【制御盤の未来と制御盤DX】日東工業、愛知県瀬戸市の瀬戸工場が稼働開始 盤用カスタムキャビネットの自動化ライン DXとGXの両立を実現したスマートファクトリー

日東工業は、愛知県瀬戸市に建設していた新工場「瀬戸工場」が完成し、このほど稼働を開始しました。新工場は、キャビネットのWEB注文サービス「CABISTA」のうち、よりカスタム度が高い注文ができる「スマートオーダーキャビネット」に対応する工場として建設され、混種混流の自動化生産、マスカスタマイズに対応したスマートファクトリーとなっています。加えて、工場はZEB認定を受けた環境配慮型の省エネ工場で、且つ使う電力は100%カーボンニュートラルなエネルギーで賄うグリーン工場も実現しています。新工場の様子をレポートします。

キャビネットを中心に電気の安全利用を推進

日東工業は、グループで1600億円を超える売上があり、配電盤、分電盤、制御盤などの箱、キャビネットを事業の柱とする盤業界のトップメーカー。瀬戸焼で知られる陶磁器の街・愛知県瀬戸市で、陶磁器とプレス技術を活用したカットアウトスイッチ(引込開閉器)など電気機械器具の製造・販売メーカーとして1948年に創業(1970年に長久手市に本社移転)。分電盤やキュービクルの製造のほか、ブレーカーなど電気を安全に使うための電気機械器具などを手掛け、その一環として1967年にブレーカーなどを覆って保護する鉄製の箱・キャビネットの製造・販売を開始し、IT向けのシステムラック、光接続箱などに派生して広がり、いまに至ります。

生産拠点は国内に8拠点あり、今回稼働を開始した愛知県瀬戸工場をはじめ、静岡県に菊川工場と掛川工場、磐田工場、岐阜県に中津川工場、栃木県に栃木野木工場、佐賀県に唐津工場、岩手県に花巻工場を展開しています。

人と環境にやさしいスマートファクトリー

今回の瀬戸工場は、1967年に建設された名古屋工場の老朽化にともない、生産を移管する目的で近隣の瀬戸市へ新たに建設されたもので、コンセプトは「DXを駆使した人と環境にやさしいスマートファクトリー」とし、生産の自動化と環境配慮・カーボンニュートラルを両立させた工場となっています。設備投資額は約250億円で、黒野透 取締役社長COOは「名古屋工場は設立から57年が経って老朽化が進み、稼働しながら補強するのは難しいことから、新たに250億円をかけて瀬戸新工場を整備し、4月23日に無事稼働開始することができた」としています。

注文、設計、生産まで一貫したデータ連携でマスカスタマイズ実現

瀬戸工場では、自立キャビネット、ITや通信業界向けシステムラック、ブレーカー電子応用品等の生産を担っています。このうち自立キャビネットは最新の自動化ラインを整備し、WEBサービス「スマートオーダーキャビネット」から注文を受けた大型の特注品、カスタム品を、混種混流で自動生産を行うマスカスタマイズを実現したスマートファクトリーとなっています。

同社は、キャビネットに関するWEBサービスとして、標準キャビネットの穴加工も注文できる「CABISTA(キャビスタ)」を提供しています。WEB上で標準品のキャビネットを選び、画面にしたがって穴加工など必要な加工図面を作り、見積もり・注文すると、数日後に加工が施されたキャビネットが手元に届くというもの。これまでは盤メーカーが機械CADでキャビネットの図面を描いて板金業者に発注、または標準品を購入した後に穴加工を外注または自分で行っていたものが、CABISTAを使うことですべてWEBで完結し、手間がかからず効率的にキャビネットが調達できる便利サービスとして採用が広がっています。

「スマートオーダーキャビネット」はCABISTAのなかでもよりカスタム性の高いサービスで、フルカスタムでキャビネットを注文できる特注品サービス。サイズや色、扉の向き、ボルトやネットの位置、穴加工など、イチから独自の箱づくりを依頼することができます。

瀬戸工場はこのスマートオーダーキャビネットで発注されたカスタム品・特注品の生産を担い、データを生産ラインにも活用し、マスカスタマイズの自動化生産を実現しています。

ほぼ人手を介さない自動化ライン

キャビネットの自動生産ラインは、ボデーとドアはそれぞれ別の加工ラインで加工され、塗装して組み立てられて完成、最終検査を経て出荷されていきます。

WEBで注文が入ると、材料棚から板材が自動的に取り出されて穴加工され、ボデーとドアのそれぞれの加工ラインに分かれて、バリ取り、曲げ、仮組み立て、溶接、検査まで一直線のラインで加工されていきます。仮組立と検査以外は人はおらず、全部自動で加工から搬送まで行われます。

