製造業・FA各社の経営戦略と取り組み、最新技術・製品情報を各社キーマンに聞く

【ミスミ】オンライン部品調達サービス国内シェアNo.1 進化を続けるmeviyのいま 非効率解消と時間創出は次のステージへ

製造業の人手不足が深刻化するなか、これから増えていく仕事量をさばくには「①人手を増やす」か「②生産性を上げる」の2つの選択肢しかない。しかし働き手が減るなかで①実現困難。結局のところ、解決策は②の生産性向上だけとなっている。

生産性を高める手段はいくつもあるが、初期投資を抑え、いち早くスタートできるのが、すでに市場に存在するサービスの積極的な利用。製造業の領域でも多種多様な専門サービスが提供されている。コア業務以外は外部サービスを活用し、自らは価値を生み出す部分に集中する。それが先行き不透明な時代の生存術だ。

ミスミが提供する機械部品調達のAIプラットフォーム「meviy(メビー)」は、機械や装置を組み上げるのに必要な標準品以外の、図面から加工して調達するカスタム部品について、設計データをWEBにアップロードするだけで即時見積もり、そのまま発注、調達できる、カスタム部品のWEB通販として急成長を続けている。

meviyの現在とこれからについて、ミスミグループ本社 常務執行役員 ID企業体社長の吉田光伸 氏と、meviy Lab ジェネラルマネージャーの芝田 篤史 氏に聞いた。

2023年度ものづくり日本大賞 内閣総理大臣賞を受賞

ーーmeviyの現在地について

2019年の本格サービス開始からここまでの間、meviyとしてのミッション「ものづくりに『創造』と『笑顔』を」を掲げて取り組んできました。

当社は、表面的にはお客様から注文を受けた部品を作って提供している形ですが、私たち自身はお客様とエンドユーザーに「時間」を作り出し、「時間」を提供していると思っています。

設計者はアーティストのようなものであり、meviyを使うことで彼らがより創造的な部分に時間を使えるようにする。そして、それによって良いものが完成し、結果としてエンドユーザーが笑顔になる。そんな世界の実現を目指しています。

おかげさまでmeviyの顧客数は16万ユーザーまで増え、累計2500万件の図面アップロードがあり、国内のオンライン部品調達サービスとしては4年連続シェアナンバーワンとなっています。

またデジタルサービスとしては初めて「第9回ものづくり日本大賞」の内閣総理大臣賞を受賞し、製造業の人手不足解消に貢献しているだけでなく、グローバルにサービスを展開していることも高く評価いただきました。

紙図面とFAXでDXが進まない調達業務

ーーなぜいま日本の製造業にmeviyが必要なのでしょう?

これまで日本の製造業は、豊富な労働力と長時間の就労によって世界と互角以上に戦ってきました。しかしこれからは、人手不足で労働力が減り、働き方改革で労働時間も減っていくなかで昔以上の成果を出していかなければなりません。

そのためには「量から質へ」と改革レベルの大きな変化が必要で、その抜本的な対策がDX(デジタルトランスフォーメーション)なのです。

「設計」「調達」「製造」「販売」のいわゆるエンジニアリングチェーンのなかで、設計と製造、販売ではそれぞれCAD、CAE、ロボット、自動化、Eコマースなどデジタル化による生産性向上が進んでいます。しかし機械部品の調達だけはいまだに紙図面とFAXが使われています。当社が製造業5000社にFAX利用について調査を行ったところ98%が今もFAXを使っていることが分かりました。

紙図面とFAXが幅を利かせている調達工程がDXへのボトルネックとなっており、これをデジタル化して前後工程と一気通貫にしなければDXは実現しないのです。

AIとデジタルの力で調達DX

ーーアナログが非効率を生み出ししてしまっているということですね

部品点数1500点の装置を作る場合、3Dデータから紙図面を作成する、通称「図面ばらし」を1500点分行います。その後、加工業者にそれらすべての部品に対して見積もりと加工を依頼し、その回答と納品を待ちます。それらにかかる時間をすべて合計すると1台で約1000時間、125日にもなります。

仮に、日本の製造業各社がこの条件と同様の設備を年間1台ずつ設計した場合、38万社×1000時間の3億8000万時間の時間が年間で使われることとなり、コスト換算すると2兆円以上に上ります。

前述の通り、ものづくり産業で使える時間が減っているなか、今までのようなやり方と時間の使い方のままで良いのでしょうか?

meviyには、アップロードされた図面をAIで解析して即時見積もりを出す「AI自動見積もり」と、アップロードされたデータから自動で加工プログラムを作り、工場ですぐに加工を始める「デジタルものづくり」という2つのイノベーションが埋め込まれています。

これにより、今まで膨大な時間と手間がかかっていた機械部品の調達に対し、即時見積もり・最短1日出荷を提供し、製造業DXによる時間創出、調達のボトルネックの解消が可能になります。

利用は簡単。低価格化で量産にも対応

ーーそれだけの高度な技術によって作られているサービスだと、いきなり使い始めるというのは難しそうに感じます

全くそんなことはなく、設計データさえあれば簡単に使うことができます。

3D CADで設備や装置の設計をした後、見積もりたい部品の3Dデータを切り出し、それをmeviyの画面上でドラッグ&ドロップするだけです。meviyにアップロードされると製作可否をAIが判断し、問題がなければ材質や表面処理等を選び、公差設定など細かな設定を画面上で追加すると見積もりが表示されます。この間はわずか数分です。

