技術者の作成するプレゼン資料がわかりにくいと感じられることは無いでしょうか。技術者のプレゼンテーションについて、よく見られる傾向として以下のようなものがあります。
・字が多い/細かい+情報量が多すぎる・結局何を言いたいのか不明瞭 上記で述べたものが両方出る場合もありますが、最近は世代によって偏りが出る傾向にあります。
情報を詰め込みたがる中堅技術者と画像が得意な若手技術者
実は昨今の若手技術者を見ている限りだと、プレゼン作成スキルという観点では優れている技術者が増加傾向にあるという印象です。この技術が高いと感じる技術者は大きく分けて2パターンあります。
A. 内容はしっかりしているが、見にくいB. 見やすいが、内容がわかりにくい 前者は冒頭で紹介した、字が多い/細かい+情報量が多すぎるに該当します。
後者は、同様に結局何が言いたいのかわからないということになります。10年ほど前までは、どちらかというとパターンAの技術者が多かった印象ですが、最近は明らかにパターンBが増えています。
デジタルに慣れた世代が増えたこともあり、情報を絵として表現できるタイプの技術者が増えてきている、というのが一因かもしれません。SNS等、文章を最小化し画像や動画で物事を伝えることが増え、視覚に関する感性が向上してきているのではないか、というのが個人的な見解です。
技術者育成の観点から言うと、どちらが良い、どちらが悪いということはありません。どちらも強みがあり、どちらも課題があるのです。そのため、どちらのパターンに該当したとしても、プレゼン技術を向上させるための育成がマネジメントとして必要になってきます。
思考のパターンが異なっても適用できる育成開発には本質を見極めることが第一歩
ここでマネジメントが考えるべきは、「技術者のプレゼン資料作成スキルに関する本質的な課題は何か」ということです。結論から先に言うと、「プレゼンすべき全体像が見えていない」ということです。
全体像が見えていないからこそ、インプットしたい情報量が増加します。しかし、スライドの枚数を増やすと間延びする。そのようなことを恐れて限られたスペースに字を盛り込む結果、字数が大変多く、結局何を言いたいのかわからないということになります。
情報量が多すぎる故に、何を伝えようとしているのかという作成者の意図が、プレゼンを聴く側は理解できないのです。これは上記で紹介したパターンAです。
一方で、何を伝えるべきかを考える前に見やすいものを作成することに意識が向きすぎると、中身が支離滅裂になってしまいます。左へ行ったり右へ行ったり、かと思えば突然前進したり。
本人が思っている以上に、プレゼンを見ている側は作成者の意図を理解するために、大変な負担を強いられていることになります。これがパターンBです。どちらも、全体像を俯瞰的にみるようにすることで改善が期待できます。
パターンA:全体像が見えない故に、伝えなくてはいけない重要な部分の抽出ができていない。パターンB:全体を見ながらどのような順番で伝えるべきか、という整理ができていない。
上記のように、プレゼンすべき全体像が見えていないことが、本質的な原因として認められる、というのがその理由です。では、どのように全体像を見ればいいのでしょうか。
手書きで全体像を絵に落とし込めれば俯瞰的視野を手に入れられる
ポイントは・手書きであること・絵で描写することです。これがプレゼンテーションの肝となる「企画」です。言い換えると設計図になります。まず手書きが基本です。PCを使う場合、手書きの液晶タブレットを使うのは問題ありません。
(媒体がPCか紙かの違いだけで、手書きという本質は変わらないため)手書きで描写することは、PCでひたすら字を記述するよりもはるかに脳的に負荷がかかります。負荷がかかるということは、脳を活性化させることにもつながります。
特に昨今の若手技術者のようにデジタルに慣れ親しんだ技術者は、手書きの経験が年長者よりも少ないことが多く、手書きによる負荷が脳の活性化に大きな効果をもたらす可能性が高いと考えられます。
まだあまり使われていない脳の領域が残されているかもしれないからです。手書きはPC等で字を書くよりも速度が遅くなるため、書きながら色々なことを考えることも可能となり、頭を整理することにつながります。
また絵を描くのもポイントです。画家のように風景画を描くというという意味ではありません。「プレゼンで伝えるべきキーワードを抽出し、それらを関連付けながら、どのような順番で伝えるのか、というフローチャートを作る」というのが、プレゼン資料の企画における「絵」の一例です。
このキーワードを抽出し、流れを作るというのはプレゼン資料の企画の根幹でもあり、情報量が多くなりがちな技術者にとっては何を優先して伝えなくてはいけないのかの理解に、流れを上手く作れない技術者にとってはどのような流れで伝えればいいのかの理解につながります。
マネジメントは上記のようにして手書きで作成された絵を確認してください。そして、・その絵が全体の像をきちんととらえているか・わかりやすく伝える流れができているか について確認をすれば、プレゼン資料を作成する前の段階でそのプレゼンの骨子にブレが無いか、そしてわかりやすい流れとなっているかということがわかるかと思います。
プレゼン資料はオンラインでの打ち合わせが増えた昨今、そのスキル向上が今まで以上に求められています。オンラインという限られたインフラで、必要な情報を伝える必要があるからです。しかしながら、技術者にプレゼン資料作成スキルをみにつけさせるには、結局のところ事前準備である手書きのスケッチという全体像、つまり企画がポイントになるのです。
今後の技術者育成の一助にしていただければ幸いです。
【著者】
吉田 州一郎
(よしだ しゅういちろう)
FRP Consultant 株式会社
代表取締役社長
福井大学非常勤講師
FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。
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