検査終了後、ボデーとドアはAGVで保管エリアに運ばれて塗装を待ちます。塗装の順番が来たらAGVがシステムからの指示に従ってそれぞれを運び、塗装エリアでボデーとドアを引き合わせて1セットにして自動ラインで塗装を開始。塗装と焼きは2回ずつ行い、自動車の塗装レベルの高品質の強力な保護塗装になっています

塗装後に最終組立をし、検査して出荷。ここまでほぼ無人で進み、完成まで自動化設備でできるようになっています。

システム一新。装置間連携に苦心

自動生産ラインを構築するにあたり、工場のMES(製造実行システム)は、他の工場で使っているものとは別で、新しいシステムを採用したとのこと。大きなチャレンジでしたが、現在まで順調に稼働しており、ここでの成功をもとにシステムを他の工場にも横展開して自動化を進めていきたいとしています。

一方で、苦労した点として、装置ごとにPLCやロボット含めてメーカーが異なるため、そのつなぎ、連携が大変だったとのこと。確認できただけでも、ロボットや板金加工機で複数メーカーのものを使っており、それ以外にもAGVや塗装機械もあり、PLCも異なる数社のものがありました。

ZEB認証取得・BELS評価5つ星の環境配慮型工場

環境対応についても、工場はZEB認証取得で、電力は100%再生可能エネルギー(自家発電+証明済み電力の購入)のグリーン工場となっています

工場の屋根にはパネル容量1312kWの太陽光発電システムを取り付け、電力は空調や照明、生産設備の稼働に使用。夜間や曇りなど太陽光発電システムは発電量が上下するため、不足分は証明済みのカーボンフリー電力を購入して補い、工場で使う電力はすべて再生可能エネルギーで賄っています。蓄電システムとして、EVの使用済みバッテリーをリユースした産業用太陽光自家消費蓄電池システム「サファLink-ONE―」を導入して、防災電源としても使用しています。

また来客用・従業員用駐車場にはEV充電設備を設置してEV利用を推進しているほか、駐車場脇には別の太陽光発電システム(パネル容量1134kW)を設置し、ここで発電した電力は中津川工場へ託送しています。

まとめと感想

工場の内部に入ってはじめに感じたのが、キレイで明るく、整然とものが並び、人が少ないこと。新工場なので当たり前のことかもしれませんが、見た目の第一印象では、過去にいくつか見学した海外のLighthouseと呼ばれる先進的な模範工場、スマートファクトリーとも引けをとらないものでした。

また当初は標準品を自動で大量に製造する工場と予想していましたが、実際は特注品・カスタム品を担当しているとのことで、マスカスタマイズを自動化で実現しているワンランク上の挑戦に驚きました。CABISTAというWEBツールでキャビネットの設計と注文を自社サービスの領域に組み込むことで顧客と直接つながりを持ち、そのデータ収集を可能にし、そのデータを活用することで設計・製造連携を実現し、さらに製造現場では混種混流、自動化でマスカスタマイズを実現しているのも見事です。現在はまだ稼働開始したばかりですが、これから稼働率が上がってどう進化していくのかが楽しみです。

また、FAなど工場内の自動化はもちろんのこと、EVや社会全体の自動化・電化にともない、今後ますます電気の利用量と利用する場所、利用するアプリケーションは増加が見込まれています。それとともに盤の数や種類も増え、盤業界で製造しなければならない面数は増えていくと予想されています。その一方で、盤製造を担う盤メーカーは人手不足が慢性化しており、将来的には生産能力が減って盤の需給バランスが崩れる恐れも出てきています。

その解決策として、発注者・設計者による盤の標準化と盤メーカーによる製造効率化の両方のアプローチが必要となり、今回の日東工業の瀬戸工場は後者のアプローチを強化するもの。盤メーカーがカスタム対応にかかる手間をWEB設計・注文システムと自動生産システムによって解決しています。

とは言え、製造効率化で対応できる量にも限界があります。製造側でこうした効率化を進める一方で、発注者・設計側が標準化を進めて設計をシンプルにすることが、盤メーカーの生産キャパシティを増やし、品質の安定にもつながります。標準化は難しいことではなく、キャビネットをイチから設計して板金業者に発注するのではなく、標準品、カタログ品から選んで使うことも標準化のステップのひとつ。制御盤DXはそうした一歩の積み重ねが重要です。

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