納期に関しても、標準納期のほか、「価格は高めだけど短納期」「価格は安いけど長納期」など柔軟に選べるようになっています。納期が長くなってもコストを抑えたいというお客様からの声も多く、納期に応じた価格設定を取り入れました。

また、数量が増えると割引率も高くなるように価格設定を見直し、量産の場合、1個あたりが通常価格から最大で70%OFFとなるような形になっています。見積もりが表示されると型番が発行され、標準品と同じように型番から同じ価格で何度も注文できるので調達部門の方にも喜ばれています。

以前のmeviyは、試作品や一品物向けのサービスというイメージでしたが、いまでは量産にも十分に対応でき、実際に量産にも使っていただけるお客様が増えています。

欧米、アジアでもサービスイン

ーー日本だけでなく、海外でもすごい勢いで成長していますね

地域としては、2019年4月の日本を皮切りに、2021年にヨーロッパ、2022年にアメリカ、2023年10月に中国、2024年2月にはアジアでサービスを開始し、世界で5つの地域まで広がりました。納期と数量に応じた価格設定としたことで試作品から量産品までカバーできるようになり、お客様も広がっています。

さらに利用者層についても、面白いところでは教育機関、学生にもかなり使われていて、日本の教育機関の約3割がmeviyを活用しています。「meviy for education」として教育機関向けに特別なプログラムを用意し、年間最大10万円分のクーポンを提供し、学生の支援を行っています。

また、人材育成という面では、企業でmeviyが新人や若い人の教育・研修用途にも活用されています。

meviyはアップロードされた図面のなかに製作できない部分があると、それを指摘して解決策もレコメンドで教えてくれます。若手はmeviyで何度もアップロードと修正を繰り返して試すことで正しい設計のコツを学ぶことができ、企業からは教育ツールとしてとても有効だという声もいただいています。24時間365日稼働していて、meviyは何回失敗しても怒らないことから、若い人にとっての良いトレーナーとなっているようです(笑)。

2D図面に対応 meviy 2D

ーーサービスもどんどん進化していますね

2019年の本格展開開始から現在までに5000件以上のお客様の声(VOC)を基にバージョンアップをしてサービスを拡充してきています。

加工方法は、今までは板金と角物・丸物の切削でしたが、2023年から溶接も提供を開始し、設備設計における一通り必要な部品は提供できるようになっています。

また2023年6月からは「meviy 2D」として2D図面にも対応可能となりました。これまでは3Dデータのみ対応でしたが、日本は2D図面も多く、2Dに対応して欲しいという声も多いことからスタートし、1年弱でmeviy2Dの利用ユーザーは1万人を超えました。

次なる課題は「図面検索」

ーーmeviyの次の展開とは?

設計者や調達担当者がどんな業務に時間をとられているかを調査したところ、上位は作図や図面ばらし、見積もりなど設計にまつわるものでしたが、それに続いたのが「過去図面の検索」や「過去の類似品の検索」でした。実に6割以上の人が図面探しに課題を感じており、彼らの職種も設計者だけでなく、生産技術や購買部門も含めた幅広い職種に広がっていました。

実際にどれくらいの時間が図面検索で浪費されているかを計算してみると、エンジニアリングチェーンの全体にわたって年間で6171万7500時間の非効率が生まれていることが分かりました。

そこで、図面検索の課題に対して、新サービスとして開発したのが機械部品の図面データ検索AIサービス「meviy Finder(メビーファインダー)」です。

図面探しの手間を解決する新サービス「meviy Finder」

ーーmeviy Finderとは?

meviy Finderは、ユーザー毎に図面をアップロードして管理できる専用スペースを提供し、必要な図面をAIですぐに見つけられるというサービスです。

ユーザー専用の図面格納スペースに図面をアップロードするとAIが図面を認識してデータベースを作成。ユーザーはそのデータベースからキーワードによる図面検索や類似図面の検索、図面データのチームでの共有ができるようになります。

図面の情報はAIが自動で認識して構造化するので、利用時に図面情報を手入力する必要がなく、類似検索も検索結果を類似度のスコアと合わせて一覧表示するので1つずつファイルを開く手間なく使えます。またデータ共有もクラウドストレージのように手軽にチームで図面データを共有できます。

クラウドでの図面データの保管から検索まで無料で利用可能

ーークラウドに自社専用の図面管理スペースを構築するようなものですね

その通りです。

しかもmeviy Finderの利用料金はすべて無料です。無償で提供しています

無料で使える秘密

ーーなぜ無料で提供する/できるのですか?

こうしたサービスは、設定と利用に数十万円、数百万円かかるというのが一般的だと思います。しかし当社は、「電気、水道、ガス、ミスミ」といった形で自社サービスは製造業のインフラと考えており、meviyやRapid Design,FRAMESといったサービスもすべて無償で提供しています。meviy Finderも同様です。

当社は物販で収益を上げており、サービスの利用料などそれ自身でお金を取ろうとは考えていません。

非効率解消のため、これからも進化を続ける

ーー今後のmeviyの展開について

meviyによって調達の問題を解消してきて、次はmeviy Finderで調達以外の分野での時間価値の提供を進めていきます。製造業のエンジニアリングチェーンには非効率はまだたくさん残っています。meviyは3Dからスタートし、2Dに広がり、これから第3弾、第4弾と色々な計画があります。これからもmeviyを進化させていきますので楽しみにしていてください。

https://meviy.misumi-ec.com/ja-jp