いまFA業界で熱いトレンドといえば、モーションコントローラやPLCなど専用機で行っていた制御を、汎用のPCやソフトウェアで行う「PC制御・ソフト制御」です。
モベンシスは、ソフトウェアベースのモーションコントロール技術である「ソフトモーション」を独自開発し、15年以上前から制御のソフト化にいち早く取り組んできたトップランナーです。ちょうど1年前の2023年5月には三菱電機との協業・業務提携を発表し、FA業会業界のPC制御・ソフト制御への方向性を決定づけ、いま最前線で牽引する注目企業です。
そんな同社の現在地と今後について、副社長 兼 技術営業部長の本間広光氏に聞きました。
夜明け直前のPC制御・ソフト制御 関心高く
ーー三菱電機との提携から1年が経ちました。何か変化はありましたか?
ちょうど1年前に三菱電機と業務提携が発表されてから、その反響はとても大きく、三菱電機の製品を使っているお客様の裾野の広さを感じています。今までは、どこの馬の骨か分からない会社として様子を見られていたことがありましたが、この1年は大手も含めて色々なメーカーと話しやすくなったと感じています。
また、普段は装置メーカーやOEMメーカーと接することが多かったのが、PCで制御をやってみたいというエンドユーザーからも声をかけていただけるようになりました。検討中で止まっていたお客様との話が進むなど、認知度と信用がグッと上ます。
今年1月に開催されたIIFESにも出展し、多くの方にブースを訪れていただきました。IIFESでは特にインダストリー4.0や製造業DX、 AI活用が話題になっていましたが、PLCなどハードウェアベースではそれらに対応するのが大変だということで、装置メーカーや自動車メーカー、自動車部品メーカーなどが当社のソフト制御に関心を寄せていただけたりもしました。
ロボット業界にも到来した制御の新しい波
ーー事業拡大に向けて順調ですね
最近はロボットメーカーやロボットSIer、エンジニアリング会社から声がかかることが増えています。
産業用ロボットを制御する際には ロボットコントローラーはロボットメーカーが提供しているものを使うのが一般的ですが、複数台のロボットを使ったシステムを組もうとすると、ロボット台数分のロボットコントローラーが必要になります。さらに搬送システムなど周辺に別の軸があると、それ用のコントローラーも用意しなければなりません。
そうしたシステムに対し、当社のソフトモーションコントローラ「WMX」を使えば、1台のパソコンで複数台のロボットと軸を制御できるようになり、システムがシンプルになってコストも抑えることができます。また予知保全や上位システムと連携してデータを上げることもしやすくなります。PC制御、ソフトウェアベースのコントロールを活用することで、1台のPCでAIを活用したり、クラウド連携をしたり、画像処理も行えるようになります。そうしたことを実現したいというお客様も少しずつ出てきており、ロボットコントローラのイメージが変わりつつあるのを感じています。実際に、あるロボット関連会社とはWMXをベースとしたロボットコントローラの共同開発も進めています。
またロボットメーカーからは汎用性が高いロボットコントローラのプラットフォームを作りたいという意向を感じます。
ロボットメーカーは長年の歴史で培った「秘伝のタレ」のような独自の制御技術を持っています。しかしそれをベースとして今の時代に合わせて新しく作り変えようとすると、それはとても難しい。それに対し、WMXのようなソフトウェアベースのコントローラをOSのような形でプラットフォームとし、そこに秘伝のタレを加えてWMXのさまざまな高級機能を活かした独自のロボットエンジン、アルゴリズムを作っていきましょうという提案を進めています。
AMRや物流システムでも高い関心
ーー半導体製造装置、ロボットと成長分野に強いですね
近年成長著しいAMR向けの事業も強化しています。
昨年アメリカのボストンにあるMITスタートアップのスカイラテクノロジーズというAMRのソフトウェア会社を買収しました。 AMRは多くの会社が開発していますが、実用化には技術的な壁がいくつかあり、問い合わせも増えています。
ロボットアーム搭載のAMRには3台くらいのコントローラが搭載されていますが スカイラテクノロジーズのJetStreamというナビゲーションのソフトウェアと、私たちの我々のWMX ソフトモーションを融合させて、1台のPCでAMRのナビゲーションとロボット制御、センサ制御ができるようになります。そうしたコントローラの製品化も近く、これができると、他にはないAMRの統合制御プラットフォームになるので、業界的には大きなインパクトになるかなと思っています。
