FAにとどまらず、社会のあらゆるシーンで自動化のニーズが高まるなか、ワゴジャパンも産業用PC(IPC)やコントローラの提案を強化している。特にLinuxベースのOSにソフトPLCとしてCodesysを搭載したコントローラは、特価キャンペーンで予定台数が売り切れとなるなど好評を得た。さらに今冬には性能を向上した新製品を発売する予定となっている。
そんな同社に、現在のIPCやコントローラ市場の状況と、同社の取り組みについて、ワゴジャパン PMオートメーション/インターフェース プロダクトマネージメント コントローラ アシスタントマネージャーの東条 弘 氏に聞いた。
インダストリー4.0の世界が現実になりはじめた
ーーIPCを含めた最近のコントローラ市場についての印象は?
ひと昔前に言っていたインダストリー4.0で描かれた構図がようやく実現してきたという印象です。現場レベルのフィールド層にPLCやリモートI/Oがあり、エッジ層にハイエンドのエッジコントローラがあり、上位のIT層にサーバーやクラウドがあるという形。以前は夢物語であり、ここまでやる人や企業があるのかという印象でしたが、この5年くらいで具体的な話になってきていると感じています。
ーーその要因は?
データを収集して分析するということがキーワードになり、PLCやコントローラに大量のデータを扱うための高性能なパフォーマンスが求められるようになってきています。
以前は、フィールド層にあるPLCの機能に対しての要望が多かったのが、今はエッジも含めて、集めたデータのファイルを送りたいとか、PLCプラスアルファ、制御以外の部分に対する要求が増えてきています。だからPLCとは別にIPCを置いて情報系の機能を補完していたりするのだと思います。
IPCを使った新しい制御がトレンドに
ーーIPCの勢いが増しています
確かにいまIPCを使った制御や計測に取り組んでいるところも増えていて、特定の業界においては、PLCが担っていた制御部分を性能の良いハイエンドのコンピュータにまとめようという動きは以前からあるようです。PLCレスや現場に制御盤を置かずにクラウドにまとめ、コントロールはIPCで行うような形を模索する動きもあり、IPCの勢いがあるのは確かだと思います。
だからといってIPCがPLCに置き換わるという時代が本格的に来たとは思っていません。いまIPCで色々とやっている方々は、IPCでできること、ここまでなら大丈夫という見極めを行っている段階だと思います。
汎用機器のIPCと、制御に特化した専用機器のPLCの間には、CPUや処理性能といったスペックだけではなく、瞬断への対策やIOの拡張性という違いもあります。そのためそれぞれに得意な領域や使われる世界、ニーズは少し違っていて、将来的にもPLCがなくなることはなく、用途や場所によってIPCと使い分けていくのだと思います。
SDGsをきっかけに世界規模でIoTやデータ活用が本格化
ーーこうした変化のきっかけは何だったのでしょうか
要因は色々ありますが、データ活用やIPCの導入を加速させたのは世界的なSDGs、カーボンニュートラルの動きが大きいと思います。
よく「IoTを導入してデータを活用することで装置の稼働率を上げて生産性を高めよう」と言われますが、これはユーザー企業にとって「義務」ではありません。しかも、すでにユーザー企業は何十年も改善を積み重ねてきており、絞り切った雑巾をさらに絞るようなものです。絞り切るところまでやったとしても、売上や利益が大きく変わるかと言ったら、そこまで劇的に変わるものでもありません。
一方で、SDGs、カーボンニュートラルは世界中のすべての国々とすべての企業に課された義務であり、ユーザー企業は自社のCO2排出量について正しいデータを報告しなければならなくなっています。極端な話、電力やガス等は月々の使用料金として電力・ガス会社から請求が来るので、何もしなくてもどれだけ自社が使っているかが分かります。CO2排出量も計算によって導き出すことができます。しかし今まで以上に消費電力量を減らし、CO2排出量を削減しようとしたら、個々の設備からデータを集めてモニタリングをしないとどこから手をつければいいか分かりません。
さらに世界では、もっと厳密に、調達した部材や販売した自社製品からのCO2排出量など間接的なCO2排出量である「スコープ3」の報告が義務化され、ドイツではすでに法令でそうなっています。上場企業だけでなく、非上場企業に対しても義務化されており、当社もデータを公開しています。
日本では大企業に対してのみ適用されるようですが、サプライチェーンに組み込まれている中小企業にもその影響は及ぶ可能性は十分にあります。特に海外企業と取引している企業や、海外向け製品に使われる部材を供給している企業に対しては、取引先から詳細なCO2排出量データを求められていくかもしれません。
そうした世界的な流れがIPCやコントローラ、IoT市場の動きに大きく影響を与え、それはこの5年ほどで急激に加速したと見ています。
