FA販売員が、まだ馴染みのない顧客を訪問した際、再び訪問したい旨を伝えるとよく言われるのが「何か面白い情報があれば持ってきて欲しい」という言葉だ。これを真面目に考えて、次回の訪問のアポが取れた時にどんな商品を紹介すればいいのか、と悩むFA販売員は多い。
FAのマーケットの成長期には、アポなしで飛び込んだ新規の見込み客であっても、新商品情報に耳を傾けてくれる技術者は結構多かった。しかし現在では、担当している顧客の中で、馴染みの深い技術者なら新発売の商品情報を持って訪問すれば話はできる。しかしまだ馴染みのない顧客に同じ商品情報を持ち込んでも、快く話を聞いてはもらえない。その上、会話が途切れてしまうから、会ってもらった感謝や今後よろしくという言葉を残して早々に退散するしかなくなる。このような経験を何度かすると、FA販売員は関係性の弱い技術者に対して臆病になる。そして見込み客が興味を持ちそうな商品はないかと探し続けることになる。
一般的には、馴染みのない人と会うときは少し緊張して身構えるが、二度目には身構えなくなる。しかしFA販売員は、二度、三度目くらいの訪問になってもなかなか身構えを崩さない。FA販売員の大半は文系出身であり、それに対し顧客が技術者であるせいか身構えてしまい、さらに商品の技術的な良さを強調してしまう。だから相手の技術者もFA販売員につられて身構えを崩さなくなる。要するに、初めてのアプローチで商品の良さを売り込みに来ましたという印象ばかりを残して終わってしまうため、また次回訪問したい旨を伝えても「何か面白い商品情報があれば来てもいいよ」と応答されてしまうだけなのだ。FA販売員はその言葉を真に受けて、どんな商品情報を持っていけば自分を受け入れてくれるのかと悩むことになる。
格闘技や実際の戦闘の場で強大な相手に攻め入る場合、まともにぶつかっても勝ち目はない。そのような時は、相手の弱い箇所を見つけて、そこを突く。そして混乱させ慌てさせ、相手の強固な体制を崩してから攻めるという戦法を採ることが有効だ。
FA販売員の場合、新たに攻める相手のことをよく考える前に、自分の持ち物である商品情報のことを考えてしまう。満足してもらえそうな商品情報がなかなか見つからない場合でも、商品情報以外に相手を引き込む情報や話題のことを考えないのだ。「あまり関係のない話は嫌だよ」というオーラを発して立っている相手を崩す技があるのかといえば、そんな営業の技も持っていなかったりする。
これが工場の製造技術に明るい理系出身のFA販売員であったら、技術談義に花を咲かせることで、前に立ちふさがる相手のオーラを払拭することは可能だ。しかしそのようなことができないから、相手のことをよく分からずに、商品の良さを訴えて熱弁をふるうしかなくなるのだ。これでは相手の体勢を崩すことはできない。それなら無理に相手を崩そうとしないで、FA販売員の方から身構えを解いて崩れればいいのだ。
自分を崩すには、まず、新発売になった商品をぜひ紹介したいという意気込みを消す。そして、にこやかな態度をとり、「本日は会っていただくお土産代わりに新商品情報を持参しました」というような伝え方をする。例えば「手ぶらで訪問するのも何ですので、新しく発売した商品情報を持参してきまいた」といったふうに、性能や仕様には触れず、手短に機能の概要だけを話す。
これで相手から質問が出てこない場合には、相手が気になるような話題に移す。この場合も、身構えて「現在どんなお仕事をしているのか?」「何を設計されているか?」といった話題を出しても、相手も身構えて一般論で返すから会話は続かない。
そこで営業の本音の部分、弱点を見せるのだ。例えば、「営業は『商談を上げろ』『売上が足りない』と日々上司から発破がかかりますが、製造部門でも上司からいろいろ言われるのでしょうか?」と言って話題を作り出すようなことが有効になるのだ。
令和の販売員心得 黒川想介 (126)
- 2024年12月26日
- コラム・論説
- 2024年12月25日号, 令和の販売員心得
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