コネクタ・端子台をはじめ、コントローラや産業用スイッチなど幅広い製品ラインナップを持ち、工場や生産設備はもちろん、ビルや店舗など建設関連、鉄道やインフラなどに広く採用されている WAGO、ワゴジャパン。インダストリー4.0 を推進するドイツ系企業として、デジタル活用やデータ連携に積極的に取り組んでいる。
同じドイツ企業で電気 CAD の Eplan との連携についても、電気設計部品ポータルサイトのEPLAN Data Portal への製品登録や、コンフィギュレーションツール「smartDESIGNER」と Eplan のデータ連携し、デジタルツインの実現を推進している。
Eplan 連携などデジタル化には積極的
同社は、電子機器や制御盤等に使われる端子台・コネクタ、差込みコネクタなど建設業向けの電設資材、コントローラや I/O、産業用スイッチなどのオートメーション製品、電源やリレーなどエレクトロニクス製品といった配電制御機器を取り扱う制御機器メーカー。日本では兵庫県のサービスセンターに在庫を持ち、一部組み立てアッセンブリして出荷している。
差込みコネクタは発売 50 周年を迎えたヒット商品で、古くから屋内配線の中継に多く使われ、建設業界ではヒット製品となっている。デジタルやデータ連携の取り組みについては、電気 CAD Eplan の Eplan Data Portal に製品データを登録しているほか、ユーザー向けに同社製品を PC 画面上で組み合わせてシミュレーションできる「smartDESIGNER」を提供している。Eplan Data Portal にはグローバルと日本向け製品のいずれも登録してあり、制御盤の設計者は同社の製品の 3D データをはじめ各種データを簡単に入手して使うことができる。
ワゴジャパン セールスジャパン 営業執行役員 吉田 秀二 氏は「電気 CAD の重要性は高まっており、Eplan Data Portal に製品を掲載しておくことはマスト」と位置付けている。
WEB コンフィギュレーションツール「smartDESIGNER」
smartDESIGNER は、会員登録して利用でき、3D でユーザーの製品選定や検証をサポートする WEB 設計支援ツール。制御盤用コンポーネンツ、プラグインコネクタ、基板用端子台コネクタから種類を選んでプロジェクトを作り、WEB 上で必要な製品を並べ、マーキング情報を追加したりして製品ユニットを作って 3D で検証が可能。作ったデータは、電気 CAD に取り込む用に CAD ファイルに変換、部品データの CSV エクスポート、マーキング設定や PDF 化もできる。後工程や他の工程へもデータを展開しやすい仕組みになっている。作成したデータからの注文も可能。
「smartDESIGNER は、画面上で端子台など当社製品を 3D データで眺め、DIN レール上に載せたり、並べ替えたり、構成を変えたりもできます。設計ミスがあればエラーが入って教えてくれます。マーキング情報をプリンタにデータ転送もできます」DIN レールや基板用の部品選定や設計に便利だが、日本での利用はまだ一部のユーザーにとどまっている。これから便利ツールとして使い方の啓蒙や普及を進めたいとしている吉田氏は「お客様からは『端子台を 20 個並べて1から 20 までの番号をつけて欲しい』といったざっくりとした注文もあり、コミュニケーションミスの原因にもなります。将来的には、お客様が smartDESIGNER でデータを作り、当社がそれを受け取る方がお互いにとって効率的になります」としている。
電気 CAD、ERP、PLM ともつながりデジタルツインを実現
smartDESIGNER は、単に製品選定が効率的になる設計ツールというだけでなく、デジタルツインの実現に向けても重要な位置を占める。
制御盤業界では近年、制御盤 DX、設計・製造連携による制御盤の自動組み立てへの取り組みが徐々に整備されている。電気 CAD で作った設計データをもとに、配線ルートや作業指示書、部品表といったデータを作成し、それを製造工程が活用して電線の自動加工や組立・配線作業を補助し、設計から製造までの工程の効率化が進んでいる。
そのなかで smartDESIGNER は、ユニットを構成する製品の外形・サイズはもちろん、接続方式やその他の製品のデータを電気 CAD 側に供給する重要な役割を担っている。
「インダストリー4.0 では電気 CAD で設計したデータを活用してロボットによる制御盤の自動組み立てのテストが進んでいます。デジタルツインを実現するためには、電気 CAD とつながって詳細な情報・データを渡せることが必須であり、当社にとってそれを行うのがsmartDESIGNER なのです」(吉田氏)
