サーボモータの市場の回復が鈍い。生産は正常に戻っているものの、市中在庫の整理が続いていることに加え、主要需要先の半導体製造装置や工作機械などの出荷が低迷している影響を受けている。サーボモータの製品傾向は、高分解能化と高速・高精度制御、調整作業の簡素化、省配線化、安全対策などを中心に取り組まれている。カーボンニュートラルに対応した取り組み強化による需要増も期待されている。半導体関連や自動車関連の投資は継続しており、在庫調整が終了すれば一気に上昇基調に転じるものと期待されている。
日本電機工業会(JEMA)がまとめている生産統計によると、2023年度(23年4月~24年3月)のサーボモータの生産額は、前年度比85・1%の1030億円2800万円、サーボアンプは同88・7%の1008億500万円で、合わせて2038億3300万円になっている。23年度は20、21年の部品不足が解消して生産はほぼ正常に戻った一方で、主要需要先の半導体製造装置や電子部品実装機、ロボット関連向けなどの市場が低迷。加えてこの間の増産した在庫が大幅に増えたことで、生産は2桁の減少となった。月ベースでも170億円前後と、200億円を大きく下回っている。
24年度は、サーボモータが同100・8%の1038億円8700万円、サーボアンプが同100・8%の1016億4600万円で合わせて2055億3300万円とほぼ横ばいの見通しを立てている。中国市場が停滞していることに加え、半導体製造装置も年内の回復は予断を許さないことなどから、24年度上期は在庫調整が続くことが予想される。
24年上期(1月~6月)のサーボモータとサーボアンプを合わせた出荷実績は、前年同期比65・2%の736億円となっており停滞をしている。サーボモータの大きな需要先であるロボットは、サーボモータとセンサで構成されているとも言えるほど、ロボットの伸長率とサーボモータの伸長率はほぼ比例する。ロボットがサーボモータの市場拡大の牽引役として果たす役割は大きい。ロボットは慢性的な人手不足から代替え手段として期待されており、人と協働で動くロボットの開発も盛んだ。加えて、自動機やロボットででしかない作れないものも増えており、自動化投資が進んでいる。用途も工場での作業用や物流分野、非製造業でもホテルでの案内サービスや外食産業の人手補完用、警備や清掃などといった幅広い用途で採用が進みつつある。コロナ禍での感染リスクを避けるための需要も出始めている。
サーボモータ各社は、使いやすさに重点を置いた製品開発を進めている。複雑な制御調整が簡単にできるオートチューニング機能、機械の振動を抑えながら短時間で位置決めを行う制振制御技術、作業の安全を確保するセーフティ制御技術、さらに効率的な生産を進めるネットワーク化対応などが開発のポイントとなっている。
オートチューニングでは、機械の負荷変動や剛性に応じて安定した制御の実現を簡単にできる方法を各社が独自に開発している。制振制御技術ではアーム先端の振動に加え、装置本体の残留振動も抑制できる低周波抑制アルゴリズムを搭載し、さらなる高精度調整を可能にしている。
高速化では、速度周波数応答4・0kHz、27ビットロータリーエンコーダの標準搭載で、1億3420万パルス/回転を超える高分解能製品もラインアップされてきており、位置決め整定時間を大幅に短縮し、高精度な位置決めや微細加工を可能にしている。整定時間を短縮することは、業務の効率化につながり、機械・システムの生産性が向上する。
さらに、モータ回転数も7150r/minまで上がっている。
また、サーボモータの制御に関しては、指令応答特性を高めるフィードフォワード機能(FF機能)と、外乱抑制特性を高めるフィードバック制御(FB制御)があるが、FF制御とFB制御を完全に分離して制御を行うことができる、2自由度制御方式を搭載したサーボモータも使われている。両制御を完全に分離することで、より高速・高精度なモータ制御が実現する。例えば電子部品実装機では、部品搭載ヘッドの振動を抑えた高速実装タクトの実現や、金属加工機では、摩擦や粘性の影響を少なくし、切断面を滑らかにするといった高精度な加工が実現できる。さらに、1台のアンプで最大3台(3軸)のサーボモータができる機種も評価が高まっている。
