人手不足が深刻化する中で、端子台やコネクタなどの配線接続機器の省工数を目指した製品開発が進んでいる。配線ケーブルの被覆作業を不要にしたり、配線作業時に必要だった工具類を使わずに作業をできる製品が開発されている。また、配線作業を行う人の熟練度に関係なく確実、且つ容易に作業できる取り組みも進んでいる。配線接続機器は、電子機器への電気や信号の伝送の役割を果たしており、情報化社会の進展する中でますます重要性を増している。配線作業の省力化を目指した開発で配線接続機器の市場は新たな展開に取り組んでいる。
配線接続機器は、機器・装置の配線をつないで電気や信号をなど伝える重要な役割を果たしている。通信用などの微少用途から高圧などの高電流容量用途まで幅広い。
2022年秋頃まで続いた納期問題も一部の機種を除いてようやく収束し、いまは膨らんだ在庫の調整期間となっているが、24年秋頃には正常な状態に戻るのではないかという見方が強まっている。
配線接続機器の用途は、電子・電気機械から自動車・電車などの輸送機器、受配電設備、情報通信設備など、電気が使われるあらゆる分野に広がっている。
FAなどの製造業の投資は一部の業種を除いて様子見の部分も多いが、一方で都市再開発などにおける建設投資は旺盛で、ビル、マンションなどの建設は依然堅調に続いている。また、通信インフラ投資も昨今のDXへの対応から、データセンター建設なども著しく増加しており、配線接続機器の需要を大きく支えている。
配線接続機器を取り巻く現在の課題としては人手不足が上げられる。配線接続機器の配線作業は、今のところロボットの代替えは難しく、完全に手作業に頼っている。従って、配線の実作業以外の部分で省力化する取り組みを行っている。配線ケーブルの被覆や切断、ケーブルへの圧着端子やフェルールの装着、ケーブルのマーキング作業などの作業は自動機ができるようになりつつある。
そこで、配線ケーブルの配線作業を人手で効率的に行える製品開発に各社が取り組んでいる。例えば、ケーブルの被覆作業をしなくても、ケーブルを端子台に直接差し込むだけで配線が完了するようにした製品が各社から開発されている。従来、ドライバーなどでケーブル挿入部分の端子を押さえたりして挿入作業していたが、この手間が省ける。また、被覆作業がないため被覆のための工具やフェルールのカシメ工具なども不要になる。
この配線方法では、作業者によるネジ締めトルクの個人差もなくなるため、未熟練者でも簡単で安定した品質で作業ができるようになる。さらに、配線がきちんと接続できているかを確かめることができるインジケータ表示も可能になっているものもあり、作業ミスなど接続不良の防止にもつながることで、接続信頼性はさらに高まることになる。
しかし、日本を含め世界的にはまだまだ配線ケーブルの被覆作業、及び端子やフェルールのカシメなどの行う配線が圧倒的に多くおこなわれている。
端子台の配線接続方法には、ネジ式、プッシュイン式のほか、スタッド式、押締式、ケージ式、ラグ式、タブ式、ラッピング式、圧接接続式などがある。国内ではネジ式が主流であるが、この方式はネジ締め作業、配線の被覆作業、配線接続後の緩み確認作業など、多くの作業工程が必要で、作業者の熟練度によっても、作業スピードや配線接続の出来上がりなどに差が出やすい。
こうしたネジ式の弱点をカバーする方法として普及が進んでいるのが、欧米で主流になっている圧着端子を使用しないプッシュイン式(ねじレス式)だ。プッシュイン式はケーブルを挿し込むだけで配線作業が完了し、ネジ締め作業やネジ締めの加減も不要など、省力化効果は大きい。まだ配線作業が不慣れな初心者であっても簡単に作業ができることから、熟練作業者でなくても配線技術習得に時間がかからず、懸念されていた振動での配線の緩みや経年での信頼性に対する心配も使用実績を重ねることで払拭され、採用加速への追い風になっている。それでも日本ではねじを使った丸型圧着端子台(丸端)が長年使用され、定着している。特に高圧・大電流用途や振動の多い用途ではねじ式の使用が多い。接続信頼性が高いというのが大きな理由で、ネジ式の使用率は約70%と推定されている。また、プッシュイン式の採用が多い欧州でも、普及率は70%ぐらいと言われており、すべてがプッシュイン式にはなっていない。
