先日ネットに、あるイタリア人の若者の話が出ていました。日本にあこがれて日本で働こうと思い、日本語を勉強してようやく日本の会社に就職した。そこで彼が驚いたこととして次の3つが紹介されていました。まず紙が多いこと。日本では今でも紙を大量に使って仕事がされているので驚いた。次にハンコというどうしても意味が分からないモノが大切に扱われていることに驚いた。最後にファックスといったイタリアでは博物館にあるようなものがまだあることで驚いた、でした。(ちなみに彼は、ハンコは理解できないが、かわいいから好きだとも言っていました。)
彼は無邪気に日本で驚いたことを列挙したのでしょうが、これはイタリアと比べてビジネス面では日本がデジタル化で驚くほど遅れているということだと思います。例えばファックスに代わる圧倒的に便利なネットツールが随分以前からあるにもかかわらず、国内では問題なく使えるということで相変わらずファックスを使っている。しかし今回のコロナ騒動で、ファックスが使われていることによる弊害がしばしば取り上げられました。新しいことにチャレンジしないで来ているということのツケが回ってきたということでしょうか。何の問題も感じないで楽しく暮らしてきたが、ある日突然そのギャップが顕在化したのは竜宮城から突然現実に戻った浦島太郎の話ですが、ファックスはそれに近い気がします。(ちなみに、このデジタル化の連載の3回目で、ファックスもありと書きました。その時はファックスをアナログ的に使うのではなく、スキャナーなどを使ってデジタル化して使う活用法をご紹介しました)
のんびりした書き方をしましたが、これは真剣に考えるべきことだと思います。この状況は「日本にいる私たちは今やゆでガエル状態にある!」ということではないでしょうか。
現在、日本のデジタル競争力は世界で28位(2021年度順位スイスIMDが公表)ですが、日本全体のことはさておき、工場内のカイゼンでデジタル化が遅れてしまうのは何とも困ります。私たちカイゼンプロジェクトのメンバーはカイゼンにデジタルの力を導入するスピードを上げて行き、冒頭で話したイタリア及び世界の主要国の工場には絶対に負けないようにしたいと思います。
デジタル化することによるメリットですが、これは誰でも知っています。紙がなくなると情報が伝わるスピードが速まり、紙を保存する場所が不要になり、紙代が減少する。ハンコがなくなると、情報スピードだけでなくハンコを押すためにわざわざ会社に出向く必要がなくなる。そしてファックスがなくなると転記が不要になり自動計算ができ、あっという間に仕事が終わる。すべてスピードアップにつながります。
これは欧米では常識であると思うのですが、日本ではまだ多くの方々にとって心を動かされるインパクトになり切っていないようです。新型コロナウィルス感染拡大は目に見える大問題の発生であったので、日本の製造業は頑張って迅速に対応し、諸外国と比べて大問題の発生を抑えました。一方、目に見えないこのデジタル化の遅れに対しては、実にのんびりしています。多くの日本人にとっては、デジタル化が魅力的に見えないというのも進まない理由の一つなのだと思います。そんなに速くしてもしょうがない…みたいな感じです。しかし私はデジタル化の魅力の一つは「速さ」ですが、実はもう一つ、とてつもなく大きいメリットがあると思っています。
デジタル化は「全体最適」とものすごく相性が良く、デジタル化を進めることで全体最適を達成することができると思うのです。私がこれからの日本の製造業が進歩向上するに必要なことは全体最適だといつも言っていますが、それのツールとして是非とも使っていきたいのです。
■プロフィール
柿内幸夫
1951年東京生まれ。(株)柿内幸夫技術士事務所 所長としてモノづくりの改善を通じて、世界中で実践している。日本経団連の研修講師も務める。
経済産業省先進技術マイスター(平成29年度)、柿内幸夫技術士事務所所長改善コンサルタント、工学博士技術士(経営工学)、多摩大学ビジネススクール客員教授、慶應義塾大学大学院ビジネススクール(KBS)特別招聘教授(2011~2016)、静岡大学客員教授
著書「カイゼン4.0-スタンフォード発企業にイノベーションを起こす」、「儲かるメーカー 改善の急所<101項>」、「ちょこっと改善が企業を変える:大きな変革を実現する42のヒント」など
一般社団法人日本カイゼンプロジェクト
改善の実行を通じて日本をさらに良くすることを目指し、2019年6月に設立。企業間ビジネスのマッチングから問題・課題へのソリューションの提供、新たな技術や素材への情報提供、それらの基礎となる企業間のワイワイガヤガヤなど勉強会、セミナー・ワークショップ、工場見学会、公開カイゼン指導会などを行っている。
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