企業に属する技術者のチームにとって、リーダーは不可欠の存在です。リーダーというのは管理職ではなく、その前段階ともいえる存在です。しかし、技術者の多くはこのようなリーダーとしての実務経験を経ることなく、いきなり管理職としての役割を求められるケースが多いため、実務部隊と比較して生じる段差につまづくことがあります。
その結果を挫折と解釈して自分の殻に閉じこもる、重要な業務から逃げるといった癖がついてしまい、年齢ばかりを重ねて戦力になりにくい技術者が増加する、という問題に直結してしまうことがあります。今日は技術者に求められるリーダー像について改めて考えてみたいと思います。
管理職と技術リーダーの違い
まずわかりにくいのが管理職と技術リーダーの役割の違いです。技術リーダーにも管理職的な要素が多少なり含まれるのは言うまでもありませんが、最も重要なのは、「管理職は全方位の管理業務を担う一方、技術リーダーは技術に関する管理業務を主に担当する」という違いです。技術リーダーはあくまで、管理職の下に属する現場の技術者の上長の位置づけになります。
一例として、研究開発で何かのテーマを行うとします。技術リーダーは、そのテーマの企画を立案して骨子をまとめ、
誰が何の役割で、いつまでにどのような技術的なアウトプットを出すのか、ということを明確化するのが最初の仕事になります。技術企画文書はリーダー自ら作成するのが基本となります。自ら明文化できないと、話の全体を理解してチームを率いることができないからです。
日々の業務においては、現場の技術者が目指すべきアウトプットから方向がずれていないかを常に確認する一方、技術的な問題や課題が生じた場合、その相談に乗りながら適切な指示や助言を行うことが求められます。そのため、リーダーは場合によっては領域や専門ごとに存在するケースもあります。
そして、上長である管理職に・テーマの進捗状況・技術メンバーの状況・設備導入や技術評価委託に必要な予算・技術的な業務全体に関する状況・必要な技術系人材の配置、といったことをタイムリーに報告・相談することが求められます。
勤怠管理や具体的な予算確保の折衝といった、技術に直接関係無い話には関わらせないという線引きが重要です。一気に管理職に関する実務まで担わせるのではなく、まずは技術軸というところで司令塔として動くための知見を積ませることが、技術者から企業運営に関わる管理職への移行に必要なのです。
技術リーダーに求められる姿勢
まず技術リーダーに求められるのは、「技術に関する徹底した自己鍛錬」です。技術は日進月歩なのでそれについていくということもありますが、「技術を突き詰めようと自己鍛錬をすると、技術の本質が見えてくる」ということに気が付くことの方が重要です。技術はどれだけ変化したとしても、本質は不変です。
この不変的な部分に到達するには、様々な実務経験はもちろんですが、
それに加えて自己の技術的な知見を常に向上させるという自己研鑽に対するぶれない姿勢が不可欠です。この技術の本質を見据えることができれば、技術チームが迷ったとき、課題を抱えた時に、「大まかな方向性としてここに向かうべきである」という技術リーダーで最も重要な、「技術的な指針を示す」ということが可能になります。
実際に技術的な課題が生じると、あれも言いたい、これも言いたい、これも必要だとなると思います。しかし、指示事項が多ければ多いほど、現場は混乱します。何が最優先なのかわからないためです。技術リーダーはいろいろ言いたい中で「技術的に最も重要な観点」だけに焦点を絞り、そこに向かうために何をすべきかという指示を与えることが求めれるのです。これが、技術的な指針になります。指針を技術リーダーが示せれば、チームが迷走することはまずありません。管理職としてもリーダーを筆頭としてこの状況を維持できれば、より俯瞰的に全体を見ながら技術チームをどのように管理運営していくべきか、ということを考えられるようになっていきます。
技術リーダーの陥りがちな問題
技術リーダーも元々は技術者。そのため、よく陥りがちな問題があります。それは、「技術リーダーが実務にまで手を出してしまう」ということです。技術リーダーはその蓄積してきた経験と知見があるため、自分であればこうやる、ああやる、というイメージができています。そのため、本来の目的到達にはいくつか道があるにもかかわらず、現場の技術者が自分の描いた道筋と異なる動きをすると、「それはだめだ、こうやりなさい」と具体的な業務のやり方まで指示を出したり、
それでもうまくいかないとなると、「もういい。自分がやる。」となってしまうのです。
現場の技術者は普通の人間であり、技術リーダーの頭の中まで透視ができるわけではありません。そのため、技術リーダーと異なる動きを現場の技術者がするのはよくあることと考えるべきです。しかし何かあるごとに実務まで含めて技術リーダーが関わると、・実務推進がすべて技術リーダー律速になる・現場の技術者が、技術リーダーの求める狭いストライクゾーンのみを見るようになる、という状況になっていきます。
当然ながら業務効率は低下し、何より「現場の技術者が自分の頭で考えて判断するということをやらなくなる」という「指示待ちの集団」のような状態になりかねないのです。技術リーダーは手や口を出したいのをぐっと我慢し、「技術的な本質に基づく方向性を示す」ということのみに注力し、「技術的な本質からずれなければ、時間を区切ってある程度任せる」という距離感が必要になるのです。
技術リーダーとしての役割は、管理職に向けた前段階の位置づけです。技術の本質を見失わない、見出すために自己鍛錬を継続し、技術メンバーが技術的な本質からずれていないかをじっと見守る、というスタンスはその後の管理職としての姿勢にもつなげられる部分も多くあります。あくまで技術という部分を基軸にしながら、まずは技術リーダーとしての役割に没頭する。技術者が確実に管理職としてのスキルを得るための技術者人材育成の流れの一つとして、是非取り入れていただきたいと思います。
【著者】
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吉田 州一郎
(よしだ しゅういちろう)
FRP Consultant 株式会社
代表取締役社長
福井大学非常勤講師
FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。
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