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【シーメンス】環境規制と自動車製造業の未来 Catena-Xと欧州電池規則の影響

欧州を中心に製造業における環境規制が強化され「サステナビリティ(持続可能性)」に対しての取り組みが、企業競争力を左右するようになりました。特にCatena-Xや欧州電池規則などの新しいルールが注目を集め、自動車業界を先駆けとして広がりを見せています。

これらの動きについて、シーメンス デジタルエンタープライズ&ビジネスディベロップメント カーボンニュートラル デジタルインダストリーズ マニュファクチャリング担当の横谷浩行氏に話を聞きました。

Catena-Xについて

―欧州ではCatena-Xによってデータ共有基盤が整備されてきていますが、改めてCatena-Xについて教えてください。

自動車業界の競争力強化やCO2削減などに向けて、必要なデータをメーカーやサプライヤーなど関係する企業間で安全に共有できる仕組みです。2021年5月にコンソーシアムとして設立され、弊社を含む欧州企業を中心に約200社、日本からもデンソー、旭化成、NTTデータ、富士通などが加入しています。EUのデジタル戦略「GAIA-X」に基づいて構築されています。

欧州電池規則について

―欧州電池規則についても教えてください

製品のサプライチェーン全体にわたるCO2排出量の開示を義務付け、電池の持続可能性と循環性を向上させることを目的とした規則です。自動車用に限らず、EU域内で販売される全てのバッテリー(2kWh以上の容量を持つ電池・蓄電池)が対象で、原材料の調達から製造、使用、リサイクルに至るまでのライフサイクル全般に対して対応が求められます。バッテリーパスポートという仕組みで情報が記録・開示されます。

重要性が増す「CO2排出量管理」

―いずれも「CO2排出量」がキーワードになりそうですね

いずれの動きもまずは「CO2排出量」の管理が求められるため、企業は「カーボンフットプリント」と呼ばれる、製品ライフサイクル全体におけるCO2排出量の見える化に取り組む必要があります。そのため、電力だけではなくガス、スチームなど電力以外のエネルギー消費を含めて管理しなくてはなりません。さらに、CO2は工場から排出される総量ではなく、製品のロット単位でのデータ化が求められます。中小企業も例外ではなく、特に「欧州域内に輸出する電池」に関連する企業では、2024年7月1日からカーボンフットプリントの申告を行うことが定められており、対応ができない場合、取引自体ができなくなる可能性もあります。今は北米でも同様の規制検討が始まっています。

自動車業界が求められる具体的な対応

―具体的な動きを教えてください

電気自動車を例に説明します。欧州電池規則では、蓄電池を搭載して販売する「自動車メーカー」が各種情報の開示義務を負います。必要な情報は製造者や製造工場の情報、電池のライフサイクル各段階でのCO2総排出量など含めた100項目以上にのぼります。ここでいう「ライフサイクル各段階」は原材料の採掘・加工から、製造、輸送、使用後のリサイクルまでの全てを含むため、関連するすべての企業から情報を集めないと自動車メーカーはルールに沿った情報開示ができません。弊社では欧州電池規則を主導する「Global Battery Aliance」と自動車業界のデータ共有を主導する「Catena-X」両方のメンバーとして関係者との協力関係を推進し、ユーザーが無償で利用できるプラットフォーム「SiGREEN」を提供しています。化学業界の団体TfSが策定しているルールにも対応しています。

急がれるカーボンフットプリントの算出

―カーボンフットプリントの算出は容易ではないと思います

カーボンフットプリントを含めた環境負荷情報の算出を行うためには、「IDEA」と呼ばれるデータベースの活用が可能です。これにより、製品ごとに環境負荷物質(CO2、化学物質、資源など)の利用・排出量を疑似的に推計することができます。しかし、この算出方法は各社の実績値(実測値)ではありません。現在、様々な領域で情報開示のルール整備が進められているのですが、実績値(実測値)の開示が重要になってきており、この対応が急務です。

企業の反応とと実態

―企業の反応と実態はどうでしょうか?

関心が高まっている一方、対応の遅れも否めません。また、複数企業間でのデータ連携が重要となることから、「国際標準」「業界ルール」に適合したデータ作成とバリューチェーンに沿ったサプライヤー間データ連携も必須になります。さらには既存ITシステムだけではなく、現場で稼働している各種システムとの連携も求められます。SiGREENは「製品カーボンフットプリント管理アプリ」として、これらのニーズに対応しており、御相談も増えてきています。特に欧州のTier1と取引がある企業はすでに動き始めています。昨年だけでSiGREENを活用した企業はグローバルで200社を超えました。部品点数が多い企業ほど対応に時間がかかるため、「サステナビリティ推進室」など環境対応の部署だけではなく、生産技術、購買、情報システムなど多くの部署が連携して活動されています。

Catena-Xや欧州電池規則の導入後の変化

―Catena-Xや欧州電池規則の導入により、将来的にはどのような変化が期待されますか?

個社だけではなく、サプライチェーンを含めた業界全体の改革につながると見ています。部署ごとに閉じた個別最適から、全体最適を見据えたDX実現のきっかけになるのではないでしょうか。将来的にはカーボンフットプリントの管理にとどまらない情報活用が期待されます。企業間で在庫状況、生産キャパシティ、設計情報などを共有することで、本質的な製品ライフサイクルマネジメントにもつなげることができます。データの所有者は弊社のようなプラットフォーム提供企業や取引先ではなく、あくまでもその製造企業ですので、例えば開示データの選定や、開示後の取り下げなども製造企業の権限で可能です。

Catena-Xの未来と課題

―最後に、Catena-Xの今後の課題や期待について教えてください。

Catena-Xのビジョン実現のためには、企業間データ連携基盤が必要であり、各社が最優先で取り組む必要があります。取組が遅れてしまっている企業は早急に対応が必要です。また、データ連携のためには、各社が独自で取り組むのではなく、グローバルに連携しながら、データモデルなどを標準化していくことが必要で、これは最終的に企業及び社会全体の利益につながりますし、企業のOT/ITシステム変革の方向性を示唆していると思います。CO2排出量管理にとどまらず、製造業の発展にCatena-Xが寄与することを期待していますし、弊社もその発展に寄与できればと考えています。

https://www.siemens.com/jp/ja/company/sustainability/product-carbon-footprint.html