半導体製造装置やバッテリ製造装置、産業用ロボット、工作機械など、緻密な動作が求められる機械の駆動をつかさどるサーボシステム。自動化需要の高まりと機械性能の向上にともなって採用が加速しています。
三菱電機のサーボ事業は、1983年に名古屋製作所でACサーボの生産を開始して市場に参入してから40年を過ぎ、新展開を見せています。三菱電機 名古屋製作所 ドライブシステム部長の 岡室 貴士 氏に話を聞きました。
年々拡大を続けるサーボシステム市場
ーーサーボシステム市場の景況感ついて
ACサーボ市場は浮き沈みありながらも右肩上がりで成長し、輸出額も年々増加しています。直近ではコロナ禍でPCとスマートフォン、半導体需要によって成長し、その後の部材不足によるパニックバイが発生し、2022年は特需によって過去最高の出荷額となりました。2023年は半導体需要が一段落して踊り場になりますが、2024年以降はまた伸びていくと予想されています。
※出典:未来を拓くサーボシステム2021~2022(日本電機工業会)
ーー伸びている背景は?
サーボシステムは、半導体・FPD装置、産業用ロボット、電子部品実装機、工作機械などで多く使われ、近年はリチウムイオンバッテリ製造装置での需要が増えています。それ以外の成形機や食品機械や包装機械、搬送機械などの産業用機械でも広く採用され、世界的な自動化需要の伸びによってサーボシステム市場全体が底上げされています。
それに加えてリチウムイオンバッテリ製造装置など新たな需要が生まれ、さらに機械の高速・高精度化に向けてモータのサーボ化が進んでいるということも追い風になっていると思います。
※出典:未来を拓くサーボシステム2021~2022(日本電機工業会)
自動化や電動化、バッテリ需要など成長要素が多数
ーー今後の伸びについては?
市場環境として、カーボンニュートラルやSDGs、脱炭素に向けた要求が高まるなか、サーボシステムによる電動化は油圧機器よりも省エネ・省資源化に効果的で、置き換えが期待できます。
欧米ではEV化の加速によってリチウムイオンバッテリ需要が高まり、現地でのバッテリ新工場の建設も進んでいます。また地政学的リスクによって生産工場が中国からASEANやインド、東欧といった新興国や周辺国に移行し、新しい地域の成長機会も出ています。
その一方で、お客様の状況や、競合企業も含めた技術や製品を取り巻く環境が変化しています。市場環境としては成長が期待できますが、製品・技術環境の変化にはうまく対応していく必要があります。
いまサーボシステムに求められている製品・技術的課題
ーー具体的にはどのような変化が出てきていますか?
例えば、サーボシステム単体としてみると速度や精度などの基本性能は成熟傾向にありますが、ここ数年は調達難や納期問題など市場に不安定さがあり、お客様は品質やコストをいっそう重要視するようになっています。
サーボシステムをつなぐネットワークについても、近年は特定領域でEtherCATの需要が増大し、そこへの対応が求められるようになってきました。
制御もシーケンサだけでなく、ソフトモーションなどPCベースの需要も拡大しつつあります。
DX化にともなって機器診断や予兆保全などIoTやクラウドを活用したいという声も高まっています。
OT領域へのサイバー攻撃も増えてきており、欧州サイバーレジリエンス法が公表されるなど、FA機器にもセキュリティ対応が必須になってきています。
また、リニアトラックのような新技術の登場や、ステージとの組み合わせ技術、パートナー連携による共創など、サーボシステムも単品販売ではなく、駆動ソリューションとして提案領域が広がっています。
こうした変化に対し、これまで長年培ってきた「サーボモーション制御技術」と、多くのお客様と接してきたフィールドの知見を活かした「業種別アプリケーション」、近年力を入れている先進的なデジタル技術である「デジタルツイン」を掛け合わせ、MELSERVO J5を中心に、お客様と共創しながら理想を超えるサーボソリューションの提供に取り組んでいます。
主力機種MELSERVO J5の5つの強み
ーーMELSERVO J5について
MELSERVO J5は2019年に発売した現行の主力機種で、5つのコンセプトが特徴の製品です。
ひとつ目は「先進性」。基本性能の高さは最も重要な要素で、高速・高性能・多軸化し、振動抑制も備えています。プログラムも国際規格のIEC 61131-3に準拠したファンクションブロックを採用し、機能安全にも対応しています。
