営業の成果は売上額で表される。売上を上げるのに営業力が試される。営業力と営業スキルは同義語であるが、FA営業ではニュアンスが少し違う。
一般的な営業力とは、手短に言えば「営業経験の豊富さで人を惹きつけること」を意味する。しかしFA 営業では「電気技術的素養を備えて難しい商品を扱える」というイメージになる。販売員は商品やサービスの売買仲介人であるから商品に明るいのは当然である。FA営業もセールスマンなのでたとえ商品が難しくとも熟知するのは当然のことだが、FA営業の成り立ちや顧客が技術者という点で、特にエンジニアリング的素養が重要視される。だからFA営業において営業スキルをアップするといえば、「電気制御に関する知識のレベルアップ」になる。FA営業の風土はそのような営業スキルを重要視するため、一般的な意味合いでの営業力を軽視しがちである。
FA営業も売買仲介の商人であるにもかかわらず、「商人的営業」というよりも「職人的営業」というイメージが強い。そのため販売員には制御技術や商品知識のレベルアップが期待される。販売員もいろいろな機会を得て学ぼうとする意識は強い。販売員は知識を習得するだけではなく、その知識を使って売り上げを上げることが本命であることは承知している。
そこで、その営業力をどのように活かすのか、実際に販売員に聞いてみたところ、大半の販売員は「身につけたスキルを発揮して顧客が抱えている案件や課題を解決すること」との答えだった。FA 販売員の多くは文系出身であり、電気に弱い。彼らはメーカーの商品研修を受け、苦労して覚えた電気制御の知識そのものがスキルアップである。こうしてスキルアップした販売員は、生産技術から「これこれの動作をさせたいが、何か上手い商品や方法はないか」という相談を受けて、このような商品を使えば技術的にできるが、仕様を詳しく聞いて提案をすることを良しとしてきている。
販売員は本来、商人である。商人が職人や技術者と大きく違うのは情報に明るい点である。職人や技術者は、技術を武器にして他人とうまく接触できる。それに対し商人は、情報を武器にして他人の中に入っていける。しかしながらFA販売員は、情報と言っても商品情報に限ったことではないのに、商品情報を唯一の武器として他人の中に入ろうとする。
商品も情報の一つに違いないが、本来、情報といえば相手にまつわることである。実際の戦闘では、自軍の情報は秘匿して敵に見せびらかすものではない。敵にまつわる全ての情報の入手が勝敗を決するのだ。それは営業も同じである。
FA営業における商品は情報というよりは武器としての役割である。したがって、相手にまつわる多くの情報を入手し、その情報をいかに活用するかが商人的営業なのである。だから最初から商品を決めて攻めるより、情報入手の結果をもとに効力のある商品を武器として使うことが勝ちいくさにつながるのだ。
FA 営業は、日本が得意とする製造業をマーケットにして成長してきた。製造業は安定した良いマーケットであるがゆえに競争は激しい。顧客をしっかり守るためにFAスキルを発揮して、顧客サービスや顧客の困りごと解決に全力をあげる。FA営業は、FA技術の知識を駆使して成果を出しているため、攻めの営業だと思っているが、実際は守りと自覚した方がいい。
今後もFAマーケットは広がっていくだろうが、これまでのように一つのマーケットとして捉えられなくなっている。具体的にどのように広がるか、先々を見ていかなくてはならない。人手不足やIT技術、環境問題を軸とし、FAマーケットを4つくらいにセグメントしてみていく必要がある。そうなれば、今後顧客になってもらう人や部門や企業が変わってくる。そういう人たちとどのように接触するかは職人的営業では苦しいところがある。これからのFA営業は、商人的営業を少し真剣に考えるべきである。