前回述べた通り、営業の基本的な機能には「①新規の顧客を作る」「②商談を発掘する」「③商談を決着する」「④継続受注するための関係づくりをする」この4つである。この4つの機能をバランス良くどれだけ果たすかが営業力の尺度である。つまり営業力があれば好運・不運があっても売り上げは波を打ちながら右肩上がりのトレンドになる。
平成以来のFA営業は「③商談を決着する」の機能を重視した営業活動をするため、商談を決める営業スキルが突出して高い。その反面、他の3つの機能を果たす営業スキルが低いことは前回詳しく説明した。また以前にアメリカの墓売りウィリー・ゲールの営業を述べた時にも、若手販売員に「もしも墓を売ってこいと言われたらどんな営業をして墓を受注すべきか」と質問したが、皆ほぼギブアップであったことも述べた。その理由は明白だ、営業の基本的機能の中で特に「①新規の顧客を作る」の機能を果たす営業スキルが極端に弱くなっているからである。
ウィリー・ゲールの営業は、見込み客に関する多少の情報をもとにして巧みなコミュニケーション力を発揮して会話に引き込んだ。そうして得た情報をうまく使い、対人関係を深めて受注への道筋を作った。その道筋をたどっていけば、あとは墓所や墓という商材の長所と短所を説明し、見込み客の決心を待つだけだった。ウィリー・ゲールの営業は、営業の基本機能をバランス良く果たす営業力があって墓を売ることができたのである。
このようなウィリー・ゲール流の営業の根底には、コミュニケーションと情報がある。コミュニケーションとは、お互いに伝えたい情報や考え、気持ちを伝え合うことである。だからお互いに分かっていることの範囲でコミュニケーションは続行されることになる。
しかし販売員と新規客の間での理解は、売り手と買い手くらいの理解でしかない。他のことはほぼ分かっていない。このような状況においてコミュニケーションの出来・不出来は攻めていく営業次第である。だいたいが営業の一方的な商品情報の紹介になり、相手があまり興味を示さないと、「どんな仕事をしているのか」「何を作っているのか」というように、「どんな」「何を」を連発して話を続けようとする。これでは相手に営業力の底の浅さを見抜かれるから大雑把な応答になる。販売員も聞きたくて聞いたわけではないと思われるような受け方をするので、これではコミュニケーションは深まらない。
ウィリー・ゲールは、ほんのわずかな情報をもとにしてコミュニケーションを発展させている。現在のFA営業は、アタックする新規客に対してもウィリー・ゲール以上の情報を持っている。その情報をもとにしてコミュニケーションを発展させていけばいいのだ。
しかし販売員は「新規客がAという商品を設計している」「それを自動機で作っている」「だから制御機器制御商品は使うはずだ」という思い込みで訪問する。そして商品情報の紹介となり、相手の反応を見る。反応を見て説得営業を展開するという流れになり、さもなくば「どんな」「何を」を連発する。これにはウィリー・ゲール流が微塵も見られない。
ウィリー・ゲール流であれば、新規に訪問する相手の仕事に関する情報、この情報は販売員がしてきた経験からこんな仕事をしているのではないかという仮説的なことでいい。その仮説をもとにして巧みなコミュニケーションができれば、相手のことを学べる。学んだ情報からさらに仮説的質問を試みることができるようになる。新規の相手でも自分のことだから差し支えなければ教えてくれる。
こうして次々と新しい情報を発見するにはコミュニケーションの巧みさもさることながら、相手の仕事への興味がどの程度あるかが鍵になる。当然、販売員は新規客への興味のあるというが、実際は売らんかなという気持ちの陰に隠れてしまい、相手には上辺だけの興味と見抜かれてしまう。
令和の販売員心得 黒川想介 (132)新規顧客の興味を引き出し関係を深めるスキルが必要
- 2025年3月27日
- コラム・論説
- 2025年3月26日号, 令和の販売員心得, 黒川想介
オートメーション新聞は、1976年の発行開始以来、45年超にわたって製造業界で働く人々を応援してきたものづくり業界専門メディアです。工場や製造現場、生産設備におけるFAや自動化、ロボットや制御技術・製品のトピックスを中心に、IoTやスマートファクトリー、製造業DX等に関する情報を発信しています。新聞とPDF電子版は月3回の発行、WEBとTwitterは随時更新しています。
購読料は、法人企業向けは年間3万円(税抜)、個人向けは年間6000円(税抜)。個人プランの場合、月額500円で定期的に業界の情報を手に入れることができます。ぜひご検討ください。

オートメーション新聞/ものづくり.jp Twitterでは、最新ニュースのほか、展示会レポートや日々の取材こぼれ話などをお届けしています