ふたつ目が「接続性」。ネットワークにはCC-Link IE TSNを採用し、時間同期した大量のデータを取り扱いでき、データ活用に効果的です。またEtherCATにも対応し、産業用PC向けにもモーションソフトウェア「SWM-G」を用意しています。
3つ目が「操作性」。easy to useのために結線方式を一新し、ケーブル2本だったところをコネクタ1つにまとめ、簡単にワンタッチ接続でできるようになっています。またゲイン調整の容易化、クイックチューニング機能の追加、容量や機種選定のしやすさなども強化しています。
4つ目が「保全性」。エンコーダにバッテリレスアブソリュートエンコーダを採用し、現場でのバッテリ交換が不要になっています。またリチウムバッテリを搭載していると空輸に制限がかかりますが、MELSERVO J5ではその心配もなく、お客様のお手元に早く届けることができます。
また予知保全機能を搭載し、サーボシステム本体だけでなく、ギヤやボールねじ、ベルトなどの故障も予知できるように機能強化しています。またドラレコ機能で故障やトラブルが発生した際のデータも保存でき、効率的なメンテナンスが可能になります。
5つ目が「継承性」。お客様の資産を無駄にしないため、SSCNETIII/H、MELSERVO J4といった従来機種との取り付け互換性やプログラムの再利用もできるようにし、ハードウェアだけでなく、ソフトウェアの継承性も担保しています。
EtherCAT、ソフトモーション対応でオープン戦略鮮明に
ーーネットワークはCC-Link IE TSNとEtherCATに対応しています
MELSERVO J5から正式にEtherCAT対応になりました。
高性能なCC-Link IE TSNを中心としながら、急速に伸びているEtherCATにも対応し、CC-Link IE TSNとEtherCATの両輪でお客様の要望にお答えできるようになっています。
ーー産業用PC・ソフトモーションにも対応しました
産業用PCで制御したいというお客様も増えており、シーケンサと非シーケンサの両方に対応できるよう環境を整備しました。
2022年から当社独自のモーションソフトウェアとしてSWM-Gを開発し提供をはじめ、2023年にはソフトモーション専業のモベンシスと協業し、産業用PCベースのソリューション拡大を進めています。SWM-GはCC-Link IE TSNとEtherCATに対応し、より広い分野とお客様で採用しやすくなっています。
ーーこれまでに比べてオープン色が濃く感じます
MELSERVO J5はオープン化を意識した製品となっており、ネットワークではCC-Link IE TSNで高性能化を突き詰めつつ、需要の多いEtherCATで領域を広げています。制御についてもシーケンサだけでなく、ソフトモーション・産業用PCの制御にも道を拓き、より便利に多くの方に使ってもらえるようオープン化を進めています。
高速・高精度・高応答性+アルファで付加価値向上目指す
ーー今後に向けて
1983年にサーボ事業に参入し、これまでお客様のニーズに合わせて小型・省エネ化を進め、高速・高精度・高応答性を進化させてきました。
モータはネオジム磁石の採用、高密度巻線による推力の強化、リニアやダイレクトドライブ型の開発、いまはリニアトラックまで進化してきました。2020年には、HKシリーズが日本機械工業会が主催する「優秀省エネ機器・システム表彰」で資源エネルギー庁長官賞を受賞しました。磁石や銅、鉄など主要材料の使用量を減らし、業界最高クラスの性能と最小クラスのサイズが評価されました。
エンコーダも小型化・高分解能化し、バッテリレスになり、サーボアンプも、パワーデバイスにMOSFET、IGBTを採用してきて、今後はSiCやGaN化も検討を進め、省エネやロス低減を進めています。1999年にMELSERVO J2-Superシリーズを発売し、実装機などに採用されてベストセラーになり、2003年にJ3シリーズ、2012年にJ4シリーズを発売し、いまはJ5シリーズへの置き換えを進めています。
製品として基本性能は高く、満足いただけるものが揃えていますが、お客様の評価軸は別のところにも広がってきています。引き続き基本性能を高めつつ、デジタルツインや装置の高性能化、エネルギーマネジメント、カーボンニュートラルや省エネ・省資源への貢献など、よりお客様のご要望にフィットした付加価値向上に向けた共創活動を進めていきます。
https://www.mitsubishielectric.co.jp/fa/
左から営業部 サーボシステム課長 中川 新 氏、岡室 氏、機器マーケティング部 サーボシステムグループ グループマネージャー 金森 明 氏