先回の文章で、私がYouTubeチャネルを始めたことで、少しずつデジタルのことが分かってきたと申し上げました。しかし、デジタルのことが分かってきたといっても、自分でいろいろな技術を発揮できるようになったということではなく、デジタルのすごさが分かったということです。ではこれからコンサルタントとしてそれをどうするのか?ですが、これまで蓄積してきたアナログカイゼンの経験と技術にデジタルの技術を上手に組み合わせて成果を出していく方法を創り上げて、日本の中小の製造業の発展のお役に立ちたいと思っています。
具体的には会社にいるデジタルネイティブの若い人のデジタル力と私達先輩がアナログの時代に蓄積してきたカイゼンに関するいろいろな経験・技術を融合させて、日本のモノづくりの特長であるカイゼンをベースにしたデジタルシステムを創り上げたいのです。
私の指導先のI社では、現場が書く日報をデータにまとめる作業をどうやって効率化するかを検討した結果、現場の方たちがパソコンで日報を書くように変えるのではなく、これまで通り手書きで日報を書いてもらい、それをスキャナーで取り込み、OCRでデジタル化することにしました。これは生産現場の生産性を優先しながらデジタル化を進めるといった全体最適の考え方になっていると思います。
例えば、コロナウィルス感染の対策遅れでよく取り上げられる「日本の保健所にはいまだにファックスが主流の所がある」といったアナログの仕事の進め方があります。この言い方からすると、ファックスを未だに使っていることが遅れの原因となって、対策はファックスの廃止とデジタル情報システムの導入となると思います。しかし今の日本で突然ファックスを廃止してしまうことの方が効率を落とすと思います。ファックスを使いながら遅れをなくす方法を考えるという方向もありだと思います。
先日私は現場の若い方とこのテーマの議論をしておりました。私が「ファックスを使いながらもあまりお金をかけずに簡単にデジタル化できたらいいなあ」といったところ、そこにいた方が、「柿内さん、グーグルレンズってアプリ知ってます?ちょっとやってみせますから何か書いてみてくれませんか?」と言ったのです。そこで自分の名前をへたな字で書いたのですが、それをスマホでひょいと読み取ってすぐに私宛に送ってくれました。見事に「柿内幸夫」とテキスト形式で書いてありました。スマホがあれば、「スキャナーで取り込みOCRでデジタル化する」という作業がタダでできる時代になっているということです。これは使えそうだな…、いいこと教わった!と思いました。
若い人には当たり前のことが私には超驚きです。すべてをデジタル化しなければいけないと考えるのではなく、アナログとデジタルの共存から始めてみるのも私達日本の中小製造業らしい新たなカイゼンであると思います。そしてこれをカイゼンをベースとした日本式IT化へとつなげていきたいと考えています。Japanese IT、Just In Time に続く新しいJITを生み出すのです。
現場にデジタルを取り込むカイゼンを若い人を巻き込んで実行してみましょう。
■プロフィール
柿内幸夫
1951年東京生まれ。(株)柿内幸夫技術士事務所 所長としてモノづくりの改善を通じて、世界中で実践している。日本経団連の研修講師も務める。
経済産業省先進技術マイスター(平成29年度)、柿内幸夫技術士事務所所長改善コンサルタント、工学博士技術士(経営工学)、多摩大学ビジネススクール客員教授、慶應義塾大学大学院ビジネススクール(KBS)特別招聘教授(2011~2016)、静岡大学客員教授
著書「カイゼン4.0-スタンフォード発企業にイノベーションを起こす」、「儲かるメーカー 改善の急所<101項>」、「ちょこっと改善が企業を変える:大きな変革を実現する42のヒント」など
一般社団法人日本カイゼンプロジェクト
改善の実行を通じて日本をさらに良くすることを目指し、2019年6月に設立。企業間ビジネスのマッチングから問題・課題へのソリューションの提供、新たな技術や素材への情報提供、それらの基礎となる企業間のワイワイガヤガヤなど勉強会、セミナー・ワークショップ、工場見学会、公開カイゼン指導会などを行っている。
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