こうした市場の状況を反映して、両方式の機能を合わせ持ったハイブリッド的な端子台も登場している。構造は各社で多少異なっているが、省工数と信頼性の両立を目指して工夫を重ねている。
従来プッシュイン式は制御用途や小電流用途を中心に普及が進んでいたが、ここ数年、電磁開閉器や配線ブレーカーに加え、操作用スイッチやスイッチグ電源など、従来はネジ式接続が使用されていた機器でも採用が増えつつある。さらに、大電流用でのスプリング式端子台のラインアップも急速に拡充している。1500Ⅴ/300Aの高圧・高電流の動力・電源用途に対応したり、電線径200㎟という太線でもドライバーを使ってワンタッチで裸の電線接続が可能な端子台も販売されている。
大電流用途では、丸型圧着端子台(丸端)で配線後の増し締めをするという習慣が定着しているが、スプリング式の接続信頼性への評価の高まりに加え、人手不足も重なり、徐々にこの習慣がなくなりつつある。増し締めが不要になることで、トータルコスト面もスプリング式の優位性が高くなってきており、市場に大きな変化が出始めている。日本では公共建設物や送配電分野ではネジ式が多く使用されているが、法的な規制が徐々に見直され、国土交通省発行の公共建築工事標準仕様書(電気設備工事編)の令和4年(22年)度版に、「ねじなし端子」が制御盤に使用する器具の端子として追加された。これによりスプリング端子を国交省公認で公共案件にも使用できることになった。
ただ依然、配線接続の緩みや引っ張り強度を懸念する声は強い。こうした声に対応して、引っ張り強度を規格化していこうという動きも出始めたている。プッシュイン式の信頼性を確立するためにも必要だという声が関連団体からも聞かれており、今後具体的な動きがみられるか注目される。
最近は欧州を中心に、プリント基板に外部端子を使用しないで直接給電するための大電流対応コネクタの要求が高まっている。大容量の電源、インバータ、サーボアンプなどでプリント基板に直接給電することで、大幅な小型化と電力損失の低減が図れ、省エネ化につながるというものだ。コネクタの採用で電線のハーネス化による組立性やボード交換などのメンテナンス性向上が図れるという効果も見込める。
配線接続機器の中で新発想の配線方法として注目されているのがケーブルエントリーシステムだ。コントロールユニットや制御盤の筐体面から取り出す多数のケーブル、ホース、コンジット類を集約し、専用工具不要で簡単に組み立てができるもの。コネクタや圧着端子が付いた状態のケーブルを、分割式フレームと分割形ケーブルグロメットを使用することで、素早く簡単にアッセンブリすることができる。保護等級も最大IP68に対応できる。EMC対策にもつながることで、評価を高めている。
用途も工作機械、鉄道、建機などに加え、人体に影響を及ぼす食品機械や医薬製造機械などにも広がりつつある。また、ビル設備などの配線用途でも採用が進んでいる。
配線接続機器の需要は産業機器から民生機器、車載、社会インフラまで需要の裾野が非常に広いことから、安定した市場を形成している。人手不足と人件費の上昇が今後ますます進むことが予想される中で、この課題を解決する取り組みが配線接続機器で求められる。一部で採用が始まっている自動配線設計システムに加え、自動配線作業システムなど、極力人手作業を減らすための取り組みが必要になっている。
また、素材価格の上昇、円安基調の中での国内外での生産体制の見直しなども大きな課題として挙げられる。