ハノーバーメッセ訪問記【灯台 番外編】

4月22日から26日にドイツ・ハノーファー市で行われた世界最大規模の国際産業見本市「ハノーバーメッセ2024」を見学してきた。会場の様子と、現地で感じたことを振り返る。

ハノーバーメッセは、エネルギーやFA・電気制御、モーションドライブ、ロボット、産業用ソフトウェア、デジタルプラットフォームなど幅広い産業分野をカバーし、シーメンスやボッシュ、LoHグループなどドイツの産業機器メーカーをはじめ、ロックウェルオートメーションやシュナイダーエレクトリック、ABBなど世界の主要なプレイヤーも含め、毎回4000社を超える企業の出展、10万人を超える来場者があり、産業界にとって欠かせない一大イベントとなっている。2011年には「インダストリー4.0」が初お披露目されるなど、産業分野の最新トレンドの発信の場、未来を占う重要イベントとしても知られている。
2024年は「Energizing a Sustainable Industry(持続可能な産業を活性化する)」をテーマに、水素や燃料電池を中心としたエネルギー関連と脱炭素・カーボンニュートラルへのソリューション、産業領域における生成AIの活用、世界的な人手不足対策に向けた自動化技術などにスポットが当てられ、各社はそれに類する製品やソリューション等の展示を行っていた。

景気低迷の影響で規模縮小も 先進トレンド発信の存在感は変わらず

通算5回目の見学だったが、今回も変わらず、出展社の数もエリアも種類も日本のどの展示会よりも多岐にわたり、世界中から人ともの、技術が集まる様子には感動した。その一方で、ヨーロッパの景気の悪さや業績の厳しさからか、ブース規模が昨年よりも小さくなっていたり、ジックやバルーフ、ワイドミュラー、ロックウェル、オムロンなど毎年比較的大きなブースを構えていた主要プレイヤーが自社ブースで出展していない企業もあったりで、そこは少し残念だった。
また以前はモーションドライブ、ロボットなどの出展者が多く、コンポーネンツやハードウェア関連のエリアが充実していたが、年々縮小気味。それに対してマイクロソフトやAWS、Google Cloudなどデジタル関連のソフトウェアやシステム、プラットフォーム等の出展が増え、年々エリアも広がり、人も多く活況だった。デジタル化の進化・進展、トレンドの変化を肌で感じるとともに、展示内容がOTからIT、フィールドから上位システム、ハードからソフト、システムへとシフトしており、現場で使える機器や実践技術を紹介する場というよりも自社のコンセプトやビジョン、ポートフォリオを伝える場といった印象を強く感じた。
だからと言って産業の最先端技術を見られる展示会であることに変わりはなく、ハノーバーメッセで見たトレンドや技術が数年後に日本に入ってきて本格化するのは間違いない。いち早くその情報を仕入れるためにも実際に会場に行って雰囲気を感じ、技術を見て、学ぶことが大事になるが、今回は過去5回のうち、会場で最も多く日本人を見かけたのはとても好印象だった。来年はさらに日本からの来場が増え、出展企業も増えて海外市場にチャレンジする人と企業が増えると同時に、世界と日本のタイムラグ、ギャップが埋まることに期待したい。

