令和の販売員心得　黒川想介 （119）「全自動」を夢見たFA黎明期　意気込みなくなり効率重視へ

現在、隆盛を誇っているFAマーケットではオートメーションという言葉を使った会話は皆無である。しかしFAマーケットの黎明期にはオートメーションという言葉をよく使った。その言葉には夢があった。製造現場でオートメ化が進めば将来は全ての機械設備は自動で動き、製作業者は一人もいない無人の工場が稼働しているだろうと夢物語的に語っていた。ただ語るだけではなく当時のオートメーションに携わる製造技術者や工場に出入りするFA販売員には工場の設備をなんでもかんでも自動化してやろうという意気込みがあった。FAマーケットの成長期には大型の自動機械が製造現場に次々と入ってきた。バブルのはじける頃には工程やラインは自動化され、黎明期で夢物語で語っていた無人工場とはいかないが工場には作業者は少なく自動化設備ばかりが目立つようになっていた。現場にはなんでもかんでも自動化してやろうという雰囲気はなくなり、製造技術部門の仕事は自動化設備を効率化するための改善や改造が主体となった。それを後押しするかのようにFA機器には色々な機能が追加され、高性能化したFA商品が開発された。FA販売員はそれらの商品をいかに多くの製造技術者に紹介するかという営業活動が主たる仕事であった。その後、コンピューターや通信の発展で社会は急速に情報化の様相を濃くしてきた。その一方で経済はデフレ基調が続き製造現場は増設備ではなく改善や改造でコストを下げる努力を重ねた。

　経済のデフレ基調は長くつづき、補修、改善、改造で凌いできた製造現場では設備は古くなったり、あるいは生産力をあげなければならない局面に至ったりして、製造設備のリニューアルをする現場がふえてきた。製造設備の大型リニューアルは増設に近いFA需要をつくった。FA販売員はそれまではいかに多くの製造技術者に新商品を紹介するかという活動が主体であったがリニューアル情報をいち早く入手して商談テーマ化する活動が主体となった。その後リニューアル情報は言うに及ばず、競合情報や改造、改善情報などから派生するあらゆる案件を商談テーマ化し進捗管理する営業になっている。FA営業の歴史は社会や製造現場の変化に応じてどうやれば売上を上げられるかを考えて色々な方法を試みてきた。FAマーケットの黎明期から成長期にかけては『如何に多くの』顧客をつくるかという活動であった。日本経済バブル崩壊くらいから『如何に多くの』製造技術者にカタログ、サンプル等の情報を見せるかという活動になった。製造設備の大型リニューアルで改善・改造が盛んになると、FA営業から『如何に多くの』という枕詞は消えた。それが売上予算にも波及して如何に多くのではなく最低でもやりたい無難な売上予算が容認された。営業活動は『如何に多くの』から効率重視に移った。その中心になったのが案件や競合情報の商談テーマ化であり、テーマの進捗管理活動となっている。令和のFAマーケットのゆくえと言えば誰でも思いつくのが製造現場のITオートメ化とロボット化である。両者を装備する工場の実現は費用の面から見て明日に出来る事ではない。FAの黎明期では製造現場のFAが徐々に進み、ある時から急成長したようにITオートメーションも似たような事になると考えて置いた方がいい。ロボット化はFAの分野であるが大半の現場で人の作業がいきなりロボット化するするわけではない。なぜ今まで自動化してなかったかを考えればわかる。資金だけの理由ではない。現場の技術者やそこに出入りするFA販売員に昭和FA黎明期のようになんでもかんでも省力化してやろうという意気込みがなくなってしまったのも一ツの理由なのである。