FAマーケットが成長しようとしていた頃、FA営業の販売員教育は確立されていなかった。そのため販売員教育は保険や耐久消費財の営業教育を取り入れてFA営業の基本動作とした。
その原点にある営業活動は「顧客開拓」であった。保険や耐久消費財はいったん案件が決着すれば、すぐのリピートはほぼない商品なので顧客開拓は生命線なのだ。彼らの1カ月の営業活動の大半は見込み客へのアプローチから始まり、こうして多くの見込み客へアタックした経験を体系化して営業の基本的動作は作られていた。
この基本動作は当時のFA営業にとっても大いに参考になった。まだFAマーケットは小さかったため、顧客を増やし続けなければ売り上げは上がらなかったからである。
現在のFA営業は、販売員一人あたり相当数の顧客を担当し、顧客から継続して出てくる案件を追って営業をする形だ。したがって新人からの営業教育は、一通りの販売員実務を終えた後、主力の取扱商品をカタログ等で覚えさせ、それから顧客を担当させる。顧客へのアプローチ方法は同僚や上司との同行営業で学ぶ。はじめは担当顧客とはぎこちない関係からスタートするが、顧客に依頼される諸用件をこなしたり、用件がない時は商品やメーカーの情報を持って訪問をする。訪問を重ねて顧客とスムーズな関係を築いて、いわゆる顧客を任せられる販売員になる。こうして顧客から数々の依頼をこなしながら商品の幅を増やし、商品に関する電気的知識を身につけて中堅販売員になる。現在のFA販売員は、顧客ありきから営業が始まり、深く顧客と付き合うことによってFA商品の対応や商品の使い方の造詣を深めていく。
しかし顧客はそこそこあるとはいえ、潤沢とは言えない。現状、積極的に増やそうとする販売員は少ない。それは顧客がまだ少なかった時代の見込み客訪問の基本動作営業が継承されていないからである。
FA販売員は、「顧客」と「新しく出会う見込み客」の違いを感覚的に察知している。顧客と見込み客の違いについて聞いてみたところ、顧客は「①アポイントが取りやすい」「②緊張感がなく対応できる」「③用事を気軽に言いつけてくる」「④案件の相談がある」「⑤商品紹介や売り込みを快く受ける入れてくれる」「⑥現場や仕事のことを気軽に聞ける」「⑦世間的な雑談に応じてくれる」「⑧自部門や他部門の人の紹介を頼むことができる」という回答を得た。顧客に関して上記のように思っているということは、見込み客に対しては、①〜⑧のことはできない、またはやろうとしても難しいと思っている。顧客と見込み客は全く違うことを実感しているのだ。そうであるならばアプローチのやり方を変えなければならない。
現在の見込み客訪問は、誰かの紹介か新規客からの依頼があっての訪問になる。はじめに名刺交換をして、季節の話題に触れた後、自信を持って商品の紹介、あるいは依頼された物事の話に移る。用件終了後には「今どのような仕事を手掛けているか」「何を設計しているか」というように、「どんな?」「何を?」という探りの質問をする。相手は答える義務はないので抽象的な回答をする。FA販売員は、返ってきた回答の内容で新たな見込み客のことが分かったつもりになってしまう。
このような営業活動は、日ごろ担当している顧客に営業訪問している時のやり方とあまり変わらない。それではよほどの幸運でもない限り、見込み客を手元に引きとどめて顧客にすることはできない。
FAマーケットが成長しようとしていた頃と、大きなマーケットに発展しようとしている現在とでは顧客の技術、FAメーカーの商品、顧客の現場環境はまったく変わっている。しかし時代が変わっても、見込み客という赤の他人に接することとその時の基本動作はいまも変わらず健在である。その基本動作に「どんなFAの味付けをするのか」を考えて実践することがFA販売員には重要なのだ。
令和の販売員心得 黒川想介 (127)見込み客に接する基本動作はマーケットの成長当時と同じ
- 2025年1月30日
- コラム・論説
- 2025年1月29日号, 黒川想介
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