ジック(SICK)は、ドイツ・フライブルグ近郊のヴァルトキルヒに本拠を構え、グローバル売上高は2022年度で3500億円(約22億ユーロ)を超えるセンサのトップメーカー。屋内外で使える幅広いラインナップを持ち、FAをはじめ、PAや物流、交通・運輸などに採用が広がり、近年はLiDARやセーフティ、物流業界向けの画像センサなどで業績を伸ばしています。日本法人は独自に技術開発力を磨き、ソリューション開発やシステム構築も自前で行える力を備え、年々勢いを増しています。現状の取り組みと今後について、代表取締役社長 松下 実 氏(写真左)と、取締役部長 安藤憲一氏に話を聞きました。
厳しい市場環境のなかで10%超の成長
ーー2023年度の状況について
2023年の業績は10%半ばの成長になり、全体として明るい年になりました。
FAは事業環境が厳しいなか数%の成長になり、物流関連のIL(イントラロジスティクス)は新しいバーコードリーダに加え、光電センサや距離計、セーフティのリスクアセスメントサービス等も開始し、大手マテハンメーカーなどから輸出機械向けリスクアセスメントの声がかかるなど大きく成長できました。PAは、成果が出るまでに時間がかかるビジネスですが、仕込んできたEPCのビジネスが成果につながり、15%の成長を見込んでいます。
開発力強化、PA業務提携、デリバリ充実など2024年も好材料
ーー2024年の見通しについて
足元の受注は厳しく、お客様が在庫をかなり持っていて、中国の景気も減速気味で、ロボットビジネスも縮小しています。楽観視はできませんが、それでも春頃には回復してくると見ています。
日本でお客様向けにソリューションを作って提供する「AppSpace」の取り組みが実になり始めています。コンベアを流れる箱の容積やサイズを自動計測できるソリューションを日本で作り、マテハンメーカーからの評価も上々で、来年以降の拡大に期待しています。
またPA事業で、プロセス計測器のグローバルリーディングカンパニーであるEndress+Hauser(エンドレスハウザー)と戦略的パートナーシップを締結し、PA事業分野で合弁会社を設立する覚書に署名しました。当社は排出ガス分析計や超音波ガス流量計、エンドレスハウザーは主に液体用のプロセス計測器を取り扱っていて、今後両社に関連する事業分野を議論し、2024年半ばに契約締結を予定しております。
これから脱炭素に向けて水素やアンモニアを資源エネルギーとして使うトレンドが進むなかで、両社がパートナーシップを締結したことによってクリーンエネルギーに向けた総合的なソリューションが提供できるようになります。グローバルEPCプロジェクトを受注するには液体用計測器のソリューションは必須で、これまでもお客様からは「液体用流量計も供給してほしい」とご要望を受けることが多々ありましたが、今回のパートナーシップでそのご期待に応えることができ、両社の相互補完的なソリューションはプロセスオートメーション分野をリードしていきます。
また、日本のセンサメーカーのように翌日出荷のサービスを整備しました。注文を受けたら中国の倉庫から直送をし、2・3日後には届くような仕組みになっています。まずトライアルのお客様からスタートし、少しずつ拡大していきます。
FAはAGV/AMRとEV用バッテリー向けの取り組み強化
ーーFA事業の現在とこれからの取り組みについて
FAは設備投資が低調ですが、ユニークなソリューションを提供できており、あまり悲観的に考えていません。現在特に力を入れているのがAGV/AMRとEV関連のバッテリー分野です。
AGV/AMRでは、2020年に国際安全規格ISO 3691-4が発行され、AGV/AMRに安全機器を搭載することが大きな潮流となっており、これに沿う形で2022年にJIS規格のJIS D 6802も改定されました。これを受けて当社でもセーフティに力を入れ、セーフティスキャナやセーフティコントローラに加え、リスクアセスメントやセーフティに関するコンサルティングサービスなど総合的に提供し「AGV/AMRのトータルソリューションプロバイダー」として活動しています。
機器だけでなく、AGV/AMRには必須となる自己位置推定、ナビゲーション用ソフトウェア「LiDAR-LOC2」も提供しています。ドイツの自動車メーカーと共同開発したもので、自己位置推定の正確性が高く、工場内のレイアウトが変わっても情報安定的に動作させることができます。とても使いやすく、日本のティア1メーカー様に標準採用され、大手の工作機械メーカーでも導入が決まりつつあります。
AGV/AMRのトータルソリューションプロバイダーに
ーーあとは駆動と制御部分があればAGV/AMRが完成しそうです
当社の強みは、AGV/AMRに必須となる要素、眼とソフトウェア、安全技術をすべて持っていることです。個々の技術だけでも世界最高峰ですが、それをすべて揃えているのは当社くらいだと思います。
眼の技術について、「nanoScan3」 は世界最薄、高さ最小のセーフティレーザースキャナで、非常に好調です。通常のレーザースキャナは1パルスを発信し、跳ね返りを検知すると止まってしまいますが、nanoScan3に搭載している「safeHDDM+」は、1つの距離に対して80ものパルスを発信し、それが障害物なのかそうでないのかを瞬時に判別し、誤検知で止まらないようになっていて、生産性を高めたいというお客様にはとても喜ばれています。
コンパクト構造のFlexi Compactに加え、をAGV/AMRに特化させたセーフティコントローラ「Flexi Mobile」の発売を開始します。
ーーEVのバッテリー関連はいかがですか
産業用3Dカメラ「Ranger3」は、Ranger3はCMOSとGPUを1チップ化した特別な半導体チップを搭載し高速処理ができます。通常の産業用カメラはCMOSと画像処理用プロセッサは別々になっていて配線を通じて信号をやりとりするので、必ずタイムラグが発生します。Ranger3はそれが最小限に抑えられていて、バッテリーの品質管理などハイエンド用途に最適です。
IL・TLともに技術で差別化
ーーIL、物流分野はどうでしょうか?
