アドバンテックは、9月11日に東京・お茶の水ソラシティカンファレンスセンターで、エッジAIをテーマとしたカンファレンス「AI Solution Day」を開催した。その様子をレポートする。
グローバルエッジコンピューティング企業へ
アドバンテック 井桁氏
はじめに主催者を代表し、アドバンテック インテリジェントシステムズ事業部ダイレクタの井桁晶子氏がオープニングの挨拶を行い「本日は当社主催のよるAI Solution Dayにお越しいただき、誠にありがとうございます。アドバンテックは、製造業や交通、エネルギーをはじめとした産業インフラ向けに事業を展開し、現在、産業用PCの分野ではグローバルのマーケットシェアとして42.5% を占めています。製造拠点は日本と台湾、中国にあり、開発から生産まで一貫して全社で行っております」と会社紹介をした後、「さらなる飛躍に向けて自社のポジショニングを『産業用PC』から『AI IoTプラットフォーマー』へと変化させてきました。今後は『グローバルエッジコンピューティング』へと変えていきたいと考えています。エッジコンピューティングは、2027年までに年平均成長率 30%というマーケットとなっており、その成長を促進するのが AIです。製造業ではAMRやロボット、画像検査分野におけるAIを活用した生産性向上や業務効率化、交通インフラ分野ではスマートシティへの取り組み、また設備の拠点により労働人口減少に対しての解決、そして安全安心に向けたAI活用が進んでいます。本日のイベントを通じて、皆様の業務や企業、事業活動へのビジネスチャンスにつながることを希望しています」と話した。
エッジAIのチャンス到来
アドバンテック パオ氏
続く基調講演の1本目は、アドバンテックの台湾本社からエッジサーバー&AIグループ 副社長のMagic Pao(マジック・パオ)氏が来日し、「エッジAI導入を加速する生成AIとパートナーとの共創」をテーマにスピーチを行った。
パオ氏は、エッジAI市場の現場と、エッジAIエコシステムを構成する同社の製品群、今後ビジネス拡大が期待できる3つの高成長市場について紹介し、「エッジAIが次の産業の大きな波になると認識していると思いますが、なぜこんなに時間がかかっているのでしょうか?普及を妨げる要因として、ハードウェアは消費電力や高い計算能力等が求められ、ソフトウェアの導入も統一されたアプローチがなく、複雑さが増しているという面があります。エッジAIをスケールさせる公式は「(ドメイン+プラットフォーム)×オーケストレーション(設定運用の自動化)=エッジAIの加速」だと考えています」とし、エッジAI市場はこれから本格化していく見通しを示した。
エッジAIに最適なプラットフォーム、ゲームチェンジャーとしてNVIDIA Jetsonに注目し、標準的な「MIC711」「MIC713」、産業特化モデル「MIC715」、AGVAMR用「MIC731」、スマートシティ向け「MIC717」などを案内した。
今後2025年から2026年にエッジAI普及のチャンスが到来するとし、高成長市場としてスマートシティ、医療用画像、AMRロボティクスの3つを挙げた。
生成AI時代のエッジコンピューティング
エヌビディア 中根氏
続いて、エヌビディア Business Development Manager M&E / Smart Space / Retailの中根正雄氏が「生成AI時代のエッジコンピューティング NVIDIAプラットフォームとソフトウェアスタックの最新情報」と題して講演を行った。
中根氏は同社について、「GPUボードの会社としてハードウェアエンジニアが多いと思われがちだが、実際はソフトウェアのエンジニアの方が多く、ハードとソフトの両方でAIのアプリケーションを作りやすくなるようなプラットフォームを提供している企業です」とし、ハードウェアやソフトウェアを提供すると同時に、それらを組み合わせて「AIファクトリー」と言われる巨大なデータセンターを企業や国と協力して構築し、さまざまな産業のAIモデルを作り出し、新たなビジネスや事業の創出を進めていることを紹介した。
エッジAIについては「エッジでAIを行う場合、はじめからAIを作っていくのは大変。望ましいのは、すでに誰かが作成して準備済みのものを、ユーザーが呼び出して使うことができること」とし、オープンソース型はデータセンターやクラウドなど自由に作って実行できる反面、それぞれのインフラへの最適化や継続的なメンテナンスやアップデートが必要であり、且つエッジAIの場合はクラウドに上げたくない・上げられない場合もあると指摘。それに対してマネージド型は、一部に制限はあるが、すでに使いやすく最適化されていて、実行までの近道であるとメリットを挙げ、同社のマイクロサービスである「NVIDIA NIM」を使えばエッジAIのアプリケーションの作成が簡単にできると提案し、事例を紹介した。
最先端AIテクノロジー実装をサポート
マクニカ クラビス カンパニー 山田氏
続いてマクニカ クラビス カンパニー ビジネスソリューション第2統括部 営業第2部 第1課 課長 山田智教氏が登壇し、「最先端AIテクノロジー実装に向けた取り組みサービス」のテーマで、導入障壁を下げて、ユーザーがNVIDIAの最先端技術を使えるようにする活動について話した。
