「基本に戻れ」「原点に帰れ」という慣用句は、スランプに陥った時や困った時に使われる。FA営業にとっての基本や原点とはどういうことを指すのだろうか。営業をやっていれば悩みは多い。試行錯誤を繰り返して悩みを解決し、経験を積む。その解決の根本にあるものが「基本」や「原点」である。
FA営業の原点は、FAマーケットがようやく目立ち始めた頃を振り返ると見えてくる。
営業と言えば「売上」である。売り上げが思うように伸びなかった当時の営業にとって、売り上げを増やすには顧客を増やさなければならなかった。自動制御は未成熟であったからFA商品の種類は少なかったし、工場側でも製造技術や設備資金等の問題があり、1カ所の工場から多くの売上は望めなかったのだ。
そこで営業の主流は新規客の開拓活動となった。当時、販売員が新規客の門を叩いて中に入っていく時、そこに工場があり何かの製品を作っていること以外はほぼ何もわからなかった。訪問を受ける新規客側も、何かを売り込みに来たのだろうと警戒しつつも、ひょっとしたら製造に役立つことや商品情報を持ってきたかもしれないと思って顔を出す。それを繰り返して顔を出す技術者が少しずつ増えていった。FA営業はこのような状況から始まった。
突然の訪問にもかかわらず、顔を出してくれる技術者が受け入れて話を交わしてくれる最低の条件は、一般的な基本動作にあった。一般的な基本動作とは、言うまでもなく「服装」「マナー」「言葉遣い」「表情」などが相手に不快と思われないなど諸々のことである。
しかしFA営業の場合、一般的な業界と違うところがある。それは見込み客が製造現場の管理者や製造技術に関わる人であることだ。したがって一般的な基本動作を正しくやるだけでは中途半端である。FA営業では、一般的な営業の基本動作のほかにもう一つの基本動作が必要なのである。それが「お客様から学ぼう」という姿勢である。
当時は製造の現場に自動化マーケットを作ろうとする段階であったから、見込み客の実態を知る必要があった。どのような機械を使って人はどんな作業をしているのか?原料や材料から部品や製品ができるまでにどんな作業工程があるのか?工場の設備には何があるのか等々の実態を知ることによって技術者や製造管理者と話がしやすくなる。工場の諸々を知ることによって、新規客へのアプローチの第一声で相手の気持ちを掴むことができるのだ。
製造現場は様々であり、一気に知ることはできない。そのため「お客様から学ぼう」という標語が作られ、それがFA営業にとってのもう一つの基本動作になった。
FA商品は、文字通り制御をする商品だ。制御部の前後には入力と出力がある。仮にリレーを使う現場なら、リレーのコイルを作動させるものは何か?リレーが動作すれば何が動くのかを聞く。同様に、自動機に絡む打ち合わせであれば、その自動機が働く前にはどんな機械や工程があるのか?後の工程では何が動くのか?を聞くことができる。このように「入力」「制御」「出力」を聞く習慣がFA営業の基本動作になっている。FA営業の基本動作によって、1つの商品や1つの設備から前後の商品や機械あるいは工程を次々と聞いていけば、工場の実態はいずれわかってくる。
現在の製造現場には高度な自動機が並んでいる。FAメーカーの商品は高度な技術を搭載している。そのためFA営業は、商品に関する電気技術やエンジニアリング的素養を身につけて売り上げを上げようとする。その一方で、FA営業の基本動作を置き忘れがちだ。それでも現状のFA営業の強化型で時流に乗れば乗れれば問題ないが、時流に乗れない販売店営業は原点に戻り、新規客を増やさねばならない。それには2つの基本動作の実践をこまめにやって、新規客開拓をやりやすくする必要があるのだ。
令和の販売員心得 黒川想介 (128)「お客さまから学ぶ」姿勢で製造現場の実態を理解する
- 2025年2月6日
- コラム・論説
- 2025年2月5日号, 黒川想介
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