令和の販売員心得 黒川想介 (125)

人には環境に合わせて自然に変わっていく順応性があり、外的刺激に応じる適応性もある。考えなければならない環境に置かれれば真剣に考える人が出てくる。
戦後、落ち着きを取り戻した昭和の子供たちの遊びはいい例である。遊び盛りの子供たちは、ものが十分にない環境の下で、自然界にあるものや捨ててあるものを加工などして自ら遊びを考えた。町や空き地に大勢の子供たちが集まって遊ぶなかで、その中に遊びを思いつく子供がいた。その子供は他の子供たちより遊びたくてしょうがない気持ちが何倍も強い子供であったと想像できる。
現在は、当時とは違ってものや情報は溢れるほど豊富である。それほど深く考えなくても探せば満足する物事が見つかる。そのような環境下でも、もっと前に進みたいという気持ちを強く持っている人がいるから、社会はまた前に進んでいくのだ。
FAマーケットを見ると、規模が小さく、情報も商品も少なかった時を経て、今や情報も商品も溢れて遜色のないマーケットとなっている。FA販売員は、売上ノルマ的な縛りはないが、達成しなければならない月間や期の売上目標がある。FAマーケットの成長期には、新規客の開拓活動が売上目標達成には欠かせない重要な営業活動であった。新規客の開拓活動には、工場の技術者や管理者と渡り合うための電気や制御の知識が有効であり、彼らに顧客になってもらうために必要だった。だからFA販売インはメーカーの商品研修やセミナー、展示会に積極的に参加して知識を蓄積していった。
現在のFAマーケットは、当時とは一変して、安定した大きなマーケットである。FA販売員にとって、いまも新規客の開拓は重要な活動には違いないが、成長期ほどの熱意は感じられない。その理由はいくつかあるが、その一つに、売上を上げるために現有顧客を深く耕す営業に力を入れすぎることが挙げられる。具体的には、商談の質や数を上げるために技術スキルを上げて商材を増やそうとしたり、採用されている競合商品の置き換えの強化活動等々だ。
その上でFA販売員には、新規客開拓をせよとの号令がかかる。各方面からの紹介によって新規客候補の製品設計者や生産技術者へ初回のアプローチを試みるが、一度でうまくいくことはない。しかし2度目の訪問のハードルは高くて、そのタイミングを図っているうちに時間だけが経っていく。新商品情報はあるが、新規客に有効と思われるものかどうかが分からない。電気制御の知識も今では有効打にならないのだ。そのような諸々の経験が積み重なって、新規客の開拓は先送りにされる。
これまでは新規客の開拓活動にそれほどの力をかけるかけなくても新規客は若干だが増えていた。それに重要顧客の新旧製品の入れ替え需要もあった。それほどまでにFAマーケットは良いマーケットへと発展しているのだから新しい客層は確実に増えているはずであり、今後も増えていくだろう。
しかし今後のFAマーケットを取り巻く環境はこれまでとは違った形で発展するのは確かであるから、受け身で構えていては新規客は若干も増えない。
新規客の開拓を先送りすることに甘んじれば先細りは免れない。だから発展する令和期も成長を維持するためには、新規客の開拓は欠かせない営業活動である。従来の顧客開拓活動ではうまくいかないと思うなら別のやり方を模索しなければならない。
技術の世界は日進月歩であり、顧客の技術は格段に上がっている。FAメーカーが販売店や営業に技術色を強く期待することを踏まえると、どうしても難しい商品知識やエンジニアリング習得へ向かわなければならないと思ってしまう。それも当然アリなのだが、FA販売員は技術者ではない。いま必要でないものでも、興味を感じさせたり、その気にさせるのが商売人だ。そのあたりのことを考慮して、令和の新規客開拓を研究し、開発することが重要である。

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