【製造業・世界と戦う担い手づくり エキスパート待望 (89)】製造現場のオペレータのリーダーに求められるスキル

製造現場の最前線でものづくりに奔走する技術者たちのことを、オペレータと呼ぶことがあります。製造現場は、「危険、無理、無駄なく、同じものを不具合なく作り続ける」ということを最上位のミッションとして日々の業務に邁進しています。
自動化の波は押し寄せていますが、本当の大量生産の一部を除き、すべての業務を完全に自動化することは現段階では不可能でしょう。また何より製造現場の工程の自動化を実現するには、自動化を進める側のオペレータが、工程の本質という技術的な部分を理解しなくてはならず、言うほど単純ではありません。
いずれにしても製造現場に人は必須なのです。このオペレータの育成については、安全に関する意識が最重要、その次に決められたことに対して手を抜かずに継続することが重要である。そして製造現場で重要なのはこれらオペレータという技術者を束ねるリーダーの存在です。
この製造現場のリーダーは、「俺の背中を見て育て」という職人肌や、「持っている精神と肉体の限界まで業務に邁進しろ」というスポ根のタイプが多く、うまくはまれば現場のオペレータも育ちますが、場合によっては可能性のある若手が育たずに会社を去るということも多いようです。
そこで今回は、製造現場のオペレータのリーダーに求められるスキルということに着眼してみたいと思います。

製造現場のオペレータのリーダーに求められるスキル

製造現場に求められるのは、「危険、無理、無駄という芽をつみとり、安心かつ安定、さらには高効率の現場を実現する」という日々の積極的な取り組みです。
現場において何が必要か、それをどのようにすればいいかを一番知っているのは、「製造現場に最も近いところにいる技術者である」というのは自明な事です。
しかし多くの現場の技術者達、いわゆるオペレータは、「どうしたら自分たちの考える改善提案を伝えればいいのかわからない」と悩んでいる、もしくはそのような言動の必要性にさえ気が付いていないことが多いのも事実です。
ここがリーダーの出番です。製造現場の最前線で働く技術者達の考える改善提案を具現化するのを支援するのです。この支援の最強の武器が「技術評価企画」です。

技術評価企画の本質

では製造現場の改善提案を目的とした技術評価企画の本質は何かを考えてみます。本質は以下の点です。・改善提案の「目的は何か」・目的の達成に必要な「成果物は何か」・「具体的にどのように改善させる」のか・改善したか否かの「技術的な判断」はどのように行うか
まず目的がはっきりしていなくては技術評価企画は作れません。こうした方が良いと思う、というのは簡単ですが、それをきちんとリーダーを通じて会社側に提案できなければ、その必要性を会社として理解するすることができないからです。
そして、その目的に対応する成果物の説明も必須です。改善への取り組みをすると、データ、治具、改造した設備等、何かしらの成果物が発生します。
その成果物が「目的の達成に必要十分か」を示すのです。技術報告書でいう目的と結論が1:1であるのと同じ理屈です。ここをきちんと説明しないと、そもそもどのようなことをやればいいのか、という計画の過不足が判断できません。
そして、その次に必要なのが具体的な手順です。「具体的」というのが重要です。できる限り具体的に何をすれば危険、無理、無駄が無くなるのか、または減るのか、がいえないと計画倒れになります。抽象的な表現は企画の意味がありません。
そして最後がその取り組みが本当に効果的かを「技術的に判断する」ということです。オペレータは現場の「技術者」です。技術者は技術という客観的な事実に基づき、それが真実なのかを示す義務があります。
この評価を技術的な観点、例えば数値データの統計解析、工程の時間計測、工程変更前後での製品性能同等性分析等(成分分析、元素分析、分散分析など)を行います。ここも具体的にどのように評価するかを述べるのがポイントです。

技術評価企画の運用方法とメリット

この技術評価企画ですが、事前の承認と一連の評価終了後の結果報告までがワンセットです。事前に承認工程を経ることで、何をやろうとしているのかをマネジメントをはじめとした、会社側の人間が理解できるようになります。
また、一連の取り組みは最終的に報告書としてまとめることが不可欠です。報告せずにやりっぱなしになると、「過去の知見が残っておらず、同じことや類似の事を毎回ゼロからやり直す」とういうことになり、結果として遠回りになるため多くの時間が必要となるのです。
このような長期視点での無駄につながるところまで見るかが、マネジメントとして重要な点です。技術評価企画は作成するのに労力がかかる上、現場からは何故製造がこのようなものを作成しなくてはいけないのか、という不満があがることもあるかと思います。
しかし製造現場での問題は製造現場の技術者が最も状況を理解しているはずです。これを他の人が担うのは困難でしょう。また、技術評価企画は一度立案してしまえばあとは基本的には粛々と進めるだけです。軸ブレが無いため効率的なのです。
行き当たりばったりで評価をしていると、同じような評価を繰り返す、過去の改善提案の経験が生かされないまま類似の取り組みを行う等、結果的には非効率なのです。製造現場の業務の推進も「準備が要」です。
是非、製造現場のオペレータのリーダー格の方に対しては、技術評価企画立案という要となる準備工程をやり切れるよう、実践を軸としたスキル習得を促してください。

【著者】

吉田 州一郎
(よしだ しゅういちろう)
 FRP Consultant 株式会社
 代表取締役社長
 福井大学非常勤講師

FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。
https://engineer-development.jp/

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