電磁開閉器(マグネットスイッチ)の新たな技術開発が進んでいる。小型・薄型化、低消費電力化、省工数などをポイントに、高圧のDC(直流)化への対応などに加え、環境問題に配慮した取り組みも目立つ。市場規模はほぼ横ばい状況が続き安定しているが、メーカーの寡占化も進みつつある。
電気回路の開閉制御を行う役割を果たす電磁開閉器は、電磁石で接点を開閉する電磁接触器(コンタクタ)と、電動機の過負荷保護を行うために熱を利用して動作する熱動型過負荷継電器(サーマルリレー)を組み合わせている。工場やビルの電気設備を制御する制御盤や配電盤の中で電気回路の開閉を行っており、モータなどを使用した機械、装置、設備には必須の機器として使われ、負荷のON/OFFや、過負荷電流が流れて機器の回路が焼損する事故を防止する大きな役割を果たしている。
主な用途は工作機械、半導体・液晶製造装置、エレベーター、鉄道機器、船舶、空調機器、PV(太陽光発電)システム、配電盤など幅広い分野で、モータの起動・停止、照明・ヒーターなどのON/OFFなどで使用されている。
日本電機工業会(JEMA)の産業用汎用電気機器出荷統計によると、2023年(1~12月)の出荷額は289億2500万円(前年比93・9%)となっている。
新型コロナやロシア・ウクライナ戦争などの影響を受け、電磁開閉器のSCM(サプライチェーンマネジメント)も大混乱。一時の品不足による納期の長期化から、一転して市中在庫が増加による後遺症が大きな影を落としている。加えて鉄、銅、銀、樹脂等の原材料価格の高騰。さらに、円安や人手不足、原油価格の高騰による物流費の上昇などは、電磁開閉器の生産コストにも大きく影響し、価格の見直しを行うメーカーが続出している。旺盛な需要増を背景にユーザーは納期優先の姿勢から値上げを認めてきたが、23年は納期問題の解消もあり、価格改定の動きは沈静化している。
さらに、カーボンゼロ社会実現に向けて自然エネルギーであるPV(太陽光発電)や風力発電活用への動きが強まっている。一般家庭でもPVを利用して売電から蓄電池などと組み合わせて自家消費用として導入するケースも増えており、電磁開閉器の需要につながっている。加えて、IoTに対応したビッグデータや5G通信に関連する情報化投資の増加が見込まれているが、とりわけ大型のデータセンターの建設への期待も高い。
電磁開閉器は技術的にほぼ完成の域にあると言われながらも、依然開発・改良が進められている。最近のポイントは小型化、省エネ化、グローバル化対応、省配線化と配線作業性の向上、環境対策などに重点が置かれている。
電磁開閉器でいま最も改良が進んでいるのは配線端子構造の変更だ。人手不足や熟練技術者の減少などから盤への機器取り付け作業の省力化が大きな課題になっているなかで、配線部に圧着端子を使用しないスプリング式を採用するメーカーが増えた。今までも、省配線化と配線作業性の向上では、端子の配線ネジを外さなくても配線できるようにしたり、バネを使って仮止めが容易にできるようにしたりと、工夫している。しかし、作業性の良さ、接続信頼性から欧州タイプの圧着端子を使わないスプリング式の優位性の評価が定着したことで一気に変化した。棒線、より線がそのまま使用できることから、電線の被覆作業やねじ締め付け作業などが不要で、配線作業性が大幅に向上する。初心者でも熟練者でも作業スピードには大きな差が生じづらく、接続信頼性も高いことから増し締めといったメンテナンス工数も省ける。端子幅も電線の太さ分で良いことから、省スペース化にも貢献する。海外市場はスプリング式の配線が定着していることから、国内向けと海外向けで2つの方式を使い分ける必要性もなくなる。
日本では官公庁の設備向けで、圧着端子の使用を配線設備基準で求めている部分が残っていることから、以前障壁は多いものの、人手不足などの外的な要因も加わり、今後配線方式は大きく変化するものと見られる。
配線作業性の向上では、電磁開閉器本体の取り付け時に、ドライバーを傾けず本体に直角して取り付けできるようにすることで、取り付け作業時間を短縮できるように工夫した取り組みもある。
