓄積」と「顧客認知度・理解度の薄さ」。ニーズが聞けて製品アイデアがあっても技術がないと製品化できない。また顧客はこれまでのイメージから、商社のオリジナル製品に対する認知は薄く、信用獲得もこれからだ。商社のイメージを変え、事業創出会社になるためにはそこをクリアしなければならない。
「名は体を表す」。同社は、75年間で商社のイメージが強く刻み込まれた「菱電商事」からフラットな「RYODEN」に社名を変えた。同時に、パーパス制定や組織・体制も再編して従業員のマインドセットを変えた。これから必要なのは、変わった姿を顧客や社会に対して行動として示すこと。同時に、既存事業をしっかり維持し守ること。稼いでいる事業と、これから稼ぐ事業。そのバランスを保ちながら変わっていけるかに注目だ。