現在稼働中の工場や生産ライン、装置の多くは、だいぶ以前に設計・構築され、更新や改良を経て、いまも動いている。DXやデジタル化の名の下にデジタル技術やデータ活用を駆使して生産性向上や効率アップが求められるなか、装置の構造を熟知して適切に対処できるベテランは減少し、このまま行くと生産性はおろか改善もままならない状態になりかねない。
そうした危機を救い、現場を強くするためにオムロンが提供しているのが、現場データ活用サービス「i-BELT」だ。稼働中の工場や生産ライン、装置の課題やお困りごとに対し、「匠」と呼ばれる同社のエキスパートが適切なデータ収集と状態の見える化を支援し、改善や課題解決をサポート。現場の管理や改善をベテランによる属人化からデータ活用による仕組み化へと変革を助けるサービスとして提供している。
そんなi-BELTサービスについて、オムロン インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー スペシャリストの水島謙二氏と、関西営業課長 飯田良氏に聞いた。
お客様との共創で課題を解決
ーー「i-BELT」について
i-BELTは「現場データ活用サービス」として、お客様の現場、特に装置やラインのお困りごとを一緒に解決するという共創サービスです。
これまで当社はPLCやリレーなどコンポーネンツを販売するビジネスを専門に行ってきて、サービスというと、例えばPLCのちょっとしたプログラム作成や画像処理装置の設定・立ち上げの支援など、機器を購入した際の無償サポートが中心でした。
それに対しi-BELTは、お客様が装置やラインを稼働する中で出る生産課題やお困りごと、収集したデータをどう活用していくか等の現場課題を一緒に考え、伴走するサービスで、今までの当社にはなかった領域のサービスです。
データ活用の基盤づくりを伴走
ーーi-BELTを提供する理由
この10年、DXやデジタル化、IoT、データ活用等がトレンドになり、かなり多くの企業がデータ収集に取り組んできました。しかしながら、せっかくデータを集めて蓄積しても、それを活用できていないというケースが多く存在しています。その理由は、集めたデータが何を意味し、現場でどう対応し、活用すればいいのかをお客様は分からず、単にデータを収集しただけになってしまっているからです。
それに対しi-BELTサービスは、匠が中心となって装置や現場を分析し、お客様が抱える課題に対して、どこからどういうデータを取り、どのように使うかを改めて定義し、それをもとに解決策を導き出して実行し、さらに継続的に改善できる基盤づくりを支援します。既存の装置やライン、工場に対して、現場データを活用できるようにする土台作りとその後の支援をするという意味を込めて「現場データ活用サービス」としています。
現場を知り尽くした匠が改善をサポート
ーー現場コンサルティングサービスに近いイメージですね
大きくくくればコンサルティングに近いものですが、i-BELTはよりお客様の懐、現場に入り、お客様と当社で共創するサービスになっています。
当社も制御機器メーカーとして自社工場で多種多様な製品を製造し、日々改善をしています。それらを現場で推進してきたのが「匠」と呼ばれるエキスパート、技術者であり、i-BELTでは、その匠がお客様の現場にうかがい、要望や課題を聞き、現場を見て、解決策を一緒になって考え、改善を実行していきます。そこは一般的なコンサルティングとは大きく異なります。
また当社の匠は、自ら実際に先進的な制御機器を使って製造装置や生産ラインを構築し、デジタル技術やデータを活用して生産性を向上してきた経験を豊富に持っています。そうした最新のFA技術のトレンドと現場の課題解決の経験を、現場のデジタル化やDX、データ活用をしたいというお客様に提供するのがi-BELTサービスです。
ーー匠やコンポーネンツは大きな差別化要因ですね
お客様と匠が話をすると、お互いに現場の苦労という共通の土台があるのでいつも盛り上がります。表向きの真面目な話はもちろんですが、時には上司と現場の微妙な関係性など現場あるあるで盛り上がったりして、「オムロンは現場を分かってるな」と言ってもらえたりします。そうした現場の方と同じ目線、同じ言語、同じ感覚で話して寄り添えることが喜ばれています。
また、センサやコントローラなど自社のコンポーネンツがあるからさまざまなアイデアや提案ができるというのは大きいと思います。実際、コンポーネンツを使って現場で試行錯誤をし、2014年から草津工場でデータを活用した改善を手がけ、多くの失敗もしてきています。そういうところが説得力につながっていると思います。
現場の本音に寄り添って課題解決をサポート
ーー実際、現場からはどんな相談が寄せられるのですか?
