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【リンクス】PLCこれからどうなる?ソフト制御・PC制御の行方②PLCは機械の心臓部。PC制御の本格普及はもう少し先に 水面下で採用広がるCODESYS ラズパイきっかけで加速も


リンクス 代表取締役社長 村上 慶 氏

いまFA業界で最も熱いトレンドである「PC制御・ソフト制御」を語る上で世界トップシェアのソフトPLC「CODESYS(コーデシス)」の動きは欠かせません。2012年からCODESYSの国内総代理店として日本におけるソフトPLC・PC制御の普及活動を進めてきたLINXの村上 慶 代表取締役社長に、PC制御・ソフトPLCとCODESYSの現状について話を聞きました。

ファナック、ヤマハ、山洋電気などCODESYS採用

ーー最近PC制御、ソフトPLC市場が熱を帯びています

実は見えないところで日本のFA機器メーカーや機械メーカーでCODESYSは採用され、OEMという形で少しずつ浸透しています。当社が開催している年1回のイベント「LINX DAYS」ではすでに発表されていることですが、全世界では400社を超えるOEMメーカー、数千社のエンドユーザーで採用され、日本でもファナックやヤマハ発動機、山洋電気、コンテック、ハイバーテックをはじめ、多くのロボットメーカーやFA機器メーカーでOEMされて着実に広がっています。

PLCは機械・装置の心臓部。置き換えは慎重に

ーーPLCをPC制御に置き換えようという声も聞こえてきます

PLCの代替としてソフトPLC、PC制御を日本市場で本格的に普及させていくのはそう簡単なことではありません。

当社は1997年から「HALCON」の日本総代理店として画像処理ソフトの普及に取り組んできました。今でこそ画像処理が当たり前になり、HALCONのブランドも知られて広く使われるようになっていますが、ここまで来るのに長い時間と手間がかかりました。機械や生産設備のシステムを構成する一部である画像処理ですら変化は難しかったのです。

それに対し、CODESYSが担う制御、PLCの機能は、機械や生産設備にとっての心臓部です。それを変えようというのは心臓移植と一緒。HALCONの時よりもハードルははるかに高くなります。

日本市場のお客様もいつかはPLCからソフトPLC、PC制御へ移行するだろうと心では思っていますが、実際にそれを実行するまでは時間がかかると見ています。

いまCODESYSは徐々に広がっている段階であり、一気に普及する段階ではないという認識です。

本格普及はこれから。ただし遠くない未来

ーー確かに安易に実行できるものではないですね

ただし、今すぐでなくても良いと言っていたお客様も、最近はその余裕がなくなり、先延ばしができなくなってきているのも事実です。半導体製造装置や射出成形機などはCODESYSを使ったヨーロッパ流のものづくりへと先行してシフトしています。

その意味でソフトPLC、PC制御に関心を持っている人は、心臓手術をしてまで変えなければいけないと考えている人たち、いわゆるアーリーアダプターの人たちです。しかし産業ネットワークでこれだけEtherCATの勢いが増していることを考えると、いずれPC制御の方向へと大手術をしなければいけないと考える人はどんどんと増えてくると思います。日本はいまキャズムの深い溝にはまっていて、それを乗り越えられるかどうかの局面に来ています。

産業用ラズパイで食わず嫌いを解消

ーー溝を乗り越えるためには?

CODESYSがもっと広く知られる必要があることと、いきなり心臓手術に取り掛かる前に練習してPC制御に慣れていくことが大切です。そこに向けた商品として、2023年1月にCODESYS搭載の産業用ラズパイ「TRITON(トリトン)」を発売しました。

おかげさまで発売以来とても好評です。普段PLCを使っている人に使ってもらったところ、すぐに扱えるようになり、いいねと高評価をいただきました。ガラケーユーザーにスマートフォンを渡しても何となく操作できるように、PLCを触っている人であればTRITONもCODESYSもすぐに慣れ、実際に触ってみたらPLCとさほど変わらないことに気づくと思います。PC制御は食わず嫌いされているところもあるので、そこを解消していきたいと思います。

ソフトPLCは人手不足、生産性向上にも効果的

ーーソフトPLC、PC制御のメリットと今後の展開について

ソフトPLCの特長は、ハードウェアの選択肢が多く、最適なものを選べること。最低限のCPUとメモリ、Ethernetさえあれば装置を作ることができ、無駄にハイスペックなものを作らなくて済みます。逆を言えば、TRITONに搭載されているCODESYSも、産業用PCに搭載されているCODESYSも標準プログラムは共通であり、作ったプログラムを使いまわしたり、流通させやすいというメリットがあります。

例えば、コロナ禍の半導体や部品不足で1社依存は危険だと実感した人は多いと思います。ソフトPLCであればハードウェアは手に入れやすく、リスク回避にもなりBCPにも優れています。

また既存のPLCはメーカーごとに言語が異なります。それに対してCODESYSは標準プログラムであり、人手が足りない時は手伝ってもらったり、自分が手伝ったりすることも容易にできます。ソフトPLCの利用は人手不足対策としても有効で、実際にヨーロッパではCODESYSを扱える技術者は人材市場での価値が高く、重宝されています。

さらに、CODESYSは制御や通信、UI、データ処理、IOなど必要な機能を1つのソフトで作ることができます。日本では装置を作る際、それぞれの機能ごとに別々の人が作り、分業化されています。だからスピードが遅く、コストも高く、生産性が低くなってしまいます。CODESYSを使えば1人ですべて完結し、例えばHMIの画面作成もHTML5対応の画面作成機能で簡単に作れます。生産性を高めるという意味でも有効です。

今後CODESYSの普及に向け、①コントローラメーカーへのOEM、②装置メーカーへのソフトウェア提供、③TRITONの拡販という3つの戦略を継続して進めていきます。TRITONは直販と一部商社経由での販売に加え、このほどWEB通販でも購入できるよう仕組みを整えました。

TRITONがヒットしていることもあり、CODESYSの月間ダウンロード数もまったく知られていなかった10年前に比べれば今は100倍や200倍まで増えています。着実にCODESYSユーザーは増えてきており、今後も継続して普及に努めていきます。

https://linx.jp