4月から新年度が始まり各社で入社式が行われた。今年は物価上昇や人手不足、さらには賃上げ促進税制の施行などもあり、4月から賃金を大幅に上げる会社が例年になく目立つ。新入社員で月給30万円を支給する会社も珍しくないほど、給料が上昇している。当然比例して新入社員以外の社員の給料も上がることになる。こうしたニュースのほとんどは大企業を例にした内容で、このニュースを参考にしながら中小企業も賃金いくら上げるかの検討に入るところが多い。一般的に大企業の給料が高く、中小企業の方が低い傾向であるが、それでも給料を上げないとその差が開くことから、最低でも大企業の上げた分と同じぐらいは上げたいと経営者は考える。
ここ30年デフレ経済が続いたことで物価だけなく、賃金もほとんど上昇していない。日本の最低賃金は2023年10月から1時間1004円になった。東京都は1113円と全国で最も高く、岩手県は893円と最も低い。それでは海外はどうだろうか。先進国では、アメリカは11・8㌦(約1803円)、イギリスは11・44㍀(約2197円)、ドイツは12・41ユーロ(約2036円)と、日本の1・8倍~2倍になっている。韓国も9860㌆(約1084円)と日本より高い。しかも、これらの国の最低賃金には地域差が無く、一律である。
日本で地域差が大きいと感じるのは家賃と土地の価格ぐらいで、衣料品や食料品の価格差はさほど大きくなく、交通費は都会の方が安いぐらいだ。牛丼一杯の価格が全国同一なのもおかしな話で、地価や人件費が高い東京の価格は高くてもよいはずだ。
2020年~22年まで続いた部品不足問題で各社は納期管理に苦労したが、この経験の中で今後の事業展開への教訓として得たことの一つとして、「価格転嫁」することの重要性である。日本では価格へ転嫁するというと、どうも悪い意味で捉えられがちである。
筆者が製造業の取材に関わるようになった初期の頃、日本に無い海外製品の価格は毎年のように価格改定が行われ、値段が上がっていた。海外メーカーにその理由を聞いてみると、『社員の給料を上げたからその分を値上げしたのだ』という。しかし当時の日本では、社員の給料が上がっても、その増加分は生産効率を改善してのコストダウンか、販売量を増やして吸収することが前提となることが多く、『給料が上がったから価格も上げました』と言える雰囲気ではなかった。値段を上げれば市場シェアを落とすかもしれないという危険性もあったからだ。これに対し、海外メーカーは、上がった分を転嫁するのは当然であり、社内で吸収するという発想には至らない。その考え方の根底には「企業が赤字を出すのは社会悪」という考えがある。人、資源、インフラなど、社会にあるものを使って活動しながら利益を生まない企業の存在は許さないというものだ。この違いはいまも大きく変わっていないように感じる。
2024年の日本のGDPは、中国、ドイツにも抜かれ世界4位に後退しており、インドにも肉薄されている。しかし、GDPが大きいことも重要であるが、もっと重要なことは最低賃金のランクでわかるように、世界との賃金格差を少しでも解消することである。
前述の納期問題では、ロシア・ウクライナ戦争や新型コロナなどによる原材料価格上昇、為替の円安の影響などを主な理由に、価格転嫁に向けた活動をしたところが多い。ユーザーも部材の確保を優先し。価格は二の次の姿勢であった。
そこで今年の賃上げ分を企業はどのように処理するかが注目される。大企業は賃上げ促進税制の恩恵効果が大きい。中小企業は人手不足も深刻化していることから自動化投資の一方で、価格転嫁で値上げの動きを強めるところが多くなるだろう。大企業の下請法違反の摘発も増えており、賃上げ分を転嫁し易い環境になりつつある。
安いことは決していいことではなく、適正な利益を確保することで賃上げにもつながり、生活を豊かにする。GDP世界4位の日本の平均賃金も同様の順位になるような仕組みが必要だ。https://monodzukuri.jp/
(ものづくり・Jp株式会社 オートメーション新聞 会長 藤井裕雄)