最近注目されているのは、アンプの診断機能を使ったサーボモータの予知診断機能である。サーボモータの稼働時間などを計測して、故障などを予知することで稼働停止などに伴うトラブルを未然に防止することにつながる。
そのほか、小型化の一環として動力と信号をひとつのコネクタで接続できるようにすることで、コネクタのスペース削減し、コンパクト化を実現している。
小型・軽量化では、サーボドライブが必要とするトルクを直接供給するダイレクトドライブ(DD)モータは、減速機、ベルトなどの中間機構を介さずにモータと機械を直接接合し、動力・動作を伝えることができることから、薄型・コンパクト化でシンプル構造が可能になる。減速機などを使用しないことで特に低速での駆動が安定していることや、減速機の歯車から発生する微振動や音も無くなり、静かで周囲環境にも優しい。当然ながら、減速機などのメカ機構がないことで摩耗や歯車の噛み合わせずれによる位置精度誤差や故障の発生といったトラブルの要因も減らせることになり、メンテナンス作業の軽減、低コストや省資源というメリットにもつながる。最近注目の2軸一体型DDモータでは、モータ中央部に2つの独立した回転軸を持たせることで別々の動作を同時に行うことが可能になり、ロボットハンドリングなどに有効だ。2軸のアンプを使用すれば制御盤のコンパクト化も図れる。
リニアサーボモータの動向も注目されている。回転型サーボモータとボールねじとの組み合わせに比べ、推力が大きく、短ストローク移動で加減速の繰り返しなどに強みを発揮できる。特に、小型で速い動きが求められている機械などに最適である。リニアサーボモータでは、高ショット往復運転のリニアアクチュエータが半導体テストハンドラ装置などによく使用されているが、新たにZ軸制御できるようにした開発も進んでいる。
今後のサーボモータの利用領域を拡大するうえでモータがセンサの役割を果たしながら、機械装置内の様々なデータを検出しながら同期していくことが重要になってきている。工場の生産ラインに携わる人が減少するなかで、装置の状態、サーボモータの動作や稼働状態を常時把握して、異常検知や突発的な故障や停止を防ぐことは「止まらない工場」を実現するうえでも大きな鍵になる。
また、サーボモータをつなぐモーションネットワークの重要性も増している。とくにサーボモータとつながるエンコーダとの通信線に各種センサやI/O機器など接続することで、省配線化とエンコーダと同期したセンサデータの収集も可能にする動きも出ている。エンコーダとの通信方式もサーボモータ各社で異なった規格を使用している。
セーフティへの対応も進んでいる。メンテナンスや段取り替えなどの通常運転以外の作業でも効率も上げるために、機械装置を止めないで、安全に動かしながら作業することも必要になっている。そこで重要になるのはセーフティシステムへの対応だ、サーボモータに関連する規格として、ISO13849-1、IE C61508シリーズ、IEC62061、IEC60204-1、IEC61800-5-2などがあるが、このうちIEC60204-1は、機械の電気装置に関する要求事項を定めた規格で、停止の制御機能について定義されている。
可変速ドライブシステムの機能安全規格であるIEC61800-5-2への対応も行われている。安全規格への対応は特に、自動車製造関連の用途で求められることが多く、サーボモータ各社のほとんどが対応を行っており、最高安全認証レベル「PLe/SIL3」をクリアしている製品も多い。
このほか、厳しい環境下でも使用できるよう保護構造IP65などを標準採用したタイプや、IP67対応品も増えている。
低剛性への対応もポイントで、特に高速応答が必要なマシンボンダーや、低剛性メカニックを低振動で高速駆動したい取り出しロボット、多関節ロボットなどで重要視されている。
サーボモータは、従来の空圧や油圧装置名地に比べ大幅な省エネルギー化やCO2削減につながることから、カーボンニュートラルへの対応としての期待も高まっている。サーボモータ減速時の運動エネルギーを複数台のサーボアンプで共有したり、電源回生することで一層のエネルギー有効活用につながる。
サーボモータを含め、モータは産業の米といえるほど重要な役割を有している。自動車の電動化にも見られるように、モータの用途はさらに拡大することが見込まれ、需要の山谷は多少あっても基本は右肩上がりで推移するのは確実で、いまは技術蓄積と用途の開拓を進め、次の飛躍に備える時期と言えそうだ。