【日本の製造業再起動に向けて(109)】中小製造業再起動 『歴史と革新の融合』新たな時代の幕開け

日本の製造業は歴史的な転換期を迎えている。 米中対立など政治的・地政学的な要因が作用し、日本独自の製造哲学や技術力が再評価され、半導体産業などの先端技術への投資が活発になっている。この変化は、日本のものづくりの強さと未来に向けた大きな可能性を示しており、『歴史と革新の融合』で日本のものづくりの新たな章が、いま始まろうとしている。

日本のものづくりが再評価される背景には、単に技術的な優位性だけでなく、豊かな歴史や文化、そして人々の心の持ち方が深く関わっている。筆者は長年にわたり、世界各国の中小製造業と接する機会に恵まれてきた。この経験から深く感じているのは、ものづくりにおける日本の圧倒的な強さである。その強さの背景には、日本の豊かな歴史と文化、そして日本人の持つ『おもいやり』の心など、日本の遺伝子というべき心の持ち方が強く影響している。『おもいやり』は日本人のみが持つとても素敵な遺伝子であり、世界に類を見ない。日本は『おもてなし』ではなく、『おもいやり』国家である。このような背景を、もう少し紐解き『日本のものづくりの歴史的な強さ』を考察したい。

ものづくりの強さを支える大きな柱の一つは、表現レベル豊かな「日本語」の存在である。今後有望と言われるアジア諸国では、高学歴教育を (母国語ではできず)英語で行うことが多い。これにより、大学を卒業して社会に出た際に、製造現場の職人とのコミュニケーションが取れず、組織活動に支障をきたし、現場レベル向上に苦慮している。日本では教育から社会生活までが日本語で行われるため、このような壁が存在しない。技術用語も含め、全国どこでも共通の言語でコミュニケーションが取れるのが大きなメリットである。

もう一つの重要な要素が、江戸時代の参勤交代制度による影響である。 この制度により、日本全国から大名やその家臣が江戸に集まり、互いの文化や技術を交換した。この過程で、日本全国に共通の技術水準や言葉が広がり、全国どこでも同じ高いレベルのものづくりが可能になった。また、この交流は、地方の独自の技術や文化を全国に 広める効果もあり、江戸時代から数百年後の今日、日本列島津々浦々に優秀な企業や町工場が存在するのも日本独自の歴史背景が強く影響している。 また、江戸時代の日本では、職人たちはその地域固有の需要に応じて特化した技術を磨いていた。これは、顧客の細かなニーズに応えることを可能にし、日本のものづくりが高い満足度を提供できる一因となっている。

さらに、日本のものづくりには『おもいやり』の 精神が息づいている。この精神は、ただ単に製品を作るだけではなく、顧客の期待を重要視する姿勢につながっている。今日、グローバリゼーションが進み、世界中の製品がどこでも手に入る時代になった。しかし、それでも日本製の製品が高い評価を受け続けるのは、前述した歴史的背景に支えられた「ものづくりの哲学」が根底にある。日本のものづくりは、単に物を生産する以上の意味を持っている。それは、技術や言語、そして人々の心が一体となって生み出される文化であり、『すり合わせ』と称される所以である。これが日本製品の独自の価値となって世界中に認められている。この哲学は、日本国内においても大きな影響を及ぼしている。製品を作る際に、職人や技術者はただ機能的な面だけでなく、製品を通じて顧客と深いレベルでコミュニケーションを取り、満足を超えた感動を顧客に提供することを目指している。 前述の歴史背景や日本のものづくりの精神は、日本人の『誇り』であるが、不幸なことに バブル崩壊以降の「失われた30年」では、『誇り』を忘れ、コストダウンに邁進し、中国 など海外移転によるものづくりを推進してきた。

2024年に入って株価も史上最高を記録し、まさに新たな時代の始まりがやってきた。 奇跡的に訪れた大チャンスを確かなものにするためには、失われた30年の『デフレ意識』 を払拭し、イノベーションによる『希望と勇気』を取り戻す必要がある。 これからの新しい時代は、明らかに『インフレ時代』の再来である。 日本の製造業再起動の大チャンスを迎えた今日、歴史から学ぶことは多い。 1985年のプラザ合意によって円高となり、バブル経済の崩壊を経て長きに渡る『円高・デフレ』が続いたが、いま時代は大きく舵を切って『円安・インフレ』時代に戻ろうとしている。『歴史と革新の融合』『アナログとデジタルの融合』、これが日本のこれからの指針である。 歴史やアナログは差別化エンジン。革新やデジタルは成長エンジンである。 この2つのエンジンの融合で、世界をリードする『日の丸ものづくり』の完成である。

◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。

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