電化新時代に向け、盤を大量に効率的に作る技術が進化

多くの技術を見るなかで、特に印象に残ったのがFA機器各社の「盤の製造効率化」への取り組み。ヨーロッパでは脱炭素・カーボンニュートラルを強く推進しているが、これは見方を変えれば、発電、送電、配電、蓄電、電力使用のあり方を大きく変え、新しい仕組みに再構築しようという「電化の新時代」の到来。その実現には盤の製造効率化への取り組みが不可欠であり、その技術展示が目立った。
電化新時代では、既設の盤のアップデートとともに、EV充電器をはじめ、自動化にともなってこれまで以上に屋内外で盤の数が必要となる。ヨーロッパでは人手不足のなかでも大量の盤を作らなければならない未来がすぐそこに来ており、ハノーバーメッセ2024では、そうした時代に向けてより効率的な盤製造に役立つ製品・技術を紹介しつつ、盤の設計・製造の自動化への筋道を示していた。
例えば、フエニックス・コンタクトの新しいプッシュイン技術「Push-X」。これまで以上に軽い力で結線作業ができ、ヨーロッパの固めの電線であればフェルールいらずでも差し込んで確実に結線できる。軽い差し込み=ロボットがつまんで押し込むことも可能であり、実際にブースではロボットが電線を端子台に挿し込む装置が展示され、ロボットで配線作業ができる、近未来の盤製造の姿をイメージさせていた。
リタール・EPLANのブースでも、電気CADの設計データを電線自動加工機に送ると、その機械が自動で必要な長さと本数を揃えて準備してくれ、さらにその加工済みの電線が作業台に送られて、作業員はあまり考えずに組み立て作業に没頭できる製造支援の包括ソリューションを展示。また、同様に電気CADの設計データを活用して、ロボットが機器配置から配線をする自動組み立てのデモを行っていた。ワゴでも同様にロボットを使った盤の組み立てデモを実施し、電気設計データを製造工程に活用することで、ロボットを使った全自動組み立ても理論的には可能であるということをアピールしていた。

未来を描き、現在地と道のりを示し、伴走する 日本に足りない、求められるアプローチ

全体を通じてコンセプト重視だったと感想を述べたが、裏を返せば、ヨーロッパの産業界、FA業界は10年後、20年後の社会の姿をはっきりと描き、展示会ではそれを構成する技術や考え方、さらにはそこに至るまでに必要な技術や製品を展示し、そこに到達するまでの道のりを示していたということ。各社はそれをもって会場に顧客、特に経営層やキーマンを招き、トップ同士が膝を突き合わせて話すことでお互いに意志を共有していた。会場のいたるところでそうした商談の姿が見られ、これは、来場する現場層に向けて、いますぐ購入して使える技術や製品を並べ、目の前の課題解決を重視する日本のアプローチとまったく異なっていた。
先行き不透明な時代と言われるなかでも、未来と筋道をはっきり描き、そこに必要な製品・技術を提案するからこそ経営層には響きやすく、大規模なプロジェクトであっても実現のイメージが湧きやすい。日本でこうしたアプローチができ、それが定着するかは分からない。しかし日本市場を進化させつつ、さらに海外市場を攻略するには必要なことだ。海外展示会はそうした気づきと刺激を与えてくれる。ハノーバーメッセ視察は行くだけでも価値がある。

オートメーション新聞は、1976年の発行開始以来、45年超にわたって製造業界で働く人々を応援してきたものづくり業界専門メディアです。工場や製造現場、生産設備におけるFAや自動化、ロボットや制御技術・製品のトピックスを中心に、IoTやスマートファクトリー、製造業DX等に関する情報を発信しています。新聞とPDF電子版は月3回の発行、WEBとTwitterは随時更新しています。

購読料は、法人企業向けは年間3万円(税抜)、個人向けは年間6000円(税抜)。個人プランの場合、月額500円で定期的に業界の情報を手に入れることができます。ぜひご検討ください。

オートメーション新聞/ものづくり.jp Twitterでは、最新ニュースのほか、展示会レポートや日々の取材こぼれ話などをお届けしています
>FA・自動化、デジタル化、製造業の今をお届けする ものづくり業界専門メディア「オートメーション新聞」

FA・自動化、デジタル化、製造業の今をお届けする ものづくり業界専門メディア「オートメーション新聞」

オートメーション新聞は、45年以上の歴史を持つ製造業・ものづくり業界の専門メディアです。製造業DXやデジタル化、FA・自動化、スマートファクトリーに向けた動きなど、製造業各社と市場の動きをお伝えします。年間購読は、個人向けプラン6600円、法人向けプラン3万3000円

CTR IMG