ILの物流分野では、小型高性能のマトリックスカメラ「Lector85X」が好調です。高い処理性能のプロセッサでコンベアを流れる荷物間の距離が狭くてもコードを読み取ることができ、荷物が重なっていた場合には読まないという判断もでき、処理能力が高く、大手マテハンメーカーから高評価をいただいています。
ーーTL、交通・運輸や屋外向けはどうでしょう?
TL(Transport Logistics)は、センサメーカーで屋外向けセンサを出している企業が少なく、すでに使われている鉱山機械の自動運転以外にも、農機や建機、フォークリフトなどで採用が広がっています。
屋外向けセンサはLiDARだけでなく、レーダや超音波センサ、屋外用カメラもラインナップしています。それぞれの技術に得意・不得意なものがあり、お客様の用途に応じて柔軟に選択し、ソリューションとして提供しています。これだけのポートフォリオを揃えていて、且つ自社でソリューションを開発して提供できる企業は他になく、来年以降も力を入れていきます。
非公道で走る特殊車両向けセンサに注力
ーー自動車の自動運転はどうですか?
屋外を走る車でも、当社は公道を走る自動車向けは事業としてやっていません。当社が手がけているのは公道を走らない車両、鉱山機械や農機、建機、カート、芝刈り機などです。公道を走る自動車よりも市場は小さいですが、競合も少なく、確かなビジネスになっており、今後も力を入れていきます。
鉄道についても広い意味での自動運転であり、自動化技術が求められています。電車がプラットフォームに入ってきた際、それを検知してドアのところで正確に停止させたり、踏切内の誤侵入検知など、当社のセンサ技術が活かせる場面はまだたくさんあると見ています。
良い製品とソフト開発力が成長の源泉
ーーこの10年、順調に業績を伸ばしてきました。その要因は?
成長の原動力となっているのは、良い眼となる光学性能に優れて小型で品質の良いセンサがあり、その上で自分達で頭脳を作ることもできる、FA、PA、IL、TLすべての分野でソリューションを提供できるようになったことだと思います。
単にセンサを右から左に単に流通させるのではなく、物の個数を数えたり、寸法を測ったり、人と物の区別をして欲しいなど、お客様が当社のセンサを使ってやりたいことに対して、それを実現するソフトウェアを日本法人で開発して提供しています。「1+1を3にすること」を目標としてきて、それがようやくできるようになりました。
例えば最近の面白いところでは、サウナブームを背景にJALが新規事業としてサウナ旅サービス「サ旅」を始めています。そこでJALはサウナ事業者に対して、サウナ室前に設置したセンサでサウナ室の利用状況をリアルタイムで可視化してサウナ利用者の満足度向上やオペレーション改善やマーケティング強化を可能にするサービス「TOKYO SAUNIST」を提供していますが、そのシステム開発は当社が日本で行いました。サウナ室前では画像センサを使えないので、あえてLiDARを使って人数カウントをするなど、プライバシーに配慮したシステムをJALと一緒に作り上げました。すでに10カ所のサウナで導入されています。
新卒採用・若手の活躍など会社組織として成熟
ーー良い空気が流れていますね
外資系企業でよくあるパターンですが、当社も昔は個人商店で、社員と組織のつながりが薄い会社でした。そうした企業風土を変えようと10年かけて土壌づくりを進めてきて、ようやく実を結びはじめたところです。現在、日本法人には約150人が働いていて、技術と営業の割合は半々。最近は新卒も含めて若い人が入ってきてくれるようになってきました。
今年の春には社員全員で合宿をして「こういう会社になりたい」を話し合い、最終的にジックジャパンのパーパスとして20代から30代の若手社員がまとめてくれました。またCDGMと言われる小集団活動に取り組み、サービスの質の向上や部門間のコミュニケーション改善などにも成果が現れてきています。社員がそれぞれの力を発揮することで会社も変わるということが分かり、楽しみながら仕事ができる雰囲気が出てきて、こうした変化も成長のドライバーになっていると感じています。全社を挙げて頑張ろうという空気感で2024年も楽しみです。