【製造業・世界と戦う担い手づくり エキスパート待望 (94)】技術的知見をまとめるには目次が最重要

技術者が技術的な業務を進めていると、様々な結果を取得し、またそれに伴う知見が蓄積してきます。これらを系統だててまとめることは、企業における技術の伝承の観点でも重要です。そして「技術的な知見をまとめる」という際には、技術的文章で記載するということが適切だと思います。しかし、実際に何から取り掛かればいいのかとなると、明確なアイデアが無い場合も多いのではないでしょうか。今回は技術的な知見や情報をまとめる際、最初に取り組むべきことについて考えてみたいと思います。

一番最初に取り組むべきは技術的知見に該当する項目をすべて洗い出す

技術的な知見と一言で言っても、様々な優先順位のものがあると思います。絶対にまとめなくてはいけないものから、
できればまとめておきたい、更には今記録として残さなくてもいい、というものまで色々です。技術的知見をまとめたいとなった場合、まず取り組むべきは「技術的な知見と呼ばれる物にはどのようなものがあるのかの項目を洗い出す」です。

優先順位というのは、その選別を行う人による主観が入ることが多々あります。同じ技術的知見項目であっても、
ある人にとっては優先順位が高い一方、別の人にとっては高くないということもあり得ます。よって、いきなり優先順位をつけて選別するのは、企業としては記録として残すべき技術的知見を除外する恐れがあるため、回避しなくてはいけません。

技術的知見の項目は粗すぎず細かすぎずの中分類程度まで落とし込む

この技術的知見の洗い出しにおいて、多くの企業で苦労するのが、「その技術的知見を項目名称でいうと何になるか」という検証です。ここでも全体を俯瞰して見る論理的思考力が不可欠ですが、この力量が足りない技術者が項目を検討すると、・かなり細分化された細かい項目名称が乱立し、数が大量になる・項目名称数は抑制できているが、抽象的な表現で含有される範囲が極めて広い、のどちらかになります。

技術的知見の項目整理には階層を使うのが一案

例えば、何かしらの新規材料の開発に関する技術的知見項目を考えるとします。材料の特性という技術的知見を一番広い項目で表現をすると、「材料特性」となります。材料特性と一言で言っても、結局何が重要なのか全く分かりません。

その一方で、「200℃の環境下、酸素存在状態で1000時間暴露した後の、引張強度と弾性率」となるとピンポイントでわかりやすいですが、焦点が絞られすぎているため、技術的な知見の項目名称としては類似の特性がある場合、
全体的な知見として表現するにはその構成項目数が、かなりの量になるはずです。では具体的にどうすればいいのでしょうか。

ここでは2階層に分けるのが良いでしょう。まず第一階層として「材料の引張特性」、その下に「高温暴露後の引張強度と引張弾性率」、という階層を作ることで技術的知見の項目名称を作ることができます。細かい温度条件や暴露時間、酸素が存在しているといった話までは落とし込む必要はありませんが、新しい材料を開発するにあたり高温での材料の引張特性がポイントになった、という技術的なポイントを項目名称としておさえることができます。項目名を洗い出すという意味での項目名は、上記のようなイメージとなります。

項目名を見ながら目次を組み立てる

項目名が洗い出せた後は、その項目をどのような構成でまとめるかという骨格を作っていきます。これは本でいう「目次」のイメージです。目次というのは、文章全体を見渡す俯瞰的視点を文章作成者に提供してくれる素晴らしいものです。

技術的な知見をまとめるために技術者がその中身を書きだそうとすると、かなりの高い確率で専門性至上主義に押されて記述が細かくなっていき、文章全体を見る視点を失うことになります。

書いているうちは、・専門的な言葉を適切に使えているか・技術的な理論を間違っていないか、といったところに意識が向いて書いていますが、書いているうちに自分が何を目的にその文章を書いているのかがわからなくなり、そもそも技術的知見のまとめをやっているということも見失うと思います。

しかし、目次があれば自分が今どの位置にいて、何について書いているのか、そしてそれが全体から見てどこに該当するのか、ということを確認することができます。このように目次という文章全体の骨格である目次を構築することで、
技術のまとめという大掛かりな取り組みの振れ幅を狭くすることが可能となります。技術的な文章作成は準備が「要(かなめ)」です。技術的な知見のまとめを行う際の手順のご参考にしていただければ幸いです。

【著者】

吉田 州一郎
(よしだ しゅういちろう)
 FRP Consultant 株式会社
 代表取締役社長
 福井大学非常勤講師

FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。
https://engineer-development.jp/

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