
日本立地センターは、製造業と物流業がどれだけ新規の事業所の設置をしているかに関する「新規事業所立地計画に関する調査」の2024年度版の結果をまとめた。2割超の企業が新規事業所の立地計画があるが、用地取得には難航しており、国や自治体の支援に大きな期待が寄せられていることが分かった。
新設が3割も
調査は、全国の製造業1万5000社と物流業5000社の計2万社を対象に行われ、2632社(製造業1968社、物流業628社)から回答を得た。
事業拠点の新設・増設・移転の立地計画の有無について、21%が「計画があり」、10%が「未定」、67%が「計画なし」と回答。「計画があり」の業種別では製造業は19%、物流業は28%ととなった。「計画がある」は前年度から減少したが、コロナ禍以降2021年から3年連続で増加してきて、高い水準をキープ。リーマンショックの影響を受けた2010年の7%を底として、上下ありながらも年々増加してきている。
立地計画の中身は「新設」が36%と最も多く、「移転」が32%、「増設」が31%と続き、進捗具合については、「検討中」が32%、「情報収集中」が39%と着工前が7割を占めている。一方で「延期・中断」の回答もあり、その理由として「資材の高騰」「建築費の高騰」をはじめ、「農地転用」「開発許可」など許認可関連、「業績悪化」なども挙がった。
着工予定時期は、「3年以内」が34%、「早急に」が28%、「5年以内」が18%で、5年以内の着工が8割を占めている。
3大都市圏に人気集まる
どんな施設を建設するかについては、製造業では「工場・生産施設」が85%、物流業では「倉庫・物流施設」が79%。また「本社施設(機能)」の割合が増加しており、製造業では23%(+4.2ポイント)、物流業でも10%(+5.0ポイント)あった。
どの地域に作るかについては、製造業では「東海」が最も多く20%。「南関東」17%、「近畿臨海」14%と続き、3大都市圏が上位となり、「近畿内陸」が9.7%、「甲信越」が7%、「北関東」「四国」と7%と続いた。具体的な都道府県名では、神奈川県が9件、埼玉県が8件、静岡・愛知・大阪が7件となった。物流業では、「東海」が20%、「南関東」が18%、「近畿臨海」と「北部九州」がそれぞれ10%。
手狭感・老朽化を解消
立地計画の理由について、製造業では「手狭感の解消」51%、「需要増への対応」49%、「老朽化」38%が上位に上がり、物流業では「需要増への対応」52%、「手狭感の解消」34%、「市場開拓」31%となった。また「働き方改革への対応」14%、「サプライチェーンの再編」9%が高く、荷物の取扱量の増加、人手の確保への対応も背景にある。
立地環境に重視する要素について、製造業では「用地価格」75%、「交通アクセス」70%が7割を超え、「災害リスク」39%、「豊富な労働力」38%、「取引先・市場との近接性」34%、「既存拠点との近接性」30%と続いている。物流業でも同様だが、「取引先・市場との近接性」54%の割合が製造業より多め。物流業が荷主および荷物の確保などを目的とした用地の先行取得を行う傾向を示している。
政府・自治体も手厚い支援を
立地先の選定時に重視する要素について、製造業では、「優遇制度の充実」が62%と4年連続の増加で6割を超えた。次いで「人材確保・育成の支援」55%、「域内外の交通アクセスの向上」50%、「用地等の受け皿の整備・供給」40%と続いた。物流業では「域内外の交通アクセスの向上」が59%で、続いて「優遇制度の充実」54%、「用地等の受け皿の整備・供給」「人材確保・育成の支援」が40%となっている。物流業は、交通アクセスや取引先や市場との距離を重視する傾向がみえる。
政府等に求めたい取組については、「資金面の援助」が 55%で最も多く、次いで「地権者への譲渡所得に対する税制優遇」が 41%、「土地利用調整の円滑化」が 41%と続いた。
同センターでは調査結果を受け、①サプライチェーンの強化に伴う立地の促進、②AIやデータセンターなど半導体分野(半導体製品・部素材・製造装置等)への積極投資、③脱炭素(GX)・DXなどの分野での新たな投資、④人材確保や働き方改革への対応などの製造業・物流業を取り巻く市場の変化を背景に、各企業で需要増加にともなう工場や倉庫の手狭感、老朽化が進んでいる事情もあり、新規立地意欲は底堅さがあるとしている。一方で用地が不足し、取得にも難航していることから、自治体や政府に対して優遇制度や資金援助、用地供給、交通アクセスやインフラの整備、人材確保・育成支援を求めていると分析。今後、円滑な国内の企業立地を促進するためには日本の経済を活性化するためには、こうした状況と課題を踏まえた効果的な対策が必要としている。