smartDESIGNER は、PLM や ERP といった同社の IT 基幹システムともつながり、作成したデータや BOM などを直接、IT システムに転送する。これにより OT 側のエンジニアリングチェーンにおけるデジタルツインだけでなく、IT 側のサプライチェーンにもデータがつながり、デジタルツイン構築にも寄与するという。
カーボンフットプリントにも対応
さらに、これからの製造業では無視できない脱炭素への取り組みに関しても、最終製品メーカーが自社製品のカーボンフットプリントを算出するには、それを構成する部品単位のカーボンフットプリントが必要となり、今後サプライヤーには納入するそれぞれの製品のカーボンフットプリントの提出が求められる。制御盤に関しても同様で、盤内機器それぞれについてのカーボンフットプリント、それを合計した制御盤全体のカーボンフットプリントがどうなっているのかの数値化が求められると見られている。
それに対し同社は製品のカーボンフットプリントデータを開示していく。2024 年中に約半数の17000 アイテムを予定している。
インダストリー4.0 とカーボンニュートラルに向けては製品データの標準化と整備が必須で、インダストリー4.0 で定義される AAS(Asset Administration Shell)アセットの標準化されたデジタルデータ内に製品カーボンフットプリントを統合していく。すでに一部の製品で AASのデータは同社サイトでダウンロード可能という。「こうした取り組みを行っておかないと、デジタルツインや脱炭素に取り組む企業と取引ができなくなってしまいます」(吉田氏)
デジタルツイン時代に生き残る方法
近年、多くの企業が設計支援のために製品の 3D データや smartDESIGNER のようなコンフィギュレーションツールを整備して顧客に提供しているが、その意味合いは当初から少しずつ変わってきている。設計だけでなく、調達や製造、保全といった各工程支援に加え、脱炭素のような企業活動の支援にも関係してきて、その影響範囲は広がっている。
吉田氏は「smartDESIGNER のようなコンフィギュレーションツールは、はじめはお客様の利便性やメーカーの顧客囲い込み策としてはじまりましたが、それがだんだんと周りと連結し、新しい考え方が出てきて、もっとつながるようにデータの形も定義しようという流れになっています。
ハードウェアの世界でも、特定のもの同士でつながるものから色々なものへとつながるハードウェアが主流になりました。その後、『これからの時代はソフトウェアだよね』ということでソフトウェア重視になりましたが、結局その当時のソフトウェアは自分の中だけのものでした。そこから周りのソフトウェアやシステムとつながり、データをしっかり作って吐き出せるようなものにしなければいけないという考え方になり、今にいたります。
電気 CAD がデジタルツインの実現には大きな役割を果たし、高機能化していますが、各社の製品それぞれの選定や設定、シミュレーションという領域までシステムを整備するのは不可能です。製品やユニットレベルは各機器メーカーの領域であり、そのため各社が力を入れているのだと思います。だからこそ機器メーカーはデジタルツインに向けて 3D データを作るだけで満足していたら、今後その企業は生き残るのは難しいのではないでしょうか」と指摘する。
デジタルと環境配慮への取り組みを強化
今後に向けて、smartDESIGNER の認知度拡大と普及、グリーン製品の拡販を強化していきたいという。
吉田氏は「smartDESIGNER をもっと積極的にお客様に使って欲しいと思っています。今は大口のお客様を中心に個別セミナー等をやっていますが、今後は展示会やイベントで見せられたらと思っています。例えば smartDESIGNER と Eplan との連携などの話をしても面白いかもしれません。
また当社でもワンタッチコネクタ「221 シリーズ Green Range」のような環境配慮品をリリースしています。原料の一部にリサイクルプラスチックとバイオマスプラスチックを使用し、化石資源の消費を削減しています。バイオマス原料を使用することでポリカーボネートの製造過程で最大 87%の CO2 削減を実現しています。こうした環境配慮品は他の製品へ横展開し、地球環境に配慮しつつ、社会のバックボーンを支える企業としてこれからも頑張っていきたいと思います」と話している。