CAEによるシミュレーションを行う際の技術業務の本質
今やものづくり企業においてもCAE( computer-aided engineering )はごく当たり前になってきています。工場レイアウトを考える際、仮想空間に設備を置き、人や物の導線が適切かを判断することも行われています。
ある形状物を設計する際、その形状が妥当か否かは線形解析を基本とした応力解析を行うことで、局所的な応力集中部分があるか否かを確認します。そして金属の板金加工では非線形解析を導入して金属材料の非線形変形を模擬し、どのような型形状にすると安定した成形ができるのかを見ることも可能になってきています。
化学平衡という化学反応の基本現象をデータベース化し、沈殿析出、錯体形成、化合物合成といった化学反応による現象を予想するツールもあります。さらにモータの性能最適化に向け、電磁界解析を行うこともあります。実際にものづくりをする前に行う上記のようなCAEを基本とした技術業務は、業界、企業規模、そして国籍問わず、ごく一般的なものとなりつつあると言っても過言ではないと思います。しかしながら、CAEが一般的になってきた故に、昨今の若手技術者が陥りがちな課題があるのも事実です。
シミュレーション結果を盲信する若手技術者
昨今の若手技術者の強みの一つに、「デジタルに強い」というものがあります。実際にCAEを行うという実務に限らず、これらのシミュレーション結果やそれを生み出すソフトを偏見なく受け入れることができるのです。これはパソコンなどのデジタル機器が、幼少期から身近にあったという故の強みとみるべきです。しかしながら、それ故の課題もあります。最も多いのが、「CAEで得られた結果を盲信する」ということです。CAEはその単語でも示されているように、Aided、つまり支援でしかないのです。しかし、デジタル技術の向上により結果があたかも真実のように示されることもあって、若手技術者の中にはこれらの結果がすべてであると盲信するケースがあります。
CAEを信じる一方で、現実に目が向かない
この課題によって生じる最大の問題は、「現実に目を向けなくなる」ということです。「シミュレーションではこうなるという結果が出ているのでこれで良いと思います」「実際に物を作ってみたのですが、CAEと異なるので何か作り方を間違えたのかもしれません」といった発言が若手技術者達から出る場合は要注意です。特に後者のような発言は問題です。考え方がCAE基準となってしまっており、目の前で起こっている現実の優先順位が下がっているためです。では、このようなことが起こらないためにマネジメントが対応すべきこととは何でしょうか。
現場、現物、実測データがあくまで最上位の基準
徹底して伝えるべきことは、「CAEはあくまで補足的なものであり、現場、現物、実測データとの比較をしながらCAE側を見直すというスタンスが最重要」ということです。基準は「現実」なのです。そしてこの現実とCAEの結果との違いを比較しながら、必要に応じてCAE側の条件を見直すなどの対応を行うのです。これを徹底して何度も伝え、理解させることが最重要です。
CAEにも強みがある
上記の事だけを伝えると、若手技術者から見るとCAEを否定しているだけに聴こえてしまうかもしれません。実際にCAEにはメリットもあります。マネジメントはこれも合わせて理解することが重要です。まず一つ目は、「経験則や現実をみるだけでは見逃されがちなことを、俯瞰的な視点で確認できる」ということです。現実はもちろんですが経験則も、ものづくりという技術の向上には不可欠です。しかし、これらにも限界があります。それは、「見逃しているものが存在している可能性」です。CAE最大のメリットは、これらの見逃しのリスクを最小化するよう、俯瞰した視野を提供してくれることにあります。最もわかりやすい例は応力解析です。応力解析では、形状モデルを基本にメッシュを切り、そのメッシュを用いて有限要素法によって計算を行います。
この場合、人の目では見逃されがちなホットスポット、つまり応力集中領域を発見するということに力を発揮します。もう一つのメリットは良く言われていますが、「実際に物を作る、工場をレイアウトする、型を作るといったことをやらずに予測ができる」ということです。これはコストはもちろんですが、研究開発の期間短縮に大変大きな貢献をします。マネジメントとして理解すべきは後者のわかりやすい点ではなく、前者の見逃しを減らすという部分です。ここをきちんと若手技術者に伝えることで、単なるCAE嫌いではなく、より高い視点で物事を捉えている、という印象を若手技術者に与えることができるかと思います。
いかがでしたでしょうか。CAEはあくまでものづくりの補足的役割であることを理解させる一方、
見逃しを減らすというメリットもあることを合わせて若手技術者に伝えるということが求められます。マネジメントはCAEという技術業務の本質を見失わない様、若手技術者を誘導していくことが求められます。
【著者】
吉田 州一郎
(よしだ しゅういちろう)
FRP Consultant 株式会社
代表取締役社長
福井大学非常勤講師
FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。
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