一九五六年はオートメーション元年と言われている。この年に日本で初めて現在のセンサーに相当する繰り返し精度の高いマイクロスイッチの生産が開始された。その後FAマーケットは急速に広がった。
7年後にはメーカーの直販では対応ができなくなり、有数の販売店が特約店という看板を持って営業するまでにマーケットは成長した。特約店には促成的に電気知識や商品知識の研修が行われた。販売員はそれらの知識を持って毎日が新規客開拓だった。当時の行動は朝礼が終わると訪問準備を確認して社を飛び出す。もち論、携帯電話等の連絡手段はない。一旦、社を飛び出せば夕刻帰社するまでは糸の切れた凧の如くであった。新規客訪問しているのか、どこかでさぼっているのかは本人まかせという状況であったのだ。したがってかつてよく言われていた報告、連絡、相談、略してホウレンソウの徹底は欠かせない事であった。この報連相を実際の行動に結びつける一週間単位の報告制度があった。忙しい毎日のじゃまにならない程度の報告書で、一覧報告書と言った。
文字通り、一目見て何が問題であるかわかるB5版用紙一枚の報告書であった。報告書の内容は二系統の項目から成っていた。一系統目の項目は目標が数値化された項目だった。項目のトップは受注状況であり、当月の目標に対し当週の営業活動や状況が順調であれば〇を書く。うまくいってない時は対策を簡単に一行程度で書いた。受注の他には客先訪問件数、新規客開拓件数、商品開発改造依頼件数や当月の作成状況等の項目があった。これら一系統目の項目が順調ではないと判断したらすべて簡単な対策を書いた。二系統目の項目は当週で発生した報告書の項目である。納期、見積もり価格、商品クレーム、修理などのサービスに係る項目であって問題あれば状況を記し、なければ〇にして金曜日に提出した。この一覧報告書は短時間で書けたが一週間の目標に対する行動がいい加減では書けるものではない。各項目の目標は数値化されているから事実を粉飾して玉虫色に報告するのはむずかしい。この一覧報告書は販売員の行動の見える化になっていたのだ。しかも数値化された目標項目はマーケットの成長期に合せた項目になっていた。現在のFAマーケットは大きいし裾は広く、安定している。販売員が扱う商品は豊富であり、顧客も多い。スマホやパソコンを持った販売員はどこにいても報告はできるし連絡もつく。困ったらその場で相談はできる。それでも日本はデジタル化がおくれているという指摘があって、数年前からデジタル化促進の風潮が広がった。販売員の行動管理もデジタル化が当たり前の風潮になっている。時にコロナ感染症の流行でデジタル化は進んだ。リモート会議はふえ、営業もリモートでという風潮を醸し出しているがデジタル化は世の中の風潮に合せて推進するものではない。無駄な仕事を省いて余力を作り生産性を高めるためである。営業一人当りの売上、利益を高める一ツの手段である。営業は昔から外出時間が多い。費す移動時間はバカにならない。リモート化は少なくとも移動時間の短縮に貢献する。在宅勤務や直行直帰の奨励等の営業が増えているが移動時間を減らせても生産性を上げる営業になってなければ意味はない。アナログな一覧報告書はFAマーケットの成長時代に販売員の行動を管理し成長時代に合った販売員の営業力を育む役割を果たした。現在目標管理を導入している販売店は多いが今の時代の営業力とは何かを考え、それを育むための行動目標管理をデジタルでもアナログでもいいから実践することが重要なのだ。