ドイツの Festo(フエスト)と言えば、世界有数の空気圧機器メーカーのイメージが強いが、実際はモータなど電動機器やネットワーク、クラウドなど、メカとエレ、空圧と電動、さらにはデジタル環境にいたるまで、装置を構成する主要なコンポーネンツとデジタルサービスを一通り揃える世界でも稀有な総合電機・機械部品メーカー。インダストリー4.0 を牽引するグローバル企業の一つだ。
コンポーネントは多岐にわたり、自社製品同士を組み合わせて機能ユニットやモジュールとして使われることも多く、各種エンジニアリングツールを充実させて設計者の支援を行っている。さらに、そこで選定した製品をそのまま WEB で購入できる道まで用意し、データ活用・デジタル時代を先取りした仕組みを展開している。
空圧・電動機器の世界トップメーカー
同社は、1925 年にドイツ・シュツットガルト近郊のエスリンゲン / ベルクハイムで創業。来年創業 100 年を迎える。空気圧機器の分野では世界のトップ企業のひとつとしてよく知られている。グローバル売上高は約 6500 億円、従業員数は 2 万人を超え、世界 176 カ国で事業を展開。日本法人は 1977 年に設立し、横浜市都筑区に拠点を構えている。
空気圧機器と電動機器、教育事業の 3 つの柱があり、売上構成では空気圧機器が 7 割を占め、電動機器のうち FA・オートメーション関連が 2 割、残り 1 割がプロセスオートメーション、ライフ・ラボ関連、教育関連となっている。
事業の中心となっている空気圧機器は、空気圧シリンダをはじめ、スライドテーブルなど空気圧駆動機器、電磁弁など空気圧制御機器、空気圧調質機器、センサ、真空機器まで、空気圧機器全般を取り揃えている。
2018 年からは電動機器事業を強化し、サーボモータやステッピングモータ、コントローラ、ベルト・ボールねじアクチュエータ、リモート IO、制御モジュールなど、電気制御機器もラインナップ。アクチュエータやバルブなど空圧と電動の駆動機器を中心に、コントローラや I/O、ネットワーク、クラウドや AI まで、同社製品だけでほぼ 1 つの装置が出来上がるほどの製品群を扱っている。
幅広い技術領域と先進技術を使ったハイエンド領域に強み
同社の特徴として、汎用品よりもハイスペック品、市場規模は小さくても高性能を求める領域にターゲットを絞って営業を進め、製品もそれに応じた先進的なものの提案が主となっている。
例えば「Controlled Pneumatics(コントロールドニューマティクス)」は、デジタルによる緻密な空気圧制御で標準的な空気圧や電動でしかできないと考えられていた高精度のアプリケーションにも対応した新技術。圧縮空気の消費量を低減し、カーボンニュートラルにも貢献する技術として注目を集めている。
また、空気圧の制御をメカ的ハードウェアで行うのではなく、アプリで制御して空気圧のデジタル化を可能にするモーションターミナル「VTEM」や、休憩時間やメンテナンスなどシステムが停止している際の圧縮空気の供給をコントロールし、空気とエネルギーの無駄遣いを減らすエナジーセービングモジュールなどの尖った技術の提案を強化している。
プロダクトマーケティングマネージャー 電動オートメーション担当の河本栄之介 氏は「メカと電気、IT、AI の技術領域に対して先進的な技術を揃え、部品からクラウドサービスまで垂直統合で提案でき、製品の単品のもの売りからソリューションまでシームレスにつながる仕組みを一気通貫で提供できるのが当社の強みです。労働人口が減るなかで生産性を高めるためには、Ready to Install で提供することが重要となり、ソリューションとしての提供も強化しています」としている。
設計支援のためのエンジニアリングツールを豊富に提供
空気圧機器と電動機器それぞれの専業メーカーはあるが、両方を手がけている企業は世界でもごく限られる。同社はそのうちの 1 社となるが、空気圧機器を使ったシステムは構成部品が多く、それにともなって製品点数も膨大にのぼる。それに加えて電動機器もラインナップしていることから、設計者がアプリケーションや希望通りのシステムやユニットのために最適な製品を選定するのは難易度が高く、手間もかかる。さらに、流量計算等の専門的な技術計算も必要とされる。
そのため同社では、製品選定から技術計算、設計支援、シミュレーションなど、さまざまなエンジニアリングツールを WEB で提供し、最適なシステム・ユニット設計をサポートする仕組みを整えている。
製品選定から購入まで一気通貫で可能な QuickSearchPlus
「QuickSearchPlus」は、製品に関する必要な情報をすべて効率的に入手できるツールで、製品の 3D データはもちろん取扱説明書やメンテナンス情報まで入っている。空圧と電気、メカも電気も 1 つの仕組みのなかで選定し、CAD データのダウンロードも可能となっている。
河本氏によると「QuickSearchPlus は、電子カタログみたいなツールで、ホームページと同じレベルの情報がオンラインで入手できます」とし、ツール内でデータを取得し調べることができ、設計はもちろん、製造現場での一次対応や保守・メンテナンスなどの作業でも有効だという。
さらに、製品を検索して選定したらそのまま製品購入まで可能となっている。
「自社製品同士を組み合わせて使われることや顧客の要望に応じてモジュールやユニットとして納品することも多く、製品データをもとにした各種エンジニアリングツールを充実させています。さらに、これらのツールで設計し、そこで選択したコンポーネントは、そのまま WEB から購入できるようになっています。グローバルでは、すでに 4 分の 1 が WEB の直接取引になっていて、受発注の効率化が進んでいます」(河本氏)
Eplan 連携、アプリ販売など取り組みを強化
Eplan との連携も行っており、同社の製品は Eplan が提供している製品データポータル「Eplan DataPortal」に掲載されている。すべての Festo 製品を Eplan データでも提供してほしいという多くのお客様のリクエストがきっかけで 2011 年より掲載を開始。欧州で高いマーケットシェアを獲得している Eplan で製品データを提供することで、お客様のエンジニアリングにかかる労力を可能な限り削減したいという、同社の思いを反映している。掲載データを最新の状態にしておくメンテナンスコストは必要だが、お客様からのフィードバックと Eplan データの需要を鑑みると、必要なコストだと考えている。
QuickSearchPlus では Eplan に登録済みの製品へ簡単にアクセスできるアドオンソフト「Eplan and QuickSearch」、同社製品で構成したユニットの回路図を Eplan 用に展開する「Eplan Schematic Solution」なども提供している。アプリにより、わずか数分で Festo製品の構成に応じた完全な Eplan プロジェクトが作成される。エンジニアリングツールと電気CAD を連携することで設計者の業務効率化をサポートしている。
またアプリストア「APPworld」を整備し、モーションターミナル「VTEM」、小型ハンドリングシステム「YXMx」、サーボプレスキット「YJKP」、Festo コントローラといった最新機器について、システム構築や省エネ、保守管理などそれぞれの機器で便利に使えるソフトウェアをアプリとして販売している。これらのアプリを使うことでシステムの高性能化に加え、機能の設計やプログラム、設定・調整の手間が省け、装置立ち上げにかかる時間と手間を削減することができる。
システム連携やエンジニアリングツールについて、「Eplan DataPortal で製品登録していることで設計者が自然にそこから製品を選んで図面に加えてくれます。こうしたシステム連携をしていれば双方向で情報発信することになって WIN-WIN になります。一度デジタルで利便性を知ってしまうともう戻れません。試して便利と思ってもらえるような一歩目を支援することができれば広がっていくと思います」と柴山考志氏(プロダクトマーケテイングマネージャー空圧担当)は語っている。