FAマーケットの黎明期にはFA営業にとって盤メーカーは大きな存在であった。当初は受配電盤、分電盤、動力盤が主であり、制御盤はわずかなものであった。その制御盤用モーターを入切するプランジャーのマグネットスイッチ型リレーで制御回路が組まれていた。プラグイン小型リレーが発売されたばかりであったから盤メーカーではまだなじみが薄く、ソケット込みの価格は割高であったからである。
まだこの時期の盤メーカー需要は国内のインフラ設備が大半であって、製造業のFA需要は少ないことを物語っている。当初のFA営業は現在のFA営業の売り込み活動と同様にカタログを持参し、商品の使い方や特徴をアピールして売り込む営業であった。しかし販売商品の種類は少なく盤メーカーの制御盤需要が少ないことでもわかる様にオートメ化を積極的にやっている現場は少なかった。だから売上拡大をするには商品カタログによる売り込み営業では限界があった。
販売員は商品売込活動がうまく行かなくても、その顧客が作っている製品のどこかにオートメ化する個所はないか、製造現場のどこかに自動化する個所はないか、と探りを入れた。FA営業は60年代から70年代の成長期に新規の顧客を拡大しながら顧客と一緒になってオートメ化する個所を徐々にふやした。その様な活動は結果としてFAの技術を進展させた。その結果、位置の制御だけでなく、時間制御、レベル制御、計数制御、温度や圧力制御の機器が発売されて当初ニッチなマーケットだったFAが現在のような大きなマーケットに成長した。
こうした経過を見てみるとFA営業にはマーケットを開拓する基盤がある。FAマーケットが出来上がった現状では商品拡販力や顧客開拓力には力を入れているがマーケット開拓力の影は薄くなっている。大きくなったFAマーケットを牽引するFA機器メーカーはロボットに関する技術やITオートメーション技術を発展させて行くから、高価な商品や高度なシステム受注へと向うだろう。
そしてそれは更に大きなマーケットへと発展する。そこでFA黎明期を振り返って見ると見えてくるものもある。当初盤メーカーがリレーでシーケンス回路を組み込む時に動力メーカーが作っているモータを入切するマグネットスイッチを使った。この時点で動力メーカーは制御用のリレーへの進出を考えなかった。既に大きなマーケットがあった動力系メーカーにはまだニッチな制御マーケットを見ようとしなかった。大手の動力系メーカーに代って電気業界ではニッチなオートメ市場へ進出したのがベンチャー型のメーカーであった。その様な経路を見るとFA営業の根底にはベンチャーがあるのだ。大手や中堅の製造業の現場ではIT化やロボット化が進んで先進的な製造現場になっていくのは見えている。
それでもあまり付加価値の取れない製品を作る現場を筆頭にして作業者を介在して生産している中小の現場は多い。人手不足をなげく昨今、自動化をすればいいのではないかという声は大きいが、それほど理想通りにやれる現場なら既にやっている。
人手不足解消を理想的な自動化でやれなくとも工夫を凝らした省力化でやるところからFAマーケットは発展してきた。現在のFAマーケットの大きな潮流はよく見えるがFAの表舞台で活動しているFA営業にはもうひとつのマーケットである工夫を凝らす省力化のマーケとが見えていない。FA営業の根底には小さなマーケットを見つめて成長させようというベンチャーの考え方がある。それを引き継ぎ継ぐのは現場に密着している中小販売店の販売員である。