またAMRだけてなく、半導体工場でよく使われているOHT(天井走行式無人搬送車)に も取り組んでいます。もともと私たちがフォーカスしてきた半導体製造装置業界だけでなく、それ以外の産業でもソフトウェアベースの制御に関心が高まっています。
各社独自の門外不出の秘伝のタレを活かすための基盤を目指す
ーーWMXのPC制御、ソフト制御のプラットフォーム化ですね
その通りです。
多くの装置は昔からの資産を引き継いで来ており、それを時代に合わせて改修しようとすると、内部はスパゲティのように絡まっていて、コアな部分は誰もメンテナンスできない、変えるのもままならないところがあります。人的リソースが限られるなかで、彼らが持っている資産を乗せ替える土台が必要となっているのです。
私たちの独自のモーション技術もありますが、お客様は無理にそれを使う必要はなく、最低限の土台、プラットフォームだけ使って、自分たちの門外不出の秘伝のタレを活かして独自のものを開発していただけるようにする。私たちは制御のプラットフォームを担い、いろいろな産業にWMXが広がっていくことを目指しています。
ーー取り巻く環境も変わり、機能強化も進んでいい流れがきていますね
お客様と話していても、これまで20年前に開発したボードで制御をしていたり、PLCを使っていて、これからに向けてソフトウェアベースのモーション制御をしたいけどできない、前に進めないという声を多く聞きます。これからPC制御、ソフト制御が一気に広がる可能性は十分に感じています。
機能強化と普及に不可欠なノーコード開発環境
ーー製品やサービスのアップデートした点は?
ボンダーなど非常に高速に動く装置や、軌跡制御で滑らかな動きを求める装置の場合、速い通信周期を求める用途が結構あります。しかし、それをすべての軸で連続して制御するのはCPUに対する負荷が大きくなります。それに対し、最近のCPUはコアの個数が多く、それをうまく利用して、必要な軸だけ125µsecで高速制御し、そこまで必要ない軸は1ミリsecなど遅めにして負荷を下げる機能をリリースしました。これにより演算処理にかかる負荷を減らしてより安定性を高めています。最近ではEtherCATマスタ技術をさらに進化させ、62.5μsの超高速制御も実現しました。
また、ノーコードの開発環境を現在開発中です。エンドユーザーがWMXを使う場合、アプリケーションを作る人がラダーしか使えないとなると、WMXをそのまま使うのはかなりハードルが高くなります。もっとWMXを手軽に使い、普及させるためには開発環境をPLC OPEN規格に基づいたものにすることや、ノーコードの開発環境の整備が必要になります。
ラズパイ、JetsonNanoなど小型PC対応も前向きに検討中
ーー最近はRasberryPiのような小型コンピュータで制御するトレンドもあります
私たちは半導体製造装置などハイエンドの装置メーカー向けのソフトウェアを販売してきました。なかにはそこまで複雑なことはやらないというお客様もおり、一定のニーズはあるとは思っています。
10万円を切るWindows PCでWMXで制御したい、通信周期も1ミリセックで十分だというという声に対しては、通常バージョンだとオーバースペックになるため、その際はWMXもライト版のような形にして低価格で提供するようなことを考えています。ただし、ソフトを使う上ではPCの性能は重要なので、ある程度、私たち側からPCを選定して提案するような形も検討しています。すでに社内ではLinuxバージョンのWMXを、NVIDIAのJetson Nanoにインストールして多軸制御するというデモはすでに実証済みです。多くのニーズがあれば小型コンピュータ向けの取り組みも前向きに考えていきたいです。
日本発のソフト制御プラットフォーム実現へ
ーー今後に向けて
PC制御、ソフト制御のプラットフォーマーを実現するためにも、事業の柱となっている半導体製造装置やロボットに加え、AMRやOHT、ストッカーといった物流システム向けにも提案を強化していきます。
また、今のお客様は装置メーカーが中心ですが、将来的にはエンドユーザーも使えるようにして裾野を広げていきたい。そのためにもノーコードの開発環境を早く整備することが必要です。アメリカのスカイラテクノロジーズの拠点は「先端研究開発センター」として、現在必要な技術と将来に向けた研究開発を進めていて、ノーコードの開発環境もそこで開発しています。
三菱電機との業務提携の1年目として国内では大きな成果を得られました。三菱電機はグローバル、特にアジア圏の台湾やASEANなどの販売ネットワークも強いので、それを活かした海外での拡販活動も強化していきます。
また、今年の夏頃には、日本、韓国、アメリカに続く4カ所目となる、中国・上海に販売拠点現地法人を開設する予定で、グローバルでの展開を進めていきます。