日本能率協会は、日本とアジア地域に進出している製造業の生産性や品質の向上、改善活動に成果をあげた工場を表彰する「GOOD FACTORY 賞」について、13回目となる2025年の受賞企業・工場を選出し、花王、東芝産業機器アジア社、BASFジャパン、パナソニックホールディングス、フジテックの5工場/事業所が受賞した。
同賞は、地域・従業員との強い結びつきや工場全体の総合的な改善・強化を達成し、他社の範となるグローバルな視点での優秀なモデルを対象とし、生産性向上や品質向上に向けたプロセス、成場知恵、従業員の意識改革、社会的貢献に焦点を当て、日本製造業の模範として顕彰する。
①工場・事業所の“ものづくりプロセス”が、総合的に改善・強化されている「ものづくりプロセス革新賞」、②従業員育成など、質の高いものづくりを実現するための“人材育成”に組織的に取り組んでいる「ものづくり人材育成貢献賞」、③ものづくりを側面から支える“CSR”(Corporate Social Responsibility)に積極的に取り組んでいる「ものづくり CSR 貢献賞」、④総合的に“工場運営”のレベルが高く、全体にバランスのとれた“工場運営”の良さを評価する「ファクトリーマネジメント賞」:の4部門で表彰する。
受賞工場・事業所と受賞理由
花王 川崎工場
花王 川崎工場(川崎市川崎区)は、1962年に設立され、洗濯用洗剤・住居用洗剤・全身洗浄・シャンプー・リンスなど家庭用品を製造し、東日本における基幹工場となっている。
粉未タイプから液体タイプの洗剤への移行、1回替えから大容量複数回替えパウチへの移行、SKU数の増加、消費者ニーズの多様化などの市場環境の変化に追従した高品質、高効率、低環境負荷の生産工程を構築。特に、さまざまな部署が協力しあって省人化・省力化を実現した生産プロセス・イノベーション、ESG視点を取り入れた「よきモノづくり」は同工場の特徴となっている。生産性・省人化・エネルギー使用量・CO2削減量などで大きな成果を上げており、人生産性ではグループの中でもナンバー1となり、川崎工場で立ち上げた技術や商品が世界の工場で展開されている。
具体的な取り組みとして、既存設備を活用して敷地拡張をせず、低コストでの設備開発を実現したことをはじめ、生産時間短縮や洗浄廃液削減によって生産能力を1.7倍に向上、充填・包装ラインを革新し、パウチ包装材の自動化にほって省人化と効率化を達成。OKRによる目標管理や品質保証活動を活用し、再発防止と全体最適化を推進、習熟度管理や計画的教育訓練を実施し、プロセス改善スキルを向上するなど人材育成も充実し、エネルギー削減や地域連携を通じた環境貢献を推進してESG視点での活動も積極的に行っていること等が評価され、ものづくりプロセス革新賞を受賞した。
東芝産業機器アジア社
東芝産業機器アジア社(ベトナム・ドンナイ)は、2008年設立でベトナムでの産業用高効率モータ製造の中心拠点。ローカルメンバーに権限移譲を進めた「ローカルファースト」マネジメントを導入。品質向上、生産リードタイム短縮、経常利益の増加、労働災害削減など顕著な成果を挙げた。
具体的な取り組みとして、約1000人の従業員に対して日本人スタッフ7人で支援体制を整備し、ベトナム人副社長が実務リーダーシップを発揮して自律型マネジメントを推進し、2030ビジョンや中期計画の策定をローカルマネジャーが主導して事業継続への主体性を強化した。また自社開発の基幹業務システムなど独自のDX基盤を構築し、財務、品質、物流、人事などの全プロセスを網羅。改善活動を推進する仕組みを整え、ローカルメンバーの主体的な取り組みを支援した。また「日本品質の10倍」を目標に掲げ、オンラインチェックシステムや塗装ロボット導入を通じて品質改善を実現。多能工認定制度や奨励金、技能競技会を通じた技能向上、さらには「両利き経営」として産業用高効率モータに加え、車載用発電機の生産体制を構築し、新規事業分野の成長を推進したことなどが評価され、ファクトリーマネジメント賞を受賞した。
BASFジャパン六呂見事業所
BASFジャパン六呂見事業所(三重県四日市市)は、1962年設立の同社のアジア地域で最も長い歴史を持つディスパージョン製造拠点で、ISO 9001、14001の認証やバイオマスバランス・アプローチに基づく低炭素型アクリル系ディスパージョンの製造工場としてREDCert2の認証を受けている。
