電子機器への電気や信号の伝送の役割を果たす端子台やコネクタなどの配線接続機器は、機器を裏から支える存在として重要な役割を果たしている。インターネットをはじめとした情報化社会の進展で配線接続機器の需要も増加しており、市場は拡大基調で推移している。一方で、人手不足対策から配線接続作業の省工数化を目指す取り組みも顕著に進んでいる。納期問題は一部の部品を除いてほぼ収束しているが、素材価格の上昇が継続しており、配線接続機器各社はコスト対応に苦慮しているところも多く、価格改定の動きも強まっている。製造業の国内回帰や都市再開発の動きも活発化しており、設備投資やインフラ投資の拡大が期待されており、配線接続機器市場は安定基調が続きそうだ。
配線接続機器は、機器・装置の配線をつないで電気や信号をなど伝える重要な役割を果たしている。通信用などの微少用途から高圧などの高電流容量用途まで幅広い。5GやIoTなどの情報通信のインフラ投資や、自動車のEV関連投資、都市再開発で進むビル建設、さらには人手不足を背景にした自動化・省人化投資の拡大などで、需要は大きく拡大している。
2021年から22年秋頃まで続いた納期問題も一部の機種を除いてようやく収束し、いまは過剰な在庫がいつ解消するかに関心が向かっている。ただ、円安が定着していることもあり、素材価格は依然上昇基調で推移しており、コストアップ対策に配線接続機器各社は頭を悩ましている。インフレ誘導の流れに呼応して価格を改定してコストアップ分の転嫁に取り組んでいるところも多い。しかし、ユーザーや流通在庫がまだ多いことから、この効果が出てくるのはまだ先になるものとみられる。
配線接続機器の用途は、電子・電気機械から自動車・電車などの輸送機器、受配電設備、情報通信設備など、電気が使われるあらゆる分野に広がっている。昨今のデジタル化の進展は、配線接続機器の用途をさらに加速させている。
この一方で、配線接続作業の省力化・省工数化を目指した取り組みが顕著に進んでいる。人手不足が深刻になっていることに加え、熟練作業者の減少もあり、未熟練者でも簡単、かつ安定した品質で作業ができるような製品開発を求める声に応えるものだ。
端子台の配線接続方法には、ネジ式、プッシュイン式のほか、スタッド式、押締式、ケージ式、ラグ式、タブ式、ラッピング式、圧接接続式などがある。国内ではネジ式が主流であるが、この方式はネジ締め作業、配線の被覆作業、配線接続後の緩み確認作業など、多くの作業工程が必要で、作業者の熟練度によっても、作業スピードや配線接続の出来上がりなどに差が出やすい。
こうしたネジ式の弱点をカバーする方法として普及が進んでいるのが、欧米で主流になっている圧着端子を使用しないプッシュイン式(ねじレス式)だ。プッシュイン式はケーブルを挿し込むだけで配線作業が完了し、ネジ締め作業やネジ締めの加減も不要など、省力化効果は大きい。まだ配線作業が不慣れな初心者であっても簡単に作業ができることから、熟練作業者でなくても配線技術習得に時間がかからず、懸念されていた振動での配線の緩みや経年での信頼性に対する心配も使用実績を重ねることで払拭され、採用加速への追い風になっている。それでも日本ではねじを使った丸型圧着端子台(丸端)が長年使用され、定着している。特に高圧・大電流用途や振動の多い用途ではねじ式の使用が多い。接続信頼性が高いというのが大きな理由で、ネジ式の使用率は約70%と推定されている。また、プッシュイン式の採用が多い欧州でも、普及率は70%ぐらいと言われており、すべてがプッシュイン式にはなっていない。
こうした市場の状況を反映して、両方式の機能を合わせ持ったハイブリッド的な端子台も登場している。構造は各社で多少異なっているが、省工数と信頼性の両立を目指して工夫を重ねている。
