いま制御の世界が変わりつつある。これまで工場やプラント、生産ライン、生産設備を制御するコントローラといえば、FAならPLC、PAならDCSが定番となり、安全で安定した稼働、止まらない工場・プラントを実現するには、それぞれに専用のコントローラが使われきた。産業用PCやボードPCなどPCも半導体製造装置など機械や機器に組み込まれて制御に使われている領域もあるが、計測や管理用途で採用されることも多く、長年、制御の主役はPLCやDCSだった。
しかし近年、インダストリー4.0やデジタル化、IoTをきっかけに、製造現場でのデータ収集とその活用、ITとOTの連携といった新しい概念が入ってきて、機械や現場それらの技術を取り入れるようになり、そことの親和性の高いPCとそれによる制御(PC制御)に注目が集まっている。エッジ領域でのデータ処理・管理の用途はもちろん、より現場に近いフィールド層で制御を司るコントローラとして使われるケースも増えてきている。
背景にPCのハードウェアの進化×ソフトPLCの普及
この背景には、ハードウェアとしてのPCの進化が大きい。PCに搭載されている汎用CPUは加速度的に処理性能が向上した一方、生産量・流通量が拡大することにより価格が手ごろになり、コストパフォーマンスが良くなった。さらにハイエンドからローエンドまでCPUの幅も広がり、バリエーションも豊富になった。さらに熱対策や外部の環境変化に対する影響を低減することで高信頼性を獲得し、産業領域での利用に十分な安定稼働を実現できるハードウェアとして作り込まれている。
また、CODESYSをはじめ、モベンシスのWMX3など、汎用的なソフトPLCの認知度が高まり、普及し始めているのも大きな要因だ。PLCメーカー各社も独自のソフトPLCを自社の産業用PCに搭載して展開しているが、CODESYSやWMX3はサードパーティーのソフトウェアメーカーとして幅広いPCにインストールしてコントローラ化でき、PC制御の主役として普及拡大を牽引している。小型で安価なRasberryPiやArudinoにソフトPLCを搭載して、より手ごろで身近なコントローラとするトレンドも一部で出てきており、PLCや産業用PCとはまた違ったコントローラ市場の拡大に寄与している。
さらに先の未来として、ソフトPLCをクラウドに搭載し、ハードウェアとしてのコントローラがいらず、直接クラウドから現場の機械や生産ラインを制御する技術も出てきている。
PC制御が拓く新たなコントロール市場
PLCとDCSは専門のハードウェアとソフトウェアで構成する専門装置であり、PC制御は汎用のPCに専用ソフトウェアを組み込んでコントロールするもの。PC制御はいまのところPLCやDCSを完全に代替するものではなく、PLCとは異なる特長を生かしてお互いに棲み分けする形となっている。
特にFA領域外での自動化ニーズは高まっており、PLCで行うほど高度な制御ではないところ、データ処理やITとの連携が必要なところ、あまりコストをかけられないところなど、いわゆる「ちょっとした制御が必要なニーズ」に対してPC制御は相性がよく、さらに広がる可能性を秘めている。具体的には、ビルオートメーションにおける空調や照明など施設のファシリティの制御、サービスロボット、AGV・AMR、農業分野のスマートアグリをはじめ、あらゆる領域で広がっている。
またDXやデジタル化などIT技術が製造現場や装置に入り込み、欠かせない技術となるなかで、PCはそれとの親和性の高さから利用範囲が広がっている。もっと多くの自動化とデジタル化・データ活用の波がPC制御、新たなコントローラの市場拡大の追い風になっている。