経営層からビッグワードで指示が降りてきて、「何をやったら実現できるのか分からない」「どこから手を付ければいいのか」という相談が多いです。製造管理、品質管理、設備効率管理、エネルギー効率管理の4つの切り口でサービスを提供しています。最近はカーボンニュートラル関係が多く、例えば「最近流行りの省エネ、カーボンニュートラルをやれ」というぼんやりとした指示が来て、どうすれば良いのか分からずに困っているという声がありました。
現場の人からすれば、自分が担当する工程が大きな電力を使っているからエネルギー消費を減らせと言われても、自分は与えられた設備で製造を担当しているだけであり、自分で選んで構築した設備ではないのだからそこまで責任は持てないというのが本音。本当にカーボンニュートラルをするのであれば、お金を出して新しい設備に入れ替えればいいのに、経営陣に提案しても費用対効果やROIという話になって話が進まなくて困っているという人は多くいます。私も同じような経験をしたことがあります。
経営陣からすれば、設備投資をするに足る実績や証拠が欲しい。
しかし今の現場は、経営陣を説得できる実績や技術を持ったベテランが減り、工場や設備はデジタル化やネットワーク化がされておらず、経営陣を納得させられるだけの材料、データを揃えるのが難しかったりもします。
熟練者依存からの脱却 現場と経営をデータでつなぐ
ーーそこでi-BELT、匠の出番ということですね
そうです。
i-BELTを使って匠が現場のサポートに入り、仮説をデータ、事実で示せるように仮の装置を一時的に設置してデータを集め、設備投資をすればこうなり、減価償却も○年で終わりますというような説得材料づくりを後押ししたりもしています。
今まではこうしたことを熟練者が担い、熟練者の技術とこれまでの実績、貢献が現場と経営陣をつないでいました。設備投資の判断もデータ、事実を元にするというよりも、熟練者が立てた仮説ベースで決まっていた部分が多々あります。
しかし、いまは現場から熟練者が少なくなり、設備投資の判断も高い精度で行わなければならなくなっています。i-BELTは、そこをデータに基づく事実ベースで判断できるようにし、現場にとっても、経営陣にとっても納得感があり、属人的でなく、持続的に誰でも行えるようにすることが可能です。
現場のデータは現場で起きている事実そのもの。現場で何が起きているか、どんな課題があるのかを分かりやすく見えるようにすることで、データを通じて現場と経営陣をつなぎ、お互いの信頼感を醸成するお手伝いを進めています。
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国内外に200社以上の提供実績
ーーこれまで採用された企業とその属性は?
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i-BELTは2017年にサービスをスタートし、これまでに200社以上の支援を行ってきました。自動車メーカーや物流関係、装置を製造しているメーカーなど業種は多種多様です。
職種としては、経営層や生産技術、製造、保全などから問い合わせをいただき、実際に提供する形がほとんどです。経営層がデジタル化やカーボンニュートラルに向けて積極的に動いている企業が多い感じです。
コンポーネンツ販売は装置や生産ラインを設計する部門のお客様が主ですが、i-BELTは既存の工場や装置、生産ラインを運用している方々が主となります。その意味では、これまでの当社のサービスとは異なる、新しいチャレンジになります。
また、海外だとローカル企業に加え、日系企業の工場を支援することも多いです。アジア・パシフィックなどでも日本製品のブランドは強く、その生産の仕方のノウハウを取り入れたいというニーズがあります。技術を学ぶと人がすぐ辞めてしまうなどの事情もあって、属人化をやめて仕組み化したいという相談も増えています。
ーー費用感や、匠に相談したいという場合の問い合わせ方法は?
価格は内容に依ります。お問い合わせは、通常のコンポーネンツと同様、当社の販売店に声をかけていただくか、直接、当社の営業拠点にお問い合わせいただく形でも受け付けています。その後、ヒアリングから始めていきます。課題や相談ごと、お悩みは内容や規模の大小問わず、まずはお話しいただければと思います。
多品種少量生産で鍛えられた現場力を惜しみなく提供
ーー今後に向けて
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いまカーボンニュートラルに向けて多くのお客様が取り組みをはじめています。以前は歩留まりや品質に課題感を抱えている方も多く、現場が抱える課題の種類も幅も広がっています。
当社は多品種少量生産が中心で、生産現場はその厳しい環境で長年鍛えられてきました。その経験をもとに、課題解決を手助けするサービスとしてi-BELTを広げ、お客様のものづくりに貢献し、ひいては日本のものづくりに貢献することを目指していきます。
また、多くのお客様を支援するには、そのバックアップ体制が重要です。エキスパートももっと色々な知識と技術を身につけなければいけないし、もっとお客様を理解しないといけません。そのための人材育成や教育も重要となり、その整備を進めていきます。
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左からインダストリアルオートメーションビジネスカンパニー ソリューション営業本部 第4営業統括部 関西営業課長 経営基幹職 飯田 良 氏と、同アドバンスドソリューション事業本部 ソリューションビジネス部 経営基幹職 スペシャリスト(生産技術-実装技術) 水島 謙二 氏