一方、小型化への取り組みも進んでいる。制御盤設計において一番の課題は制御盤の大きさを変えずに機器を追加することだ。多数個並列して使用することが多い電磁開閉器では一個の幅を少しでも削減できれば、盤全体では大きなスペース削減効果を生み出す。横幅を薄くすることで収納スペースの削減につながるが、開閉時の高温ガス放出構造やアークランナーの形状最適化など設計上の難しさが伴う。そこで、磁界解析と運動解析などを行いながら、部品形状・配置や接点の接触圧力を最適化する開発を進めている。
環境配慮への取り組みも目立つ。使い終わった製品をもう一度資源として活用できるように、製品に使用しているプラスチック材料のほとんどをリサイクル可能な材料を採用することで、カーボンニュートラルの実現を目指す動きや、コイルの消費電力を大幅に減らす取り組みも顕著だ。電磁開閉器は、製品内部のコイルに電気を流すことで発生する磁力で接点を開閉し、モータなどの稼働を制御しているが、鉄心の一部に磁石を用いることで接点の開閉に必要な力を補い、消費電力の削減実現を目指している。現在、直流操作形では既存品比最大73%の削減実現した製品も登場しており、エネルギー使用量削減につなげようとしている。
省配線化の一環として、電磁開閉器の主回路の高さを統一することで、専用ブスバーによる一次側渡り配線ができるようになっている。これにより、配線数が大幅に減らせ、配線作業時間の短縮と誤配線の防止につながる。ブスバー設置状態はむき出しになっているが、このブスバーにメッシュ状のカバーで覆って安全性の向上を図る動きも見られる。
さらに、可逆型電磁接触器に、電気的インターロック用配線を内蔵したタイプも開発されており、インターロック配線が不要になるほか、スペースもほとんど同じで済むため、内蔵スペースを有効に生かせる。
安全対策では、端子部に不用意に接触しないように感電防止構造を採用した製品が一般化、不用意な接触によって誤作動したり、異物が本体に侵入したりしないように保護カバーを標準で装備している。さらに、電磁開閉器の導通不良の原因に多い塵埃の侵入を防ぐために、動作表示部などの開口部面積を減らし構造にしたり、嵌合方式の見直しなどの開発が進んでいる。そのほか、制御回路と主回路の誤配線を防ぐために、それぞれの端子色を変えることで分かりやすくしたり、主回路と補助回路の端子配線の干渉防止と作業性向上へ端子配列を工夫した設計も行われている。
電磁開閉器の接点溶着が発生した場合でも、安全開離機構(ミラーコンタクト)として、補助接点が確実に作動する機能も内蔵しており、事故の防止を図っている。
そのほか、最近発売された電磁開閉器では、本体にQRコードを記載することで、仕様書や外形図、取扱説明書など製品に関する資料を確認できる工夫をしており、その場でQRコードを読み取ることで容易に解決できる。
一般的に電気回路には、配線用遮断器、電磁接触器、サーマルリレーが使われ、短絡事故からの電線保護、電動機の過負荷保護などを行っているが、これらの省スペース化と省配線化を実現できるモータスタータの動向が日本でも注目されている。配線用遮断器、電磁接触器、サーマルリレーの代わりに、モータブレーカと直流低消費電力型の電磁接触器を採用することによって取り付け面積を、従来の3分の1まで削減することができる。
モータブレーカと電磁接触器を専用パーツで一体化しているために、従来の配線用遮断器と電磁接触器を電線1本1本で配線する作業も不要になり、配線時間を従来の半分に削減することが可能になるなど、トータルコストダウンに効果を発揮する。モータスタータをモジュール構造にすることで、オプションモジュールとしてセーフティリレーユニットもバス接続する製品も登場している。SIL 3の安全レベルにも対応でき、モータ制御の安全対策につながることが期待されている。
モータスタータは欧米を中心に普及しているが、日本では配線方式や電圧の違いなどからあまり普及していない。しかし、日本から海外市場に向けて輸出する機会が増加する中で対応が求められており、関連メーカーは計算方法など実際のマニュアルなどを準備しながら対応を図っている。
電磁開閉器は、電気機器に欠かせないモータ需要にほぼ比例している。モータも在庫調整が終了すれば一気に需要が回復するとみられており、電磁開閉器も同様のチャートになりそうだ。