また生産性向上や環境目標の達成、世代交代の加速などの課題に対して「全員参加型改善文化の定着」を目標に掲げ、体系的な改善マネジメントを導入。コミュニケーション改善を基盤に、部門間や日勤スタッフと交替班間のギャップ解消を図り、モチベーション向上施策を実施することで、組織全体で課題解決に取り組む体制を築きあげた。
具体的な取り組みとして、「生産効率の改善」「CSR」「人材育成」を段階的な目標とし、無理なく継続可能なミニマムな仕組みで改善活動を計画的に推進したことをはじめ、部門間や日勤スタッフと交替班間の垣根を取り払い、問題提起と対応の連携を強化するコミュニケーションギャップ解消や、わかりやすい行動指針(例:「楽しくやっているか」)による全員参加型改善活動、発言→対応→称賛のサイクルによる安心して意見できる環境の構築、業務効率化やエネルギー削減による成果の共有による士気・モチベーションの向上、改善のノウハウの次世代継承や無理のない範囲で事業所主導の教育プログラムを実施など持続可能な改善活動を行い、コミュニケーションを基盤とした全員参加型改善文化を成功させ、組織全体の競争力向上に貢献しているが評価され、ファクトリーマネジメント賞を受賞した。
パナソニックホールディングス杭州松下家用電気
パナソニックホールディングス杭州松下家用電気(中国・浙江省)は、1962年設立で中国国内向け衣類洗濯機、乾燥機の製造を担っている。競争力低下に直面しつつも、現地化と徹底的なベンチマーキングに基づく構造改革を推進することで、収益改善、固定費削減、従業員満足度向上などの成果を達成。トップの現地人起用をはじめ、ECM改革、省人化・自動化、生産性向上、SCM改革、人材育成といった多岐にわたる取り組みを一体的に進め、その結果、国内販売額と利益が過去最高を記録し、主力製品である洗濯機のシェアでは外資系メーカーで首位を獲得した。
具体的な取り組みとして、現地化として会社のトップ(総経理)と各部門責任者に現地人材を起用して現地経営の効率化とモチベーション向上を実現。組織改革で部門や課を削減して固定費削減と意思決定を迅速化。さらに競合製品の徹底分析に基づいたコスト最適化を推進した。
またモジュール設計を推進し、モジュール組み合わせにより製品展開のスピードアップを実現。CAE解析を導入して試作・設計検証時間を減らし、設計効率とリードタイムを改善した。生販サイクルの短縮と同時に生産を確定させ、変化に追従出来る業務プロセスへ変革。調達面でもJIT納入比率を引き上げ、在庫コストを削減した。自動化設備を現調化して投資効果を高め、人生産性を向上し、増産も視野に入れ積極的投資を実施した。大部屋活動で見える化を行い、全体効率を高めた。成果主義を導入してチームのモチベーションを高める仕組みを構築。定期的な従業員満足度調査(EOS)で、職場改善とエンゲージメント向上を図るなどを行い、現地市場での競争優位性を確立して効率性と収益性の両面で成果を上げていることが評価され、ファクトリーマネジメント賞を受賞した。
フジテック 生産本部 ビッグステップ製作所
フジテック 生産本部 ビッグステップ製作所(兵庫県豊岡市)は、1989年設立で、エスカレータ事業において国内トップクラスのシェアを達成し優れた成果を上げている。「不易流行」を理念に掲げ、顧客要望を徹底的に満たすものづくり改革と、従業員の自発性を育む風土づくりを推進している。
徹底した安全と品質管理の推進をはじめ、地域の採用難を克服する独自の取り組みや、環境負荷低減を目指す活動を進め、結果として労働災害ゼロ、離職者ゼロを達成し、従業員満足度や商品品質の向上を実現した。
具体的な取り組みとして、顧客要望に応じた特殊仕様商品の内製化を推進してシェア拡大をはじめ、採用難への対応のため、事業所PRや従業員の働きがい向上策を導入するなど事業戦略と地域特性を活かした改革を実施。また年2サイクルのものづくり強化活動を通じ、効率化、安全性、品質向上の目標を各職場で共有して達成感を醸成したほか、特許取得の仕組み化や自動化推進で技術力を向上させて商品競争力を強化、社内外の視野を広げるための外部事例の学習や従業員満足度向上のための仕掛けの導入など変革にも挑戦。安全意識向上の見える化や訓練、調達部品の品質管理を強化によって製品クレームを4年間で1/10に削減。バイオディーゼル燃料導入や電力監視システムの内製化など環境負荷低減によるサステナビリティ活動や、中学生の就業体験や学習ノートの配布、高専などへの出張講義など、地域連携活動で採用基盤を強化などを行い、持続可能な優れたファクトリーマネジメントが評価され、ファクトリーマネジメント賞を受賞した。