もうひとつユーザーに影響を与えた大きな動きとして「産業用イーサネットの普及拡大」もあります。
当社がコントローラを出し始めた頃の機器間の通信ネットワークは、PROFIBUSやCC-Linkなどのある種の専用ネットワークであるフィールドバスが一般的でした。その後、イーサネットという汎用的なネットワーク技術を土台にしたPROFINETやCC-Link IE、EtherCATなど産業用ネットワークが出てきて潮目が変わってきた印象があります。
専用の技術から汎用の技術を応用した新しい技術が出てきて市場が拡大し、さらに関連する市場にも影響を与えて変化を加速していったと見ています。
WAGOの取り組み CC100のスターターキットが完売
ーー御社の取り組み
当社でも産業用PCとコントローラを取り扱っていますが、最近はPC制御に対して関心の高さに驚いています。
昨年秋に小型コントローラ「CC100」のスターターキットが100台限定で安く買えるというキャンペーンをやったところ、応募が殺到しすぐに売り切れてしまいました。好評だったため今年6月に再販を行なったのですが、これもほぼ売り切れ。当初、社内では売り切るのは無理だろうという声があったのですが。良い意味で予想が裏切られました。はじめは購入できるのは法人のみに限っていましたが、個人からの問い合わせも多く、急遽個人向けの販売もはじめました。購入者向けの使い方セミナーも好評で、多くの方に参加いただきました。
ーーどんな方が購入されていたのですか?
あくまで私見ですが、趣味と仕事で半々くらい。展示会や後追いでフォローした時には「買いたかったけど売り切れていた。またキャンペーンをやってほしい」「簡単なモーションシステムを作ってみた」「シリアル通信ができるので、ゲートウェイ的な形で使ってみた」という方がいました。一番多かったのは「とにかくいじり倒したい」という声で、熱心な方が多くいることが分かりました。
PC制御としてRaspberry PiとCodesysの組み合わせも人気ですが、一方でそれだけでは物足りない人は多く、今回のキャンペーンでは、産業用を使ってみたいという潜在的な層を発見できたのかなと思います。Raspberry Piの場合、ソフトウェアライセンスをはじめ、本体以外にも用意しなければいけないものが多く、CC100はすべて揃っているので、便利で、そのあたりも受け入れられたのではないでしょうか。
PLCのように使えるコントローラ新製品「PFC300」
ーー関心の高さがうかがえます
その一方で、具体的に現場への導入を検討していた方からは「想定していた用途にはスペックが足りなかった」という方もいました。
そこで、これから提案を強化していくのが、今冬発売予定の産業用PCとCC100の中間に位置するコントローラ「PFC300」です。
PFC300は、LinuxベースのOSを搭載したコントローラで、従来モデルのPFC200はCPUが32ビットシングルコアでしたが、PFC300では64ビットのデュアルコアを搭載し、処理能力が格段に上がり、より高度な要求にも対応できるようになりました。IOは増設して入出力をつなげることができ、PLCと同じように使うことができます。内部のフラッシュメモリは32GBあり、これまでの4GBから大幅に大きくなりました。
CC100は、オールインワンで1台で何でもでき、安価で手軽に制御を試すのに最適ですが、入出力は8点までで、拡張性がないのに対し、PFC300は、PLCのように拡張してモジュールを増やしていくことができ、さらに上位システムとも連携しやすいというメリットがあります。
WAGOのIPC・コントローラの認知を高めていく
ーー今後について
PLCは今後も制御分野で残り、現場や設備では継続して使用されていくと思います。
一方で、従来のPLC制御をより高機能なPCでの制御に置き換えを検討されている層がいるのも事実です。当社はそうした方々をターゲットにCC100を使った簡単な制御からスタートして、ソフトウェアPLCへのステップアップを提案していきたいと思います。
最近は太陽光発電システムの遠隔監視・制御や鉄道分野、ビルオートメーション分野での制御+監視用途での引き合いが多くなっています。
これ以外でもニーズは多く、WAGOのIPC(エッジコンピュータ)やコントローラの認知度を広げていきます。
また、新製品としてLinuxOSベースの新しいOSであるctrlX OS(コントロールエックス)搭載のコントローラの発売を予定しています。
ctrlX OSは、データレイヤーという機能を活用し、CODESYSベースのアプリケーションとLinuxアプリケーションのデータ共有を容易に行えるデバイスです。
ctrlX対応機器同士でデータレイヤー上で同期・データ共有できることも特長で、新しい概念の機器となります。今後は、ctrlX OSも含めてソフトウェアPLC、PC制御としての知名度を高めていきたいと思っています。