私は2015年5月から社内の朝礼でお話しした内容を社内ポータルに掲示しておりまして、昨年2000回を刻むことができ、今も毎朝続けております。内容は仕事のことが中心ですが、この仕事はロジカルであるようで実は人間の心理と感情によって大きく左右されるため、その根本を掘り下げることにも力を入れています。
このたび、オートメーション新聞に掲載して頂けるということで、社内で反響の高かったものを厳選してお届けしたいと思います。
昨年、愛知県と岐阜県で開催されたラリージャパン大会のテレビ中継を見ていました。コース内に一般車両が侵入したそうで、ラリーでは山間部の細い一般道を最速200km/h近いスピードで走ることもあるため、タイミングが悪ければ重大な事故になるところでした。ラリージャパンの結果はトヨタのチームが優勝しましたが、トヨタ自動車の豊田章男会長は自身も相当な腕前を持つドライバーであり、大企業の経営者としては自社の事業にユーザーの立場で深く入り込んでいる珍しい例だと思います。私に言わせれば「かなりマニアックなユーザー」になるでしょう。
幸いにして自動車メーカーは社員がプライベートでも自動車を使用することが多く、それは「社員兼ユーザー」という立場となります。その点、我々が関わるファクトリーオートメーションというのは自分自身がユーザーになることはまずないので、仕事をしていてもどこか他所事、何が良くて何が良くないのか一般論では理解できたとしても、ユーザーとして心の底から感動するようなことはないでしょう。
以前はよく「プロ経営者」と呼ばれる人たちが各企業を転々とし、経営者としての辣腕を振るうことが話題になりましたが、最近はあまり耳にしません。というのも、その事業に深く根ざしたものがない経営者が他所からやってきたとしても、その事業に心振るわせるような共感を得ることはないですから、まさに「他所事」として「呼ばれたから仕事をしに来ています」という態度がどこからともなく滲み出てきてしまいます。
英語には”love”という単語がありますが、これは人間に対してだけではなく、仕事に対しても使います。日本語の感覚で言えば”love”には”enjoy”の意味も重なっていると考えてちょうど良いでしょう。もし本気で仕事が楽しいと感じられている方であれば、”I love my job.”と表現するとそれはピッタリだと思います。
“love”や”enjoy”というのは、問題が起きた時に相手のために何とかして解決してあげようという気持ち、あるいはそのトラブルを解決する過程が難しくても面白く感じられて、結果に達成感を得られている状態です。問題が起きた時に誰かの責任を問うとか、非難したり懲罰を下したりするような考えはどこにもないのです。本気で楽しむというのはそういうことなのです。
長いようで短い社会人人生、もし仕事に対して”love”であると自信を持って言えるような価値観で働けたとすれば、それはきっとその本人も幸せな人生を送れているでしょうし、その業界ではまさに宝石のような存在に違いないと思います。このオートメーションの業界にそのような方々が増えていけば、業界も大きく発展するのではないでしょうか。
◆湯口 翼(ゆぐち たすく)
1967年生まれ。大阪府出身。2002年に産業用センサメーカーのオプテックス・エフエーに入社。開発グループで新製品の開発に携わり、ローコストな印字検査専用の画像センサをはじめ、画像処理用LED照明コントローラやIO-Linkマスタなど画期的な新製品を多く生み出す。2008年に取締役、2024年に代表取締役社長に就任。