
雨の弱い時間帯を狙って移動しても、途中で本降りになってびしょ濡れになりながら通勤ということは少なくありません。オンラインでの打ち合わせや在宅勤務も可能になったような時代。「雨の日にわざわざオフィスまで足を運ぶことにどれほどの意味があるのか」と言われると、「誰かがそれを待ち望んでいるから」ではないかと思っています。
私が若い頃、会社に出社するのは当然で、「自分自身が会社に出社してコミュニケーションを取ることを誰かに待ち望まれている」と意識したことはありませんでした。
仕事と言うのは仮に個人事業主であったとしても、依頼を受けたお客様とのコミュニケーションは必須ですから、自分だけで仕事が完結することはありません。コミュニケーションの質によって仕事の完成度が変わりますし、ましてやチームで共通の結果を出そうという場合には、その質をどこまで高められるのかが鍵になります。オンラインのやり取りでも十分ではありますが、それがベストではないのも事実です。
今現在、私自身に周囲から何を求められているのかと言えば、それは「世界最高のアウトプット」なのだと思っています。実際にはそこまで求められていないのかも知れませんし、本音では「世界最高よろしく」と思っているけど、それを表立って言葉にされていないだけなのかも知れませんが。
もちろん現実には「世界最高のアウトプット」などそう簡単に出せるものではありません。あるオリンピック選手がどれだけ努力してもメダルを手にできなかったように、1日は24時間しかなく、無理をすれば体が悲鳴を上げ、予選通過すらできません。
もし仮に、「仕事が楽しくて楽しくて仕方がない」という心境になれたとすれば、雨だろうが雪だろうがとにかく会社に出社するでしょう。そしてチームのメンバーと「もっと良くするためのアイデアはないか?」と盛り上がり、実務の時間は全体の半分も確保できないかも知れません。そうしているうちに少しずつ自身も含めてチームが成長し、より良いアウトプットを実感できれば、ますます仕事が楽しくなるでしょう。
これは夢物語でも、別世界の話でもありません。「目の前のこの面倒な仕事をどうやって楽しめば・・」と思われるでしょうけれども、それは物の見方と工夫次第です。例えば面倒だと感じている仕事をどう工夫すれば楽しく処理できるのか、考えてみるのです。クレーム対応に行くのは決して楽しい仕事ではありませんが、「どうかこの不手際にお叱りを与えていただき、私たちの目を覚まさせて下さい」という心境で臨めば、その真摯な姿勢に不思議とお客様から褒められたりするものです。そして「逆境を信頼に置き換えることができた!」という達成感に変えることができます。
雨の日にずぶ濡れになって出社するのは「このような逆境であっても楽しめる工夫をせよ」ということを期待されているのではないかと思ったころには、びしょ濡れの服はすっかり乾いているのでした。
◆湯口 翼(ゆぐち たすく)

1967年生まれ。大阪府出身。2002年に産業用センサメーカーのオプテックス・エフエーに入社。開発グループで新製品の開発に携わり、ローコストな印字検査専用の画像センサをはじめ、画像処理用LED照明コントローラやIO-Linkマスタなど画期的な新製品を多く生み出す。2008年に取締役、2024年に代表取締役社長に就任。