はじめにユーザーが注目しているソフトに対して実際に検証した事例を紹介。メタバース開発を支援する「NVIDIA Omniverse」について、車をさまざまな角度から撮影した画像を生成して、どの角度から見るのが一番ナンバープレートをうまく検知できるかを検証し、コインパーキングを開設する際の事前シミュレーションとして活用したほか、これを社内の別プロジェクトの駐車場のAIモデルの開発、自動走行向けLiDAR POINT CLOUDデータの取得、AI異常検知に向けたシーンの作成などにも展開した例を紹介。続いて、音声とビジョン認識のためのAIモデル作成を支援する「NVIDIA TAO Toolkit」、独自の生成AI開発と実装を加速するSDK「NVIDIA NeMo/NIM」についても社内検証の様子を明らかにした。
また同社が提供しているサービスについて説明し、NVIDIAの最適なハードウェア構成で最新ソフトウェアを導入前に事前検証できるサービス「AI TRY NOW PROGRAM」や、要件定義からインテグレーション、導入後サポートまで同社のスペシャリストが伴走するサービス「マクニカプロフェッショナルサポート」、エッジ寄りのサービスとして、同社とアドバンテック、Allxonの協業による遠隔デバイス管理サービスを紹介した。
エッジAIの社会実装を実現する各社ソリューション
休憩を挟んで、協賛各社が自社ソリューションを紹介する「ソリューション講演」を実施した。
はじめはSpingence technologyのCEO Jesse Chen(ジェシー・チェン)氏が「AIによる欠陥検出 高度な製造現場における検出精度の向上」と題して講演を行った。
同社は、2015年に台湾・台北市で設立。2017年に受動部品メーカーに欠陥検出のAIソリューションが導入されたことをきっかけに、2022年までに受動部品や自動車用電子機器、EMS、半導体業界などで400以上のAIソリューションの導入実績を積み重ねてきた。Ai欠陥検査を導入することによって、複雑な欠陥の検出、人件費の削減、過剰率の低減、データの情報化というメリットを得ることができ、同社は、AIモデルのラベルングから学習、検証、デプロイ、生産ラインでの実行までワンストップで直感的に行える「AI NAVI」を提供しているとした。
2番目はコンピュータマインド 代表取締役社長 萱沼常人 氏による「製造業でのAI製品化の事例」のタイトルで話をした。
同社は1991年創業で30年以上の歴史があり、産業機器や半導体製造装置等でも多くの実績があるソフトウェア開発会社。主に受託開発を行っており、170人のうち160人がエンジニアという技術系企業で、講演では共同研究によるAI製品化事例を紹介。
良品・不良品の判定を行う検査工程のAI活用について、工程では不良がなかなか出ないので学習のための画像サンプルが手に入らないという課題に対し、すでにある不良画像から色々な不良パターン画像を生成する山梨大学との共同開発をはじめ、スポーツの試合映像を分析して自動で実況を行う生成AIの開発、金属加工の検査システムへのC++の移植、AIによるVisual SLAM技術の検証、半導体製造装置のパラメータの設定支援AIなどの実績を強調した。
3番目はAWL 取締役CTO 土田安紘 氏が「人材不足の時代における、エッジAIを応用した最新の店舗セキュリティ対策ご紹介」のテーマで、店舗の万引き防止対策ソリューションを紹介した。
同社は、2024年度の大学発ベンチャー表彰の新エネルギー・産業技術総合開発機構理事長賞を受賞したAI開発企業。小売業・リテールの店舗オペレーションとセキュリティにフォーカスしてAIカメラソリューションを展開しており、講演では小売店舗を悩ます万引き対策にAIを活用している事例を紹介した。
店舗にあるセキュリティカメラの画像認識にAIを活用することで、怪しい人物の入店時から店内での振る舞いを店内の複数台のカメラで捉え、万引きの様子を明らかにしたり、入店時の顔認識で過去の万引き犯データと照合して再発を防いだりできることを解説。安価に導入し、効果的な万引き対策ができるソリューションとして展開していくとした。
4番目は、ニューラルグループ 執行役員 まちづくり事業本部 デジソリューション事業統括部 統括部長 中桐健太 氏が「エッジAIプロダクトの社会実装」のテーマで、AIプロダクトを社会実装するために重要なことにフォーカスして話をした。
同社は、AI画像・動画解析と端末処理技術を活用したAIエンジニアリングを行っている企業で、スマートシティ向けエッジAI製品として、駐車場の空車満車を把握する「デジパーク」、工事現場の入口で警備員による交通誘導を自動化する「エッジアラート」、人流解析の「デジフロー」などを展開している。講演では、エッジAIを社会実装するために必要なことについて、①そもそもAIはツール。顧客にとっての価値を踏まえたトータルパッケージでのサー ビス設計ができるプレイヤーが増えていくことが重要 、②プロジェクトに関連する様々なステークホルダーを巻き込めるようなサービスの実装とステークホルダー間での協議活性化が重要、③AI技術は「技術検証」から「社会実装」の時代へ。AIサービスの透明性を担保しつつ、アウトカムを重視した業務の設計が重要であるとした。