また、一般的に電線の配線加工には工具が必要であるが、この工具不要で配線できる方法や、プッシュイン式の配線ケーブルの先に使用するフェルールを使用しないで配線する方法も登場している。ケーブルをそのまま端子台に差し込むことで配線作業が完了することから、一段と省工数化が図れる。配線がきちんと接続できているかを確かめることができるインジケータ表示も可能になっているものもあり、作業ミスなど接続不良の防止にもつながることで、接続信頼性はさらに高まることになる。
しかし、ほとんどの配線でフェルールを使用した方法が採用されていることから、フェルールと電線の圧着を自動で行う加工機も使用され始めている。電線の切断、被覆、フェルール圧着作業を自動で行えるもので、人手不足時代に対応する機械として注目されているものだ。
従来プッシュイン式は制御用途や小電流用途を中心に普及が進んでいたが、ここ数年、電磁開閉器や配線ブレーカーに加え、操作用スイッチやスイッチグ電源など、従来はネジ式接続が使用されていた機器でも採用が増えつつある。さらに、大電流用でのスプリング式端子台のラインアップも急速に拡充している。1500Ⅴ/300Aの高圧・高電流の動力・電源用途に対応したり、電線径200㎟という太線でもドライバーを使ってワンタッチで裸の電線接続が可能な端子台も販売されている。
大電流用途では、丸型圧着端子台(丸端)で配線後の増し締めをするという習慣が定着しているが、スプリング式の接続信頼性への評価の高まりに加え、人手不足も重なり、徐々にこの習慣がなくなりつつある。増し締めが不要になることで、トータルコスト面もスプリング式の優位性が高くなってきており、市場に大きな変化が出始めている。日本では公共建設物や送配電分野ではネジ式が多く使用されているが、法的な規制が徐々に見直され、国土交通省発行の公共建築工事標準仕様書(電気設備工事編)の令和4年(22年)度版に、「ねじなし端子」が制御盤に使用する器具の端子として追加された。これによりスプリング端子を国交省公認で公共案件にも使用できることになった。
ただ依然、配線接続の緩みや引っ張り強度を懸念する声は強い。こうした声に対応して、引っ張り強度を規格化していこうという動きも出始めたている。プッシュイン式の信頼性を確立するためにも必要だという声が関連団体からも聞かれており、今後具体的な動きがみられるか注目される。
最近は欧州を中心に、プリント基板に外部端子を使用しないで直接給電するための大電流対応コネクタの要求が高まっている。大容量の電源、インバータ、サーボアンプなどでプリント基板に直接給電することで、大幅な小型化と電力損失の低減が図れ、省エネ化につながるというものだ。コネクタの採用で電線のハーネス化による組立性やボード交換などのメンテナンス性向上が図れるという効果も見込める。
配線接続機器の中で新発想の配線方法として注目されているのがケーブルエントリーシステムだ。コントロールユニットや制御盤の筐体面から取り出す多数のケーブル、ホース、コンジット類を集約し、専用工具不要で簡単に組み立てができるもの。コネクタや圧着端子が付いた状態のケーブルを、分割式フレームと分割形ケーブルグロメットを使用することで、素早く簡単にアッセンブリすることができる。保護等級も最大IP68に対応できる。EMC対策にもつながることで、評価を高めている。
用途も工作機械、鉄道、建機などに加え、人体に影響を及ぼす食品機械や医薬製造機械などにも広がりつつある。また、ビル設備などの配線用途でも採用が進んでいる。
配線接続機器の需要は産業機器から民生機器、車載、社会インフラまで需要の裾野が非常に広いことから、安定した市場を形成している。人手不足と人件費の上昇が今後ますます進むことが予想される中で、この課題を解決する取り組みが配線接続機器で求められる。一部で採用が始まっている自動配線設計システムに加え、自動配線作業システムなど、極力人手作業を